
水先人(パイロット)の役割と責任範囲 パナマだけ違うというお話し
パイロットといっても飛行機の操縦をする人の話ではない。
ここでは水先人と呼ばれる人の仕事を紹介する。
外航船は通常港が近づくと、Pilot Stationと呼ばれる地点で水先人を乗船させる。水先人はその港の情報を知り尽くしたエキスパートで、船長をサポートして安全に船を着岸させる。
もともとはその港や湾内の暗礁などの情報を案内する役割で「水先案内人」と呼ばれていたが船長に代わりパイロット自ら操船指揮を取るのが現在のスタイル。

一方で大型客船などではいまでも案内業務だけで着岸時は船長が自身で操船しているとのこと。
どちらのケースでも、最終的な指揮権は常に船長にあり、船が衝突や乗り上げをしても基本的にパイロットは責任を負わない。あくまでも案内、情報提供をしただけなのである。

船長の代わりに操船をしていながら、操船指揮権は船長にある。というのが世界共通の理解。
ただし、世界でただ一つ、パナマでは状況が異なる。
パナマ国の法律では水先人(Panama Canal Pilot)は船を指揮する(Command)と明確に記載がある。
パイロット自ら操船するというやり方は他の国々と変わらないが、最も違うのは事故があったとき。パナマではパイロットの操船が原因で衝突、乗り上げがあった場合はパイロットがその責を負い賠償金を払う。
大型船の事故で生ずる賠償金は相当な額になるが、このためにパナマパイロット協会ではお金を出し合ってファンドのようなものを設立しているとのこと。
このような経緯もあり、パナマの水先人は世界一プライドが高いことでも知られる。自身も水先人の操船に口を出してひどく怒られた経験がある。
船長での最初の航海でパナマ通峡で神経質になっていたこともあり、口の出し方が良くなかったと思うのだが、大変気分を害されて面倒だった記憶がある。
それではパナマ海峡を通峡中に実際に事故が発生したときにどうなるか、というとまず初めに本船はパナマ当局に事故による損傷調査、原因調査を行うかどうかの決定を迫られる。
この調査には丸1日程度かかるため、パナマ運河を出たあとバルボア錨地(太平洋側)乃至クリストバル錨地(大西洋側)に錨泊してパナマ運河庁から派遣される事故調査団が来るのを待たなければならない。
もし事故調査を受け入れない場合はこの先未来永劫本件についての請求権を失うことになる。

事故が水先人の責任であると判断され損傷による賠償額が認められれば支払いがなされるが、この調査により本船のスケジュールが遅延したことについては補償がなされない。
船が運航停止していることによるオフハイヤーや、遅れを取り戻すための増速による燃料消費は船主側の損丸かぶりとなる。
なので、事故発生時は速やかに損傷の程度を把握、事故調査を受け入れるかどうか、スケジュール遅延と天秤にかけて運河通峡の終わりまでに宣言する必要がある。
非常に高度かつ迅速な判断が求められるのである。