鼻歌から始まった87秒。振り返らないけんたの背中
完成したはずの映像を見ていたら、海岸を走るけんたの脚が途中から増えていました。
二本脚で走っていたはずなのに、いつの間にか四本脚。
しかも、それなりに自然に走っています。
AIにとっては、これでも映像として成立しています。
でも僕が見れば、これはもうけんたではありません。
今回作ったのは、空手猫ベビィ「けんた」を主人公にした約87秒のミュージックビデオ。
曲名は、
『Run Through the Blue』
雨の中を走り、道場で拳を振り、仲間と組手をし、最後は海へ向かって走っていく。
小さなけんたの、少しストイックなMVです。
最初にあったのは、ただの鼻歌
頭の中に浮かんだメロディを、そのまま鼻歌で録音しました。
最初からAIに「格好いい曲を作って」と任せたわけではありません。
曲の芯になったメロディは、自分で思いついたものです。
もちろん、きれいなデモ音源ではありません。
「こんな感じの曲にしたい」
そのくらいの、ごく簡単な鼻歌です。
そのメロディに合わせてChatGPTと歌詞を作り、そこからAI音楽制作につないで、一曲に仕上げていきました。
出来上がった歌詞には、
もう後ろは振り向かない
もう立ち止まらない
たとえ倒れても
本物を追いかけていく
という一節があります。
サビでは、
青空の中を 俺は走り続ける
君に届くために すべての壁を壊して
胸を熱く燃やしながら
光の中へ進んでいく
と続きます。
完成した曲は、少しクセが強いかもしれません。
でも、最初から自分の鼻歌が芯にあるので、きれいに整いすぎていないところも含めて、この曲らしいと思っています。
完成した『Run Through the Blue』を聴いているうちに、頭に浮かんだのが走っているけんたでした。
まだ強くはないけれど、強くなりたくて走り続ける。
その姿を、この曲の中に置いてみたくなりました。
けんたは、まだ強くない
けんたは、まだ小さな猫ベビィです。
2.5頭身で、大きな頭に短い手足。
今は、そんなに強くありません。
でも、強くなりたいという気持ちはかなり強い。
雨の中を走る。
道場で何度も拳を振る。
海岸を走り込む。
仲間と組手をする。
今回のMVでは、そんな少し泥臭いけんたを、スポーツ漫画やスポーツアニメのオープニングのような熱い映像で見せたいと思いました。
ただ、そこでけんた自身まで大人っぽくしてしまうと違う。
僕が欲しかったのは、
格好いいけんたではなく、可愛いけんたが格好いい映像の中にいること。
映像は熱くする。
でも、けんたは小さいまま。
そこは最後まで崩したくありませんでした。
静止画では良くても、動かすと壊れる
開始画像をChatGPT Imageで作り、その画像をKling Video 3.0 Omniで動画にしました。
Flova上で各シーンの生成や差し替えを進めながら、約87秒のタイムラインを組み立てていきました。
静止画では問題がなくても、動かした瞬間に壊れることがあります。
四本脚になったけんたも、その一つでした。
二足で走っていたはずなのに、途中から脚が増える。
組手でも同じような破綻が起きたため、指示には、
腕2本、脚2本、しっぽ1本。
とまで書くようになりました。
空手の組手をする仲間の「しろ」が別の猫になったり、顔のアップでは途中から毛色が変わったりもしました。
AIが映像を最後まで作れても、そこにいるのがけんたでなければ使えません。
格好よくしようとすると、大人になる
別のシーンでは、私服姿のけんたが妙に大人っぽくなりました。
身体が細長くなり、立ち姿まで青年のようになる。
映像としては格好いい。
でも、それでは猫ベビィのけんたではありません。
そこで動画だけを直すのではなく、開始画像から作り直しました。
小さな身体。
短い手足。
幼い表情。
格好いい映像を作ることと、キャラクターそのものを格好よく変えることは別です。
今回は、その境目をかなり意識しました。
壊れていなくても、作り直した
完成が近づいた頃、けんたと仲間の「くうた」が海辺を一緒に走るシーンにも違和感がありました。
脚が増えているわけでもない。
キャラクターが変わっているわけでもない。
大きな破綻はありません。
それでも他のカットと並べると、少しだけ画が弱く見えました。
海の光。
砂浜の質感。
二匹の距離。
毛並み。
画面の奥行き。
一つだけ見れば問題がなくても、MV全体の中では差が見える。
そこで、このシーンも画像から作り直しました。
AI動画では、破綻しているかどうかだけではなく、
そのカットが作品全体の中で浮いていないか。
そこまで見て、採用するかを決めました。
どうしても、けんたが振り返る
今回、一番こだわったのはラストです。
白い道着のけんたが、海へ向かって走っていく。
背中をこちらに向けたまま、少しずつ遠ざかって終わる。
それだけのシーンです。
ところがAIは、何度作っても途中でけんたを振り返らせました。
こちらを見る。
カメラ目線になる。
海へ向かっていたのに、こちらへ走ってくる。
でも、この場面だけは絶対に振り返らせたくありませんでした。
歌詞に、
「もう後ろは振り向かない」
とあるからです。
映像でも、本当に振り向いてほしくなかった。
そこで、
「最後の1フレームまで海を向く」
「絶対に振り返らない」
「カメラは前へ回り込まない」
「後ろ姿のまま遠ざかる」
と細かく指定しました。
何度かやり直して、ようやく求めていた映像になりました。
約1日半かけて完成へ
完成まで約1日半。
生成した映像を確認し、必要なら動画を作り直す。それでも直らなければ、開始画像まで戻る。
その往復を繰り返しました。
最初は、ただの鼻歌でした。
そこに歌詞が付き、曲になり、映像になった。
途中で脚は四本になったし、別の猫にもなった。
何度もこちらを振り返った。
それでも作り直して、
最後のけんたは、もう振り返りません。
白い道着の小さな背中のまま、海へ向かって走っていきます。

