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説明不足な夜に


    世界は説明で溢れている。

    街を歩けば「2時間飲み放題3000円」のポップを目にするし、ドライブスルーではエビフィレオが期間限定だという説明を聞いて、スーパーではセルフレジの説明を受ける。
    出口の方には「当店は店員の髪型、ネイル、服装が自由です」というような説明書きがある。

    テレビやYouTubeを見れば今日の企画の趣旨説明から入るし、アニメを見れば、敵がどれくらい強くて、どう攻撃するのが有効なのかを誰かが説明してくれる。

    芸能人がスキャンダルを起こすと、どういった経緯でそうなったのかを説明しろ!という声があがる。

    かくいうぼくも、いかに世の中が説明で溢れているかを説明している。

    ぼくらは説明過多な世の中で、説明が足りないものに違和感を抱くようになってしまったのかもしれない。

    最近、昔ながらの飲み屋街に行った。その中でも古びた二階建ての飲み屋ビルが二棟ある。それは向かい合っていて、どちらかに入れば鏡に映ったみたいに同じようなビルが目の前にある。

    ぼくはレコードが聴けるバーに入った。

    メニューもなかったので、ぼくはウーロンハイが作れるかを聞いて、マスターの食べかけのポテロングを食べさせてもらった。

    エルヴィス・プレスリーが流れていた。やけにハワイアンなプレスリーだった。

    プレスリーはハワイアンにハマっていた時期があるらしい。あとで自分で調べた。

    棚に置かれたレコードを流してくれるんですか?とぼくは聞いた。

    マスターは「気に入ったやつがあれば」と言って、自家製っぽいらっきょう漬けを出してくれた。

    タバコを吸いたくなって、外に灰皿があるのを思い出した。

    「タバコ吸ってきます」と告げる。マスターはカウンターの中で低い丸椅子に座って返事をした。

    二階のフロアからぼんやりと向かいのビルを見つめてタバコを吸っていると、白髪のリーゼントのおじさんが出てきて、同じくタバコを吸い出した。

    ぼくらはしばらく向かい合って、タバコを吸った。

    「そっちは何の店?」

    向かいのビルからおじさんが話しかけてきた。

    「レコードの店です」

    おじさんは“あちゃー”とでもいうような表情をした。

    おじさんが出てきた店からは、カラオケの音がひっきりなしに聞こえてくる。

    “あちゃー” の説明はなかったが、ぼくらは笑ってしばらく喋った。

    店内のBGMはストレイ・キャッツに変わっていた。

    教えてもらったわけではないがその曲を知っていた。

    隣に座っていた、1人で来ていた男性とかなり喋った。

    日々の支払いは自分の口座で、貯蓄は奥さんの口座なんだそうだ。そして、黄色いオニツカタイガーのスニーカーが奥さんとお揃いだということを教えてくれた。

    帰り際マスターに
    「弟がウザ絡みしてごめんね」
    と言われた。

    弟だという説明は最後の最後までなかった。

    が、ぼくは説明不足な夜をウザいとは思わなかった。

    過ごしやすい夜風に吹かれて帰った。
    梅雨はまだ明けていないらしい。






     
     
    実家はスーパーマーケットの上。 その屋上で育ち、世に放たれました。 最終回だけ見てないドラマをいくつか抱えながら、 舞台にも立ちます。 (初恋クロマニヨン)

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