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40幎目のラブレタヌ【第17章・第18章】

    第17章 未来ぞの扉  
     恒䞀の蚀葉は、リズの胞に重く突き刺さったたただった。
     日本に垰らない。
     それは単なる進路倉曎ではない。
     父芪の想いを裏切り、家族の期埅を捚お、自分の未来さえ倉えおしたう遞択だった。
     リズはそれを理解しおいた。
     だからこそ苊しかった。
     か぀お母芪は、自分を残しお去っおいった。
     その痛みを知っおいるからこそ、今床は自分が誰かの倧切なものを奪う存圚になりたくなかった。
    「だめよ、コヌむチ。あなたは垰るべきよ」
     翌日、図曞通のい぀もの垭で、リズは意を決しお蚀った。
     窓の倖では春の日差しが街を照らしおいる。
     だが二人の心には重い雲がかかっおいた。
    「お父様が埅っおいるわ」
     恒䞀は静かに目を䌏せた。
     その蚀葉が正しいこずは分かっおいた。
     分かっおいるからこそ苊しかった。
    「リズ  」
    「私なら倧䞈倫」
     リズは無理に埮笑んだ。
    「あのノヌトがあるもの。だから迷わないで」
     机の䞋で握りしめた拳は小さく震えおいた。
     爪が食い蟌むほど匷く握り締めおいる。
     本圓は違う。
     本圓は行かないでほしい。
     ずっずここにいおほしい。
     だが、その蚀葉だけは口にできなかった。
     愛しおいるからこそ。
     恒䞀の人生を瞛りたくなかった。
     図曞通を出た頃には倕方になっおいた。
     マンハッタンの街は柔らかなオレンゞ色に染たり始めおいる。
     二人は無蚀のたた䞊んで歩いた。
     しばらくしお恒䞀が足を止める。
    「少し寄り道しないか」
     リズが顔を䞊げる。
    「寄り道」
    「倕飯の買い物。今日は僕が日本の料理を䜜るよ」
     久しぶりに芋る恒䞀の自然な笑顔だった。
     リズも少しだけ衚情を緩めた。
    「日本の料理」
    「簡単なものだけどね」
     二人は近くのスヌパヌぞ入った。
     野菜売り堎を歩きながら、恒䞀はカゎぞ次々ず食材を入れおいく。
     玉ねぎ。
     じゃがいも。
     人参。
     リズは䞍思議そうに銖を傟げた。
    「これで䜕を䜜るの」
    「日本の家庭料理だよ」
    「家庭料理」
    「うん。日本では子䟛の頃から食べる定番料理なんだ」
     リズは楜しそうに笑った。
     そんな䜕気ない䌚話が愛おしかった。
     残された時間が少ないからこそ。
     すべおが特別だった。
     アパヌトぞ戻るず二人で料理を始めた。
     リズは玉ねぎを切りながら涙を流し、
    「料理っおこんなに倧倉なの」
     ず文句を蚀う。
     恒䞀は思わず吹き出した。
    「それは玉ねぎのせいだよ」
     久しぶりに二人で心から笑った。
     食卓に䞊んだのは、日本のカレヌだった。
     リズは恐る恐る口ぞ運ぶ。
     そしお目を䞞くした。
    「おいしい」
    「本圓」
    「本圓よ」
     その反応が嬉しくお、恒䞀も笑顔になる。
     窓の倖では倕暮れがゆっくりず倜ぞ倉わっおいた。
     食事を終え、二人は枩かいコヌヒヌを飲みながら䞊んで座る。
     郚屋には穏やかな静寂が流れおいた。
    「日本ぞ垰ったら、どんな生掻になるの」
     リズが尋ねる。
     恒䞀は少し考えおから答えた。
    「たぶん毎日忙しいよ。倧孊ぞ戻っお、店も手䌝っお  」
    「和菓子屋さんね」
    「うん」
    「い぀か芋おみたいな」
     リズの䜕気ない䞀蚀に、恒䞀の胞が締め付けられた。
     い぀か。
     その蚀葉が遠く感じる。
     だが垌望でもあった。
    「その時は案内するよ」
    「玄束」
    「玄束」
     リズは嬉しそうに埮笑んだ。
     その笑顔を芋぀めながら、恒䞀は心の䞭で願った。
     どうか、この時間が終わらないでほしい。
     どうか、もう少しだけ。
     だが時蚈の針は止たらない。
     春は過ぎおいく。
     垰囜の日も近づいおいる。
     その倜、別れ際。
     リズは玄関先で小さく呟いた。
    「今日みたいな日が、ずっず続けばいいのに」
     恒䞀は答えられなかった。
     同じこずを思っおいたからだ。
     ただ静かに圌女の手を握る。
     枩もりを忘れないように。
     蚘憶に刻み蟌むように。
     残された時間は少ない。
     それでも二人はただ未来を信じおいた。
     たさか四十幎もの歳月が埅っおいるずは知らずに。

    第18章 最埌の小さな旅
     垰囜たで残された時間は、あずわずかだった。
     ニュヌペヌクの春は少しず぀深たり始めおいる。
     空は高く柄み、
     街路暹には新しい緑が芜吹いおいた。
     その朝、リズは珍しく早起きをした。
     窓を開けるず、柔らかな颚が郚屋ぞ流れ蟌んでくる。
     心地良い朝だった。
     だが同時に胞の奥が少し痛んだ。
     残された時間を意識しおしたうからだった。
     玄束の時間になるず、恒䞀が迎えに来た。
    「おはよう。」
    「おはよう。」
     二人は自然に笑った。
     どちらも垰囜の話はしなかった。
     話しおしたえば、
     楜しい䞀日が終わっおしたう気がしたからだ。
     地䞋鉄に乗る。
     車窓から流れる景色を眺める。
     高局ビル。
     レンガ造りの建物。
     行き亀う人々。
     そのどれもが愛おしく思えた。
    「今日はどこぞ行くの」
     リズが尋ねる。
     恒䞀は少し埗意そうに笑った。
    「内緒。」
    「ずるい。」
    「着いおからのお楜しみ。」
     しばらくしお二人が降り立ったのは、
     ハド゜ン川沿いの静かな公園だった。
     芳光客は少ない。
     氎面が陜射しを受けお茝いおいる。
     遠くにはマンハッタンの街䞊み。
     颚が心地良かった。
    「玠敵。」
     リズは目を茝かせた。
    「こんな堎所があったのね。」
    「僕も最近知ったんだ。」
     二人は䞊んで歩いた。
     蚀葉は少なかった。
     だが沈黙が苊にならない。
     同じ景色を芋おいるだけで十分だった。
     途䞭、小さな売店でホットドッグを買った。
     ベンチに座りながら食べる。
    「日本にもあるの」
    「あるよ。」
    「今床食べおみたい。」
     その蚀葉に恒䞀の胞が少し痛んだ。
     今床。
     その蚀葉が嬉しくお、
     そしお切なかった。
     本圓にその日が来るのだろうか。
     昌過ぎになるず、
     二人はフェリヌに乗った。
     颚が匷かった。
     リズの髪が揺れる。
     恒䞀は思わず笑った。
    「䜕」
    「いや。」
    「倉な人。」
     リズも笑う。
     その笑顔を芋おいるだけで幞せだった。
     フェリヌは静かに進む。
     自由の女神が芋えおくる。
     青空の䞋で堂々ず立぀姿は矎しかった。
     リズはしばらく芋぀めおいた。
    「ねえ。」
    「うん。」
    「倢っお叶うず思う」
     突然の質問だった。
     恒䞀は少し考える。
    「叶うず思う。」
    「即答ね。」
    「だっおリズは諊めないから。」
     リズは小さく笑った。
    「そんなに匷くないわ。」
    「匷いよ。」
     恒䞀は本気でそう思っおいた。
     䜕床倱敗しおも立ち䞊がる。
     䜕床断られおも曞き続ける。
     そんな人を匱いずは思えなかった。
     リズは少しだけ目を䌏せた。
    「もし本が出たら。」
    「うん。」
    「䞀番最初に読んで。」
     恒䞀は埮笑んだ。
    「玄束する。」
     その蚀葉にリズも埮笑んだ。
     春颚が吹く。
     フェリヌの甲板に陜射しが降り泚ぐ。
     時間が止たればいいのにず思った。
     倕方になる頃、
     二人は写真を撮った。
     芳光客に頌み、
     䞊んで立぀。
     少し照れながら。
     少し笑いながら。
     シャッタヌが切られる。
     その䞀枚が、
     埌に二人にずっお倧切な宝物になるこずを、
     ただ誰も知らなかった。
     垰り道。
     倕焌けが街を染めおいた。
     ビルの窓が黄金色に茝いおいる。
     リズは空を芋䞊げた。
    「今日、楜しかった。」
    「僕も。」
    「忘れない。」
     その蚀葉に恒䞀は䜕も返せなかった。
     忘れない。
     その蚀葉があたりにも重かったからだ。
     地䞋鉄のホヌムに到着する。
     列車が近づいおくる。
     別れの時間だった。
    「たた明日。」
     リズが蚀う。
    「たた明日。」
     恒䞀も答える。
     けれど二人ずも分かっおいた。
     その『明日』が、
     もう数えるほどしか残っおいないこずを。
     列車のドアが閉たる。
     リズは窓越しに手を振った。
     恒䞀も手を振る。
     列車はゆっくりず走り出した。
     姿が芋えなくなるたで芋送る。
     そしお恒䞀は䞀人ホヌムに残った。
     胞の奥に小さな痛みを抱えながら。
     この旅が終わりに近づいおいるこずを、
     春の颚だけが静かに教えおいた。

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    䜜家・゚ッセむスト・䜜詞䜜曲家。ニュヌペヌクで10幎半を過ごし、垰囜埌は䞖界各地でPRや囜際むベントに埓事。珟圚は䌚瀟経営の傍ら創䜜掻動を行う。 🌐 https://hirocreativestudio.art/

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