
「靉靆」【エッセイ】
昨晩から眼鏡が見当たらない。新卒の時に背伸びしてオーダーメイドで作ってもらったちょっと良いやつ。無くしちまったら大ダメージである。
通算で一時間以上探したけれど、どこにもない。仕方ないから一度忘れることにした。
そんなわけで、実家のタンスの隅から出てきた古いドイツの買い物バッグに、これまたなぜか出てきたTEPCOのレジャーシートと、本と水筒と少しのお菓子を詰めこんで、近所の公園(80ヘクタール)に漕ぎ出した。この一文、情報量が多すぎやしないか?要はピクニック気分で本を読もうというのである。インスタントな現実逃避にはちょうどいい塩梅でしょう?おあつらえむきに空も快晴だった。
公園についてレジャーシートを広げてみる。そこで適当に持ってきたこのレジャーシートの面白さを痛感する。
TEPCOのCM(今もあるのかな?)に出てくる男女二人がピクニックをしていて、その女の子(確かでんこちゃん)が「電気と仲良くね!」と言っている。自然のド真ん中で、おにぎり食べながら言っている。どう考えてもその状況で出てくる言葉じゃ無さ過ぎる。隣で男の子は笑顔で水筒の水を飲んでいるし、猫が魚一尾をまるまる頬張っている。状況を見れば見るほどセリフがシュール過ぎるので、面と向かってるとだんだん笑えてくる。

ごろんとそこに寝転んで、最近買ったエッセイ集から手を付ける。26歳の人たちのエッセイリレーみたいな本。社会に出てからなぜか同い年に会わないので、本の中でくらい会いたくて買ってしまった。
26歳ってみんな同じようなこと考えるんだなぁ。アラサーとか名乗れるほどの大人じゃないけど、子供というにはそれなりに事を知っている歳。何か変わるわけでもないけれど、なんとなく境界に立っている気分がいつもある。
「靉靆」
そんなエッセイの中で一つ読めなかった文字があった。Googleレンズで読み込んで、文字の読み方を調べてみる。どうやらアイタイと読むらしい。
あい‐たい【×靉×靆】
1 雲や霞かすみなどがたなびいているさま。
2 気持ちや表情などの晴れ晴れしないさま。陰気なさま。
[名]眼鏡。
ん?メガネ?
文の中で使われていた靉靆は、文脈からして間違いなく1番目の使い方だったが、最後の一文に気持ちを持っていかれた。どうやら中国から伝わった眼鏡の古称らしい。
それにしても、おい。無くした眼鏡のことを思い出してしまったではないか。わざわざ公園にまで逃げてきたのに、また無くした眼鏡が気になりだしてしまった。
空はこんなに晴れているのに、私の気持ちはまた、靉靆としてきた。それでも私は、「眼鏡もじきに見つかるだろう」という楽観さを捨てずに、また本を手に取った。