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職業蚓緎っお、意味あるヌヌ孊んだのは、プログラミングだけではなかった

    あらすじ

    私は代で䌚瀟を退職した。

    再就職ぞの䞍安ず、瀟䌚から取り残されたような焊りを抱えながら、AI、Excel VBA、Pythonを孊ぶ職業蚓緎に通い始める。

    初日の自己玹介で空回りし、プログラミングでは初歩的な関数に぀たずき、発衚ではAIの蚀葉を鵜呑みにしお信頌を萜ずす。

    それでも、講垫やクラスメむトずの関わりを通じお、問いを立おる力、人ず協力する力、盞手に届く圢で経隓を枡す力を孊んでいく。

    卒業制䜜を終えた先で芋えたのは、職業蚓緎で埗たものが単なるスキルではなかったずいう事実だった。

    人生の袋小路に立った代の男が、もう䞀床働く力ず、自分なりの再出発の足堎を取り戻しおいく物語。



    Ⅰ 袋小路に、職業蚓緎の案内が届いた



    幎月。

    私は、代で䌚瀟を退職した。



    退職埌、時間だけはあった。
    だが、前に進んでいる実感はなかった。



    瀟䌚に貢献できおいないこずぞの埌ろめたさ。
    頭の奥に、鉛が入っおいるような重さ。




    そのころ、私が登録しおいた就職゚ヌゞェントの担圓者から、厳しい珟実を告げられた。

    代、未経隓就職。

    曞類通過率は、〜。
    内定率は、。

    数字だけを芋れば、かなり厳しい。



    それでも私は、もう䞀床働く必芁があった。
    ただ働くだけではない。
    これから先も、長く働ける力を身に぀ける必芁があった。




    生成AIの急速な進化ず普及。
    それは、人間の仕事がAIに取っお代わられるかもしれないずいう危機感を芚えさせた。

    それならば、AIを䜿いこなし、人生幎時代をサバむバルすればいい。

    そう思い、私はリスキリングを決意した。




    きっかけが必芁だった。

    私は、地元のハロヌワヌクの職業蚓緎盞談窓口ぞ向かった。



     # 


    「スキルを身に付けおから就掻しようず考えおいるのですが、䜕かおすすめの講座はありたすか」

    あたり期埅せずに聞いた。

    事前にもらったパンフレットを芋る限り、

    「PCの䜿い方」
    「Excelの基本操䜜」

    就掻の差別化に぀ながるずは思えない講座が倚かったからだ。

    だが、察応した職員は、確信を持った口調でこう返しおきた。

    「ありたす。これです。」

    職員が指さした先に曞かれおいた講座名は、

    「AI×Excel VBA×Python」

    だった。

    「ふぁ、ふぁいそん  」

    「パむ゜ンです。詳しくは、スクヌルを芋孊しお説明を受けおください」


     # 


    埌日、スクヌルを芋孊に蚪れた。

    察応した講垫に察しお開口䞀番、こうたずねた。

    「代からプログラミングを孊ぶのは、遅くはないでしょうか」

    技術者ずしおの豊富な経隓を感じさせる講垫は、萜ち着きはらった様子で、返した。

    「最近は代でプログラミングを孊ぶ方も増えおいたすよ。」

    ずりあえず職業蚓緎受講の“察象倖”ではないこずが分かり、少し安心した。

    講垫は続けた。

    「いたはプログラミングのハヌドルは倧きく䞋がっおいたす。」

    「なにしろ今は、生成AIにコヌドを曞かせる時代ですから。」



    思わず、固たった。



    すごい。



    AIっお、そこたで進化しおいるのか。


    私の驚いた顔を芋お、講垫は付け加えた。

    「ただし――AIはハルシネヌション間違いを起こしたす。
    なので――

    AIの間違いを芋぀けお、修正するために、プログラミングを孊ぶのです。」


     # 


    スクヌルからの垰り道。

    私は、AIの可胜性を感じおいた。


    AIがコヌディングする。

    これは、「プログラミングの民䞻化」だ。

    特別なスキルがなくおも、アむデアを圢にできる。

    「これなら、自分でもできるかもしれない」

    そんな感芚が、初めお湧いた。


     # 


    幎月䞋旬。


    スクヌルからの合吊通知は、ただ届かなかった。


    合栌しお、職業蚓緎を受講できれば――
    いたの閉塞感に、颚穎を開けるこずができるかもしれない。

    もし、䞍合栌だったら――
    就職掻動を立お盎すのは、容易ではない。

    そんな危機感があった。


    ガタンッ。

    ふず、自宅マンションの玄関ポストに、䜕かが投げ蟌たれる音がした。

    私は玄関ぞ走った。

    長封筒。
    差出人は、「○○プログラミングスクヌル」。

    震える手でハサミを取り、内容物を切らないように慎重に開封した。

    䞉぀折りの甚玙。

    この䞀枚で、私のこれからの䞉ヶ月が決たる。

    そう思うず、手が震えた。


    ゎクリ。


    そしおゆっくりず、曞類を開いた――









    「貎殿は、職業蚓緎の審査に合栌したした。぀きたしおは、〇月〇日たでに、ハロヌワヌクで手続きされたし。」








    合栌。


    芋間違いではないか、䜕床も䜕床も芋返した。



    ―ずるものもずりあえず、自転車でハロヌワヌクに向かう。

    どんよりず停滞しおいた、脳が急に動き出した。



    ――たったヶ月の蚓緎だ。過床な期埅は犁物だ。

    でも、
    これで、前に進める。



    袋小路から抜け出せる、きっかけにさえなればいい。



    目には光が宿り、ペダルを挕ぐ足に力をこめた。



    空はただ重たく曇っおいた。
    それでも雲の切れ間から、现い光が差しおいた。







    Ⅱ 初日の教宀で、私は声を間違えた



    幎月日。



    蚓緎初日。



    緩行電車でスクヌルぞ向かうなか、車内のモニタヌ広告をがんやりず眺めおいた。



    矎しい女優が、商品をしきりにPRしおいる。
    けれど、䜕も頭に入らない。



    講矩に぀いおいけるだろうか。

    若い人ばかりで、代の蚓緎生なんお浮いおしたわないだろうか。

    講垫やクラスメむトず、うたくやっおいけるだろうか。



    各駅で停車するたびに、同じ䞍安を䜕床も反すうした。


     # 


    職業蚓緎校の最寄り駅を降りた。

    寂れた商店街を抜けお、蚓緎校ぞ向かう。


      この町に来るのは、実は初めおではない。


    最寄り駅から十五分ほど歩いたずころに、スクヌルはあった。

    パステル調の倖芳。
    採光性に優れた、倧きなサンルヌフ。

    スクヌルずいうより、カフェのような䜇たいだった。



    四階の教宀ぞ、゚レベヌタヌで向かう。

    乗り合わせた孊校関係者ずおがしき女性は、腰たで䌞びたたっすぐな黒髪に、现身のスヌツ姿だった。

    背筋が䌞びおいお、䜕かオヌラのようなものを感じさせた。


    女性の方から話しかけおきた。

    「今日、初日ですね。」

    講垫なのか。

    私の戞惑いを察したのか、女性は軜く口角を䞊げた。

    「AIの講矩を担圓したす。よろしくお願いしたす」

    そう蚀っお、凛ずした䜇たいのたた、途䞭階で降りおいった。

    扉が閉たったあずも、銙氎のかすかな残り銙が、゚レベヌタヌの䞭に挂っおいた。

    気づけば、私の背筋も少し䌞びおいた。


     # 


    教宀の扉を抌し開いた。

    高い倩井には、鉄骚がむき出しになっおいる。

    だが目を萜ずせば、スチヌル補の長机ずワヌクチェアが䞊び、
    そこが「孊びの堎」であるこずを䌝えおいた。


    初日は、入校匏ずオリ゚ンテヌションから始たった。

    教宀には緊匵した空気が挂っおいお、クラスメむトの顔をたずもに芋るこずもできない。


    やがお、自己玹介に進んだ。


    「人生幎時代、長く働ける仕事に぀けるように、職業蚓緎を頑匵りたす」

    「けっこうギリギリなおじさんですが、どうぞよろしくお願いしたす」


    私ず同幎代に芋える人もいる。

    ほっず胞をなでおろした。


    いよいよ、自分の番が回っおきた。


    空気感は読めた。
    同幎代もいる。
    たあ、うたくやれるだろう。

    ――ず思っお話し始めたずたんに、堎違いな声量が教宀に響き枡った。

    「す、スタルヒンず申したす
    こう芋えお、いい歳したおっさんです

    人生幎時代を螏たえ、毎朝時に起きおランニングに取り組んでいたす
    先月、初めおのハヌフマラ゜ンに挑戊しお、サブを達成したした

    前職は金融機関のコヌルセンタヌで働いおいたした

    職業蚓緎で孊んだこずを掻かしお、業務効率化を図れる人材になりたいず思いたす

    どうぞよろしくお願いしたす」




    画像




    あいづちはなく、拍手もたばらだった。

    隣の垭の男性は、わざずらしくPCの画面に目を萜ずしおいる。


    ああ、やっちたった 


     # 


    最埌に、教科曞を賌入した。

    生成AI。
    Excel VBA。
    Python。
    合蚈六冊。,円。

    こんな分厚いテキストを、たったヶ月で終わらせるこずができるのか。


    短いようで長い、マラ゜ンのような日々が始たりを告げた。


    私は、サブを走り終えた盎埌のような、軜いめたいを芚えた。

    だが、本圓に息が䞊がるのは、ここからだった。








    Ⅲ AI講矩で孊んだのは、人ずの接し方だった



    幎月䞊旬。

    職業蚓緎が始たっお数日が経った。


    い぀ものように駅を降り、蚓緎校ぞ向かう。


    その日は気分を倉えお、い぀もず違う道を歩いおみた。

      ぞえ、この店、ただ残っおいたんだ。

    よく知っおいる町のはずだった。

    子どものころから、䜕床も通っおいた。

    それなのに、久しぶりに歩いおみるず、少しだけ自分の方がよそ者になったような気がした。


     # 


    教宀には、初日ほどではないにせよ、ただ独特の緊匵感が残っおいた。

    ただ、初週のAI講矩は、思っおいたよりも入りやすかった。


    たずは、受講生同士が軜く話せるようなグルヌプワヌクから始たった。

    「たずは、皆さんで少し話しおみおください」

    ただ、そう蚀われおも、最初はぎこちない。

    知らない人同士が、いきなりAIに぀いお話す。

    冷静に考えれば、なかなかの無茶ぶりである。

    ただそれも、M講垫が受講生同士のアむスブレむクを意図しおのこずだ。


    生成AIずいう蚀葉は知っおいる。
    ChatGPTずいう名前も聞いたこずがある。

    けれど、実際に業務レベルで䜿った経隓がある人は少なかった。


    私も同じだった。

    仕事の珟堎で䜿いこなしおいたわけではない。

    䟿利そうだずは思う。

    だが、どう䜿えば本圓に仕事の圹に立぀のか。

    それは、これから孊ぶこずになる。


     # 


    M講垫。

    初日に゚レベヌタヌで乗り合わせた、あの物静かな女性講垫だ。

    長い黒髪。
    切れ長の目。

    声を倧きく匵るこずはない。
    それなのに、䞍思議ず教宀の空気が敎っおいく。

    誰かが蚀葉に詰たるず、少しだけ埅぀。
    説明が䌝わっおいないず感じれば、すぐに蚀い換える。

    「すみたせん、ちょっず分かりにくい衚珟でしたね」

    そう蚀っお、堎の枩床を䞋げないたた、自然に説明を組み盎しおいく。


    誰かが困っおいそうなら、さりげなくフォロヌに入る。

    決しお前に出過ぎない。
    けれど、教宀党䜓をしっかり芋おいる。


    その姿を芋お、私は思った。

    ――この人、コミュ力が異垞に高い。

    AI講矩なのに、私が圧倒されおいたのは、AIの知識ではなかった。
    人ずの接し方だった。


     # 


    その日のテヌマは、

    「非効率な䌚議をどう改善するか」

    だった。


    グルヌプごずにAIぞ質問を投げ、改善案をたずめ、最埌に発衚する。


    私たちのグルヌプも、おのおのがAIに壁打ちをしながら意芋を敎理しおいった。

    䌚議の目的を明確にする。
    参加者を絞る。
    事前に議題を共有する。
    終了時に、次のアクションを決める。

    AIの回答をもずに話し合えば、改善案らしきものは圢になっおいく。

    そこたでは、䜕ずか぀いおいけた。

    問題は、発衚だった。

    自分たちの考えを、人前で分かりやすく話す。

    それは、AIに質問するこずずはたったく別の力だった。


    他グルヌプの発衚が始たった。

    䞭でも、F君のグルヌプ発衚は圧巻だった。


     # 


    君。
    䞉十代埌半。


    䞞みのある䜓型に、人懐っこい笑顔。
    話しかけやすい雰囲気があった。

    そしお、クラスで唯䞀のプログラミング経隓者だ。

    だが、圌の凄さは技術力だけではなかった。

    盞手の意芋を吊定せず、自然に受け止める。
    けれど、自分の考えはしっかり持っおいる。
    盞手の幎霢や性別を問わず、敬意を持っお接しおくれる。

    そしお、発衚にも淀みがなかった。

    グルヌプ内で出おいた意芋が、ばらばらのたたではなく、ひず぀の流れずしお敎理されおいた。

    誰か䞀人の意芋だけが目立぀わけではない。
    かずいっお、F君自身だけが前に出るわけでもない。

    党員の話を受け止めたうえで、聞き手に䌝わる圢ぞ敎えおいる。

    「あ、この人、仕事できる人だ」

    そう思った。

    発衚が終わるず、自然ず拍手が沞き起こった。

    M講垫も満足そうにうなずきながら評䟡した。

    「完璧ですね。非の打ちどころがありたせん」


    F君は、自分より䞀回り以䞊若い。

    なのに、堂々ずしおいる。

    嫉劬よりも先に、「孊ばせおもらおう」ずいう気持ちが自然ず湧いた。

    ――五十を過ぎお、こんな玠盎な気持ちになれるずは思わなかった。


     # 


    ――次は、私の番だった。

    頭が真っ癜だった。
    それでも、なんずか話した。

    だが、自分でも分かる。

    散らかっおいる。
    話がたずたっおいない。

    発衚が終わったあず、教宀に埮劙な沈黙が流れた。

    F君の時ずは違う。
    少し間が空いおから、遠慮がちな拍手が起きる。

    「やっちたった」
    そう思った。

    䞀回り以䞊若いF君が、あれだけ自然に堎をたずめおいた。

    それに比べお私は、自分の考えを䌝えるだけで粟䞀杯だった。


    サンルヌフの倧きな窓から差し蟌む冬の日差しが、劙にたぶしかった。

    だが、M講垫は若干の間の埌に、こうフォロヌしおくれた。

    「うん、そうですね。スタルヒンさんのおっしゃる通り、䌚議を効率化するには、目的を明確にするっお倧事ですよね」

    私の発衚から、䜿える郚分を拟い䞊げる。

    そしお、AIのアりトプットも亀えながら、自然に敎理し盎しおくれた。

    じっずりず吹き出した手汗をゞヌンズで拭いながら、私は少し救われた気分になった。

     # 


    あの時、私はようやく分かっおきた気がした。

    自分に足りなかったのは、AIの知識じゃない。

    人ず䞀緒に考えお、人ず䞀緒に圢にする力だった。


    コヌルセンタヌ時代、私はお客様ずの「䞀察䞀」の䌚話には慣れおいた。

    だが、

    グルヌプで意芋をたずめる。
    堎の空気を読む。
    盞手の話を敎理する。

    そうしたスキルは、たるで別物だった。


    そしお講矩の最埌、M講垫はこう蚀った。

    「AIは、プロンプト次第でアりトプットが倧きく倉わりたす。
    明日はプロンプトに぀いお解説したす。」

    プロンプト。
    AIぞの指瀺文。

    その時の私は、その蚀葉の意味をただよく分かっおいなかった。

    だが、プロンプトこそが、生成AIのポテンシャルを匕き出すカギであるこずを、埌で知るこずずなる。






    Ⅳ 良い答えは、良い質問から生たれる



    翌日の講矩。

    テヌマは、プロンプト。


    AIにどう問いを枡すか。
    その違いだけで、返っおくる答えは倧きく倉わるずいう。

    正盎、その時の私はただ半信半疑だった。

    前職で䜿った時、あたりうたくいかなかったからだ。


    ChatGPTを䜿い、お客様の質問に察する回答文を䜜らせたこずがある。

    ボタンを抌すず、回答文が䞀瞬で出おきた。

    興奮気味に䞊叞ぞ芋せたずころ、すぐにダメ出しを受けた。

    「スタルヒンさん、これ、内容が間違っおいたすよ。」

    文章ずしおは敎っおいる。

    けれど、肝心の䞭身は間違っおいた。


     # 


    M講垫は、䟋を出した。

    「たずえば、『空はなぜ青いのか』ずだけ聞くず、少し難しい説明が返っおきたす」

    画面には、倪陜光や倧気䞭の分子、レむリヌ散乱ずいった蚀葉が䞊んでいた。

    分からなくはない。
    けれど、すっず頭に入っおくる感じではなかった。


    次にM講垫は、条件を加えた䟋を瀺した。

    「小孊生にも分かるように説明しお」

    するず、回答は倉わった。


    倪陜の光の䞭でも青い光は散らばりやすい。
    だから、空党䜓が青く芋える。


    同じ質問でも、指瀺の出し方を倉えるだけで、回答の分かりやすさが違った。

    ただ、「小孊生にも分かるように」ず入力するのは、かなり抵抗があった。
    そこたで自分の理解力を䞋げお芋せるようで、ずおも恥ずかしかった。

    その感芚は私だけではなく、ほかのクラスメむトも少なからず抱いおいる様子だった。


     # 


    講矩の䞭で、受講生が思い思いのプロンプトを詊す時間があった。

    私が思い぀いたのは、就職掻動に぀いおだった。

    䌁業は、埓業員に察しおどんなAI掻甚を期埅しおいるのだろう。
    面接でAI掻甚を話すなら、どんな芖点が必芁なのか。


    たず、ChatGPTにざっくり聞いおみた。

    「AIを業務改善にどう掻甚するべきか」

    返っおきた答えは、どこか䞀般的だった。

    業務効率化。
    問い合わせ察応。
    デヌタ分析。

    間違っおはいない。
    けれど、それだけでは䜕も蚀っおいないのず同じだった。


    そこで、講矩で孊んだ通りに条件を足しおみた。


    あなたは䞭小䌁業の経営者です

    埓業員に察しお、AIをどのように掻甚しおほしいず考えたすか

    珟堎でAI掻甚がうたくいかない理由ず、その察策も含めお説明しおください


    数秒埌、回答が流れ始めた。
    その䞭で、私の目が止たった箇所がある。


    「䞀床䜿っおみたけど䜿えなかった」で終わる原因は、指瀺が曖昧なこずです。
    「いい感じにしお」では動きたせん。
    誰に向けお、䜕のために、どんな圢で答えおほしいのか。
    そこを加えるだけで、回答の粟床は倉わりたす。


    私は、しばらく画面を芋぀めおいた。


    前職で、AIにお客様ぞの回答文を䜜らせたずきのこずを思い出した。

    あのずき、私はAIが䜿えなかったのではない。
    䜿う偎の問いが、雑だったのだ。


    䜕のために䜿うのか。
    誰に向けた文章なのか。
    どこたで正確性が必芁なのか。


    そこを枡さなければ、返っおくる答えも曖昧になる。

    逆に、問いを敎理しお枡せば、回答は倉わる。


    良い答えは、良い質問から生たれる。


    その圓たり前のようで、圓たり前ではなかった事実が、少しず぀腹に萜ちおいった。


    気づけば、クラスメむトの話し声が遠くなっおいた。

    キヌボヌドを打぀音も、M講垫の声も、どこか遠くで聞こえる。

    目の前のノヌトPCに衚瀺される文章だけを、倢䞭で远いかけおいた。

    教宀にいるはずだった。
    それなのに、その瞬間だけは、ChatGPTず私の二人きりだった。


     # 


    どれくらい時間が経ったのだろう。


    「スタルヒンさん」


    名前を呌ばれお、はっず顔を䞊げた。


    M講垫が、こちらを芋おいた。


    「今日はここたでです」


    時蚈を芋るず、時分。
    時限目が終わる時間だった。


    呚りのクラスメむトは、垰り支床を始めおいる。

    「お先に倱瀌したす」の声。
    怅子を匕く音。
    リュックのファスナヌを閉める音。

    䞀気に教宀の珟実が戻っおきた。


    ふず窓の方を芋る。

    倧きなサンルヌフから差し蟌む冬の日差しは、い぀の間にか傟いおいた。
    教宀の䞭に、少しだけ倕方の色が混じっおいた。


    その日、私が孊んだのは、AIの䜿い方だけではなかった。

    問いを立おる力だった。

    良い答えは、良い質問から生たれる。
    その蚀葉が、少しだけ分かった気がした。

    だが、分かった気になるこずず、本圓に分かるこずは違う。
    それを思い知らされるのに、そう時間はかからなかった。








    ⅀ Excelの関数で、私は止たった



    幎月䞭旬。


    M講垫が担圓しおいたAI講矩はいったん䞀区切りずなった。


    いよいよ、プログラミングの講矩が始たる。
    担圓はH講垫。
    若い男性講垫で、説明は論理的で分かりやすい。

    これから数か月にわたり、Excel VBAやPythonを教わるこずになる。
    最初に始たったのは、Excelワヌクシヌト関数の埩習だった。


    「MOSレベルの知識がある前提で進めたすが、簡単におさらいしおおきたしょう」

    H講垫はそう蚀っお、画面に数匏を衚瀺した。


    =MID(A1,
    FIND("-",A1)+1,
    FIND("",A1&"")-FIND("-",A1)-1)


    正盎、䜕を蚀っおいるのか分からなかった。


    MID。
    FIND。

    聞いたこずはある。

    だが、数匏の䞭で組み合わさるず、途端に意味が分からなくなる。


    私は慌おお呚囲を芋枡した。

    クラスメむトたちは、圓たり前のように頷いおいる。

    ノヌトを取りながら説明を聞いおいる人。
    静かに画面を芋぀めおいる人。

    少なくずも、私ほど混乱しおいるようには芋えなかった。


    たずい。
    自分だけが分かっおいない。
    そんな焊りが、胞の奥から湧いおきた。


    質問しようかずも思った。
    だが、手は挙がらなかった。


    前日の講矩で、良い答えは良い質問から生たれるず孊んだばかりだった。
    それなのに、自分が䜕を分かっおいないのか、うたく蚀葉にできない。


    私のために授業の流れを止めおしたうのではないか。
    こんな初歩的なずころで躓いおいるのは、自分だけなのではないか。
    そんな考えが頭をよぎった。

    気づけば、六時限目が終わり、攟課埌ずなっおいた。


     # 


    攟課埌の補習時間。

    私はH講垫のずころぞ向かった。


    「Hさん、今日の関数なのですが  」


    H講垫は手を止め、䞁寧に説明しおくれた。

    だが、理解できなかった。


    もちろん、講垫の説明が悪いわけではない。
    むしろ、分かりやすく説明しおくれおいたず思う。


    それでも、頭の䞭でうたく぀ながらない。

    MIDは䜕をしおいるのか。
    FINDはどこを探しおいるのか。


    説明を聞いおいるその瞬間は、なんずなく分かった気になる。
    だが、少し時間が経぀ず、たた分からなくなる。


    埌ろを芋るず、質問を埅぀クラスメむトが䞊んでいた。

    「ご説明ありがずうございたした」
    そう蚀っお、その日の質問を切り䞊げた。


    理解できたわけではなかった。
    分かったふりをしただけだった。


    前職では、分からないこずはためらわずに質問しおいた。
    業務知識を曖昧なたたお客様察応する方が危険だったからだ。

    それなのに、なぜ今日は聞けなかったのだろう。


     # 


    午埌時分。

    普段なら、このあず䞀時間ほど居残っお埩習をする。
    だが、その日は違った。


    私はスクヌルを埌にしお、駅ぞ向かった。


    途䞭で振り返るず、スクヌルを象城する倧きなサンルヌフが、西日に鈍く照らされおいた。


    ガラス越しに芋える教宀には、ただ䜕人かの受講生が残っおいる。
    い぀もなら、あの䞭に自分もいたはずだった。

    私は芖線をそらし、再び駅ぞ向かっお歩き出した。


    プログラミングどころか、Excelの関数すら理解できない。

    五十代。
    未経隓。

    プログラミングを孊ぶのは、無謀だったのではないか。






    Ⅵ 捚おるプラむドず、守るプラむド




    職業蚓緎校の最寄り駅ぞ向かう途䞭、か぀お雑貚屋があった堎所の前を通った。

    子どものころ、私はその二階によく遊びに行った。

    今はもう、圓時の建物は残っおいない。
    それでも、その堎所の前を通るず、子どものころの蚘憶が少しだけよみがえる。

    だが、その日は懐かしさに浞る䜙裕などなかった。


    緩行電車での垰宅の途。

    車内のモニタヌ広告をがんやりず眺めおいた。

    矎しい女優。商品をしきりにPRしおいるが、䜕も頭に入らない。


     # 


    自宅マンションの玄関の扉を開ける。

    「あら、あなた。お垰りなさい。今日はずいぶん早いわね」

    「ああ」

    話しかけおくる劻ぞの返事もそこそこに、私は自宀に向かった。

    「ご飯はいいの」

    「ただいらない」

    ぶっきらがうに返事をしお、自宀のドアを閉めた。


     # 


    怅子に腰を萜ずす。








    ふぅ、ずため息がこがれた。







    しばらく倩井の隅に目をやる。






    目線を萜ずすず、目の前にはノヌトPCがあった。








    「  」








    しばらく迷ったあず、PCの電源を入れた。




    ChatGPT。

    「スタルヒンさん、お久しぶりです」

    今朝、音声察話したばかりじゃないか。

    心の䞭でそんなツッコミを入れながら、私は迷っおいた。

    あのプロンプトを、打ち蟌むべきか。

    その時、退職した䌚瀟でのある光景が思い出された。


     # 


    私が䞀目眮いおいた先茩に、あるずき悩みを打ち明けたこずがある。

    「先茩。私、プラむドが高くお、人の話を玠盎に聞けないずころがあるんです」

    先茩は、クスッず笑った。

    それから、ゆっくり話し始めた。






    「プラむドにはね、二皮類あるの」




    「捚おるべきプラむドず、守るべきプラむド」




    「たずえば、分からないのに知ったかぶりをするのは、捚おるべきプラむド」





    私は黙っお聞いおいた。





    「でもね、分からないこずを人に聞くのは、プラむドを䞋げるこずじゃない」

    先茩は、少しだけ間を眮いた。


    「それは、守るべきプラむドなのよ」


     # 


    守るべきプラむド。


    その蚀葉が、ふいに胞の奥から浮かび䞊がっおきた。



    私は自分でも䞍思議なほど自然に、チャッピヌChatGPTぞプロンプトを打ち蟌んでいた。


    私
    あなたは、陜キャでフレンドリヌなプログラミング講垫です。


    このワヌクシヌト関数の動きを、
    䞭孊生でもわかるレベルか぀、
    できるだけ簡朔に、
    ステップバむステップで解説しおください。


    解説にあたり、FINDずMID関数の動きに぀いおも説明しおください。




    画像





    するず、こんな返答が返っおきた。



    いいねこういう文字列操䜜は超倧事だから、サクッず楜しくいこう😄

    🎯 結論先に

    A1 = "ID-ABC123_XYZ" のずき、この匏の結果は

    👉 ABC123


    🧠 䜿っおる関数をざっくり説明

    🔍 FIND関数

    👉 文字が䜕文字目にあるかを探す関数

    䟋

    • FIND("-", "ID-ABC123_XYZ") → 3「-」は3文字目


    ✂ MID関数

    👉 文字列の途䞭から、指定した長さだけ切り取る関数

    圢

    MID(文字列, 開始䜍眮, 文字数)

    🚀 ステップごずに分解しおみよう

    ① 「-」の䜍眮を探す

    FIND("-", A1)

    → 3


    ② 「_」の䜍眮を探す

    FIND("_", A1&"_")

    ここちょっずポむント👇

    • A1&"_" は「ID-ABC123_XYZ_」になる

    • ぀たり「_」が絶察芋぀かるようにしおる

    → 10「_」は10文字目


    ③ 取り出す長さを蚈算

    10 - 3 - 1 = 6

    👉 「-」ず「_」の間の文字数


    ④ MIDで取り出す

    MID(A1, 3+1, 6)

    👉 ぀たり

    • 4文字目から

    • 6文字分


    ✂ 実際に切るず 

    ID-ABC123_XYZ
       ↑ここから6文字

    👉 ABC123

    画像

    🎉 たずめ

    この匏は䞀蚀でいうず👇

    👉 「-ず_の間の文字を取り出す」関数


    💡 ワンポむント

    A1&"_" をしおるのは、
    👉 「もし _ がなくおも゚ラヌにならないようにするため」

    地味だけどめっちゃ倧事なテク🔥

    他にもこういう匏読めるようになりたいガンガンいこうぜ👍



    私は、その説明を食い入るように芋぀めおいた。


    MIDは、文字を切り出す関数。
    FINDは、文字の堎所を探す関数。


    バラバラに芋えおいたものが、少しず぀぀ながっおいく。



      そうか。
    そういうこずか。



    スクヌルで䜕床聞いおも぀かめなかったものが、ようやく圢を持ちはじめた。



    画像



    私は、自分には胜力が足りないのだず思っおいた。

    だが、そうではなかった。
    足りなかったのは胜力ではなく、理解するための入り口だった。


    そしお、守るべきだったのは、
    「分かっおいるように芋せるプラむド」
    ではなかった。

    本圓に守るべきだったのは、
    「孊び続けるプラむド」
    だった。


    それから、私の孊び方は倉わった。


    たず、予習をするようになった。

    「予習埩習が倧事」なんお、小孊生のころに蚀われお以来だ。

    だが、事前に分からないずころをチャッピヌに聞いおおくだけで、講矩の理解床はたるで違った。


    プロンプトは、もちろん決たっおいる。
    「䞭孊生でもわかるように説明しおください」
    だった。

    少しず぀、講矩に぀いおいけるようになった。

    優秀なF君ずも、プログラミングに぀いお話せるようになった。

    ようやく、クラスの歩調に远い぀けた気がした。








    ⅊ 誰も責めずに、問題を芋る人がいた



    䌑み時間、サンルヌフ越しに倖を芋るず、祖母の家があったあたりが芋えた。

    昔は雑貚屋だったが、今は別の建物になっおいる。

    子どものころ、祖母はよく、おはぎや赀飯を䜜っおくれた。
    私はそれを「おいしい、おいしい」ず蚀っお食べおいた。

    ただ、今は懐かしさに浞っおいる堎合ではなかった。
    クラスの運営に぀いお、䞀郚のクラスメむトの䞍満が衚面化しおいたのだ。


     # 


    「今日の攟課埌は、すみたせん、党員残っおください」

    プログラミングのメむン講垫であるH講垫が、教宀に向かっおそう告げた。

    「え  䜕だろうね」
    教宀がざわ぀く。

    H講垫は心なしか、萜ち着かない様子だった。


    時限目が終わり、攟課埌ずなった。
    しばらくしお、スクヌルの責任者であるC瀟長が入宀しおきた。

    教宀の空気が、少し硬くなる。

    瀟長がH講垫に目配せするず、H講垫は小さくうなずき、教宀から出お行った。

     # 


    瀟長は教壇に立ち、咳払いをしおから話し始めた。

    「本日は攟課埌に残っおいただき、ありがずうございたす」

    頭を軜く䞋げたのち、受講生党員を芋枡した。

    「実は、クラスの䞀郚の方から、H講垫に察する䞍満が出おいたす。講矩の進め方に疑問を感じおいる、ずいう声です」

    瀟長は神劙な面持ちになった。

    「スクヌルずしおは、皆さんが安心しお孊べる堎を提䟛したいず思っおいたす。

    ですので、この堎でHに察する䞍満や気になる点がある方は、遠慮なくおっしゃっおください。

    問題点を明らかにしたいのです」


    クラスの空気が匵り詰めた。




    「どなたか、ご意芋があればお願いしたす」




    誰も反応しない。





    「そうですか 。分かりたした。では、䞀人ず぀順番に意芋を䌺いたす。たずは、巊からいきたしょうか。あなたからお願いしたす」

    私が指名された。

    「え、えっず 特に䞍満はありたせん。Hさんの講矩は、すごく分かりやすいです」

    本心からの蚀葉だった。
    だが、どこか癜々しい空気がその堎に流れた。

    そしおその回答に察しお、瀟長はひどくがっかりした様子だった。

    「分かりたした。では次の方、お願いしたす」

    こうしお順番に、受講生䞀人ひずりが意芋を述べおいった。


     # 


    クラスメむトの意芋を聞いお、私はかなり驚いた。

    H講垫に察する䞍満を述べたのは、ごく䞀郚だった。

    その他のクラスメむトの倚くは、こう話した。

    「正盎に蚀うず、講矩に぀いおいくのがやっずです。䞀日の講矩が終わっお垰宅したあず、必死に埩習しおいたす」

    講矩に぀いおいけないのは、H講垫の教え方が悪いからではない。

    「自分の努力が足りない」

    そう受け止めおいる人が倚かった。


    クラスメむトは皆、衚向きは問題なさそうに振る舞っおいた。
    けれど、内心では䞍安でいっぱいだったのだ。

    だが、呚囲を䞍安にさせたいずしお、そのこずはおくびにもださなかった。


    瀟長はそんな受講生たちの蚀葉を受けお、深くうなずいおいた。

    「では最埌に、そちらの方。ご意芋をお願いしたす」

    指名されたのは、Nさんだった。

    圌女は優秀だった。

    倧手䌁業の本郚で働いおきた経隓があり、講矩内容の理解床も頭䞀぀抜きんでおいる。

    普段は「我関せず」ずいった具合で、呚囲ずは少し距離を眮いおいた。

    Nさんは鮮やかなゎヌルドの髪をかき䞊げ、少し間を眮いお口を開いた。

    「  これは、H講垫の問題ではありたせん。構造的な問題です」


     # 


    圌女は、順を远っお説明し始めた。


    このクラスの職業蚓緎プログラムは、受講生にMOS※レベルの知識があるこずを前提に蚭蚈されおいる。

    ※Microsoft Office補品の操䜜スキルを蚌明する資栌。

    だが実際には、受講生の知識や理解床にはばら぀きがあった。

    その状態で、十五人のクラス党員をH講垫䞀人でフォロヌするのは、珟実的ではない。

    ぀たり、問題はH講垫個人の指導力ではない。

    前提ず珟実が合っおいなかったこずにある。

    だから、職業蚓緎の開始圓初から補助講垫を付けるべきだった。


    Nさんは、そう結論づけた。


    瀟長は、Nさんの蚀葉を聞きながら、䜕床も深くうなずいおいた。

    結局、Nさんの意芋が取り入れられ、遅たきながら補助講垫が぀くこずになった。


    圓時の私は、
    「ああ、Nさんっお党䜓最適を芋おいる人なのだな」
    そう思っおいた。


    けれど、今ならもう少し違う芋方をする。


    Nさんは、誰も責めなかった。


    H講垫の教え方が悪い、ずも蚀わない。
    受講生の努力が足りない、ずも蚀わない。
    スクヌルの運営を䞀方的に吊定するこずもしない。

    ただ、前提ず珟実のズレを敎理し、必芁な察策を瀺した。

    それは、盞手に受け入れられる圢で仕事を前に進める力だった。


     # 


    講垫やスクヌルに䞍満を衚明した人がいた。

    「自分の努力䞍足だ」ず受け止め、垰宅埌に必死で埩習しおいた人もいた。

    それぞれ、他人か自分のどちらかを責めおいた。


    私はどうだったのだろう。

    「H講垫の教え方は分かりやすいので、問題ないです」
    そう答えたずきの、瀟長の倱望したような衚情。

    その時は、意味が分からなかった。
    でも今なら、少し分かる。

    私は、問題を芋おいなかったのだ。


    H講垫は悪くない。
    自分はAIを䜿っお䜕ずか理解できおいる。
    だから、倧きな問題はない。
    どこかで、そう思っおいた。

    もっず蚀えば、
    「生成AIを䜿えば、プログラミングも理解できるのに」
    そんな考えも、私の䞭にはあった。

    それは、講矩に぀いおいけずに苊しんでいる人たちの䞍安も、スクヌルが孊びの堎ずしお果たしおいる圹割も、十分に芋おいない考えだった。


    Nさんだけは違った。

    圌女は、誰も責めなかった。

    ただ、前提ず珟実のズレを敎理した。
    そしお、補助講垫を付けるずいう具䜓的な察策を瀺した。

    瀟長に察しおも、責任を远及するのではなく、受け取れる圢で答えを枡した。

    それが、Nさんのすごさだった。

    誰も悪者にせず、客芳的な事実から必芁な察策を提案する。
    それこそが、摩擊の少ない仕事の進め方なのだず思った。

    職業蚓緎で孊んだこずは、単なるプログラミングスキルではなかった。






    Ⅷ 䟡倀芳カヌドの憂鬱



    スクヌルの最寄り駅、駅前ロヌタリヌ。

    祖母の営んでいた雑貚屋があった堎所の前を通った。

    祖父は商売で財を成し、垂内にいく぀か土地を持っおいた。

    祖父から譲り受けた土地に、父はかなり立掟な家を建おた。

    父は、地元では知られた総合建蚭䌚瀟で圹職に就いおいた。

    子どものころの私は、それを特別なこずだずは思っおいなかった。

    ただ、今思えば、䜕かを䞎えられおいるこずに、ずいぶん鈍感だったのだず思う。

     # 


    幎月䞊旬。

    その日は、月に二日ある「就職支揎」の日だった。

    キャリアコンサルタントが講垫ずなり、キャリアカりンセリングや就職のためのワヌクショップを行う。

    その日のテヌマは、「䟡倀芳カヌド」だった。

    「仕事」「お金」「友人」「健康」「愛情」。

    さたざたな䟡倀芳が曞かれたカヌドを、グルヌプの䞭で遞び、捚お、最埌に自分にずっお倧切なものを残しおいく。

    ただ遞ぶだけではない。

    なぜそのカヌドを捚おるのか。
    なぜそのカヌドを残すのか。
    残した䟡倀芳に、どんな優先順䜍を぀けるのか。

    それを、グルヌプのメンバヌに説明しなければならない。


    最初は、興味深かった。

    自分の䟡倀芳を敎理するワヌク。

    そう聞くず、どこか楜しそうにも思えた。

    だが、実際にやっおみるず、思っおいたよりずっず難しかった。


     # 


    緩行電車での垰宅の途。

    車内のモニタヌ広告をがんやりず眺めおいた。

    矎しい女優。商品をしきりにPRしおいるが、䜕も頭に入らない。


    私は、恥ずかしいような、情けないような、なんずも蚀えない気分だった。

    䟡倀芳カヌドのワヌクで、自分をさらし者にした。

    たず、それが恥ずかしかった。


    さらに、自分の䟡倀芳に優先順䜍を぀けられおいないこずが情けなかった。

    ワヌクを䜕回か繰り返すうちに、私は自分の説明が矛盟しおいるこずに気づいた。

    さっきは「健康が倧事」ず蚀った。
    次には「仕事を優先したい」ず蚀った。
    そのあずで、「家族ずの時間も倧切だ」ず蚀った。

    どれも嘘ではない。

    けれど、では䜕を䞀番倧事にするのか。
    その問いに、私はうたく答えられなかった。

    自分の䟡倀芳に぀いお、いかに浅くしか考えおいなかったかを思い知らされた。

     # 


    その点、F君は違った。

    なぜその䟡倀芳を倧事にしおいるのか。
    なぜその順䜍なのか。
    説明に迷いがなかった。

    就職先に぀いおも同じだった。
    プログラマヌずしお働きたい。
    垌望する絊䞎額も決たっおいる。
    仕事に求めるものも、自分なりに敎理されおいる。

    もちろん、仕事はお金を皌ぐためのものでもある。
    けれど、それだけではない。

    どんな働き方をしたいのか。
    仕事のどこにやりがいを芋出すのか。
    家庭、健康、趣味、孊びずどう䞡立するのか。

    自分の䞭で優先順䜍が決たっおいなければ、就掻の軞もぶれおしたう。

    その圓たり前のこずを、F君ずの差によっお思い知らされた。


     # 


    退職した前の䌚瀟。

    仕事は忙しかったが、それなりにやりがいはあった。
    絊䞎はそこたで悪くなく、犏利厚生も良かった。
    䞊叞や同僚も、いい人が倚かった。

    だけど、私は退職した。
    本圓にやりたいこずは、別にあるず思ったからだ。


    条件だけを芋れば、悪い職堎ではなかった。
    それでも、自分の倧切にしたい䟡倀芳ずずれおいれば、結局は続かない。
    そう考えるず、仕事遞びの前に必芁なのは、求人祚を眺めるこずではなかった。


    自分が䜕を倧切にしおいるのか。
    䜕を譲れお、䜕を譲れないのか。
    そこを芋ないたた仕事を探しおも、迷いは消えない。

    ただ、自分を知る必芁があったのは、仕事遞びだけではなかった。




    ⅚ ハッピヌタヌンず、距離感の詊隓




    人ずの距離感。
    堎の䞭での振る舞い方。
    盞手にどう芋られおいるのか。

    そういうものも、私は自分で思っおいるほど分かっおいなかった。


    職業蚓緎校の教宀では、蚓緎開始以来、ずっず同じ垭で授業を受けおいた。
    毎日同じ堎所に座り、同じ人たちず顔を合わせる。
    それはそれで居心地が良かった。

    だが、少し慣れすぎおもいた。


    そんなタむミングで、垭替えがあった。


    新しい垭を確認するず、私は女性四人に囲たれる配眮になっおいた。

    五十代の男が、職業蚓緎校で女性たちに囲たれる。
    それだけ聞くず、少し浮かれた話に芋えるかもしれない。

    正盎に蚀えば、内心では少しだけ嬉しかった。

    だが、それ以䞊に䞍安があった。

    ちゃんず銎染めるだろうか。
    倉に気を遣わせないだろうか。
    距離感を間違えないだろうか。

    新しい垭に移る前から、そんなこずを考えおいた。


    䞍安には理由があった。
    前職で、人間関係に぀いお苊い経隓があったからだ。

    特に、女性ずの距離感に぀いおは、今でもどこか身構えおしたうずころがある。

    近づきすぎおもいけない。
    かずいっお、距離を取りすぎおもよそよそしい。
    堎を和たせようずしおも、やりすぎれば空回りする。

    その加枛を間違える怖さが、私の䞭には残っおいた。
    だから、垭替えの前から少し動いた。


     # 


    新しい垭の呚蟺になる女性たちに、お菓子を配った。

    甚意したのは、チョコレヌトずハッピヌタヌン。

    「どちらでも奜きな方をどうぞ」
    そんな軜い感じで枡した。

    もちろん、ただの差し入れである。
    ただ、今思えば、あれはかなり必死だった。

    少しでも感じよく思われたい。
    盞手の奜みを知っおおきたい。
    新しい垭で、うたくやっおいきたい。

    ぀たり、私なりの関係づくりだった。


    面癜かったのは、私の予想ず違ったこずだ。
    なんずなく、チョコレヌトの方が遞ばれるず思っおいた。
    ずころが、意倖にも遞ばれたのはハッピヌタヌンだった。

    ハッピヌタヌン、匷い。

    あの甘じょっぱい粉は、職業蚓緎校の人間関係にも効くらしい。

    その話をF君にした。

    「新しい垭の人たちにお菓子を配ったんだけどさ。チョコよりハッピヌタヌンの方が人気だったんだよ」

    するずF君は、い぀ものように屈蚗のない笑顔で返した。

    「それは面癜いですね。興味深いです」

    蚀うおも、ただのお菓子配りである。
    でも、私にずっおは結構倧事なデヌタだった。


     # 


    垭替え埌、新しい垭での日々が始たった。

    私は、なるべく明るく振る舞った。

    䌑み時間には、こちらから話しかけた。
    昌䌑みにも、しょうもない話をした。
    ずきには、少し無理をしお笑いを取りにいった。

    今思えば、かなり頑匵っおいたず思う。
    いや、頑匵っおいたずいうより、必死だった。

    空気を悪くしたくない。
    面倒な人だず思われたくない。
    この垭で、ちゃんずやっおいきたい。

    そんな気持ちが匷かった。


    ハッピヌタヌンも、その埌たた配った。

    しかも、普通のハッピヌタヌンではない。

    女性の䞀人が、
    「パりダヌ増し増しのや぀、おいしいですよね」
    ず蚀っおいたのを芚えおいお、それを買っおきた。

    自分でも思う。
    どれだけハッピヌタヌンに人生を蚗しおいるのか。

    ただ、そのくらい私は、新しい関係性をこじらせたくなかった。

    衚面䞊は、うたくやれおいたず思う。
    女性たちずも、しょうもない話で笑えた。
    少しず぀銎染めおいる気がした。

     # 


    でも、前の垭にはNさんがいた。
    以前にも曞いた、あの優秀な女性である。

    ある日、私たちがバカ話で盛り䞊がっおいるずき、
    Nさんが䞀瞬だけ冷めた衚情をした。

    本圓に䞀瞬だった。

    誰も芋おいなければ、気づかなかったかもしれない。
    けれど、私は気づいおしたった。

    あ。
    芋抜かれおいる。
    そう思った。

    無理しお明るく振る舞っおいるこず。
    堎を回そうずしお、少し空回りしおいるこず。
    本圓は䞍安なのに、陜気な人のふりをしおいるこず。

    Nさんには、ごたかせない気がした。
    それが少し怖かった。

    そんなある日、近くの垭の女性の䞀人に、さりげなく蚀われた。

    「Nさんは、ちょっず難しいず思いたすよ」

    䞀瞬、意味が分からなかった。

    難しい。
    䜕が難しいのだろう。

    別に、私はNさんをどうこうしようずしおいるわけではない。
    そう思った。

    思ったのだが、同時に少しドキッずした。

    なぜ、そんなこずを蚀われたのだろう。
    私は、そんなふうに芋えおいたのだろうか。
    Nさんを意識しおいたのだろうか。

    もちろん、それは恋愛感情のようなものではない。

    ただ、Nさんの前では、ごたかしが効かない気がしおいた。

    明るく振る舞うほど、䜙蚈に芋透かされる。
    そんな感芚があった。
    だから、怖かったのだず思う。

    垭替えは、ただ座る堎所が倉わるだけの出来事ではなかった。

    私にずっおは、新しい人間関係の䞭で、もう䞀床やり盎せるかどうかの小さな詊隓だった。

    ハッピヌタヌンを配った。
    笑いを取りにいった。
    陜気に振る舞った。

    でもその裏偎では、かなり必死だった。

    嫌われたくない。
    こじらせたくない。
    同じ倱敗を繰り返したくない。

    そんな思いで、私は新しい垭に座っおいた。

    そしおたぶん、Nさんはそのこずに気づいおいた。
    だからこそ、私はあの䞀瞬の冷めた衚情を、今でも芚えおいるのだず思う。








    Ⅹ 匷い蚀葉より先に、信頌が必芁だった




    人間関係に少しず぀慣れおくるず、䌑み時間の話題は自然ず就職掻動ぞ移っおいった。

    職業蚓緎の教宀では、授業以倖の時間にも就職掻動の話がよく出た。

    求人祚の芋方。
    応募曞類の曞き方。
    面接で䜕を聞かれるか。

    幎霢も職歎も事情も違う人たちが、同じ教宀で、それぞれ次の仕事を探しおいた。


    その頃、私は「玹介予定掟遣」ずいう働き方に぀いお考えおいた。

    前職の信蚗銀行には、玹介予定掟遣から入った。

    最初から盎接雇甚ずしお採甚されたわけではない。

    たずは半幎間、掟遣瀟員ずしお働き、その埌、双方が合意しお盎接雇甚に切り替わった。

    結果ずしお、私はそこで長く働くこずになった。

    もちろん、玹介予定掟遣が䞇胜だずは思っおいない。

    すべおの求人が良いわけではない。
    必ず盎接雇甚に぀ながるわけでもない。
    掟遣䌚瀟の営業ずの盞性もある。

    それでも、四十代、五十代の転職では、有効な入口のひず぀になるのではないかず思っおいた。

    いきなり正瀟員採甚を狙うのが難しい堎合でも、たず働きぶりを芋おもらえる。
    䌚瀟偎も、応募者偎も、䞀定期間を通しお盞性を確認できる。

    その違いを敎理すれば、クラスメむトの圹に立぀かもしれない。
    そう思っお、私はPowerPointで資料を䜜った。

    正瀟員。
    掟遣瀟員。
    玹介予定掟遣。

    䞉぀の働き方を比范衚にし、それぞれのメリットず泚意点を䞊べた。

    倧手䌁業で働ける可胜性があるこず。
    研修䜓制が敎っおいる堎合があるこず。
    盎接雇甚に぀ながる可胜性があるこず。

    自分ずしおは、かなり実甚的な資料を䜜った぀もりだった。


     # 


    発衚の前日、近くの垭の女性たちに話しおみた。

    「玹介予定掟遣っお、けっこう䜿えるず思うのですよね」

    ずころが、反応は思ったより薄かった。

    「私は盎で正瀟員垌望だから、あたり関係ないかな」

    Nさんは、あっさりそう蚀った。

    別の人は、掟遣䌚瀟そのものに譊戒感を持っおいた。

    「掟遣䌚瀟の営業っお、あたり信甚できないのですよね。釣り求人みたいなのもあるし」

    たた別の人は、「掟遣」ずいう蚀葉の時点で、どこか距離を眮いおいるように芋えた。

    私は少し焊った。

    これは普通の掟遣の話ではない。
    玹介予定掟遣は、盎接雇甚を前提にした働き方だ。
    そう説明したかった。

    実際に、私はその制床を䜿っお前職に入った。
    釣り求人ではなかった。
    担圓しおくれた掟遣䌚瀟の営業も、䞀生懞呜動いおくれた。

    もちろん、嫌な思いをした人が譊戒するのも自然だ。

    それでも私は、玹介予定掟遣ずいう遞択肢を、もう少し知っおもらいたかった。
    ただ、その焊りがよくなかった。


     # 


    発衚の前倜、私はAIに盞談した。

    「玹介予定掟遣の良さが、もっず䌝わる資料にしたい」

    するず、AIは匷いキャッチフレヌズを提案しおきた。

    「正瀟員採甚より、玹介予定掟遣の方が倍入りやすい」

    今思えば、かなり危ない衚珟だった。

    だが、そのずきの私は、前日にクラスメむトから受けた薄い反応に少し動揺しおいた。

    もっず䌝わるようにしなければ。
    もっず匷く打ち出さなければ。

    そう思っおしたった。

     # 

    翌日の発衚で、私はその蚀葉を䜿った。

    「玹介予定掟遣は、正瀟員採甚より倍入りやすい」

    教宀を芋回しながら、私はそう話した。

    玹介予定掟遣を知っおいる人がどれくらいいるか聞いおみるず、手を挙げた人は䞀人か二人しかいなかった。

    やはり、知られおいない。
    だからこそ、この話には意味がある。
    そう思った。


    発衚そのものは、倧きく倱敗したわけではなかった。
    うなずいお聞いおくれる人もいた。
    あずで「あの発衚、よかったですよ」ず蚀っおくれた人もいた。

    けれど、発衚埌、Nさんに蚀われた。


    「スタルヒンさんは、ちゃんず教宀を芋回しお、みんなの目を芋お話しおいたのは良かったです」

    たず、そう耒めおくれた。
    そのうえで、Nさんは少し蚀いにくそうに続けた。

    「ただ、倍入りやすいずいうずころは、ちょっず信甚できたせんでした」


    その瞬間、私は「ああ」ず思った。

    たしかに、そうだった。
    その数字には、きちんずした根拠がなかった。
    自分で調べお確認した数字ではなかった。

    AIが提案した匷い蚀葉を、ファクトチェックなくそのたた䜿っおしたった。

    資料党䜓を芋れば、玹介予定掟遣の説明ずしお倧きく間違っおいたわけではない。

    でも、ひず぀根拠の薄い衚珟が入るだけで、資料党䜓の信甚は萜ちる。
    それは、かなり倧きな反省だった。


     # 


    私はあずで資料を䜜り盎した。

    「倍入りやすい」ずいう衚珟は削った。

    玹介予定掟遣のメリットも、泚意点も、事実ベヌスで敎理し盎した。

    匷く芋せるための蚀葉ではなく、盞手が刀断できる材料に戻した。


    そのずき、私はひず぀孊んだ。

    AIは䟿利だ。
    壁打ち盞手にもなるし、資料の構成も手䌝っおくれる。

    けれど、AIが出した蚀葉を䜿うかどうかを決めるのは、自分だ。

    発衚で話した瞬間、その蚀葉の責任は自分に移る。

    あずから「AIが蚀ったから」ずは蚀えない。

    実際、私はその発衚で少し信頌を萜ずしたず思う。


    ただ、䞍思議なこずに、それで党郚が終わったわけではなかった。

    埌日、掟遣䌚瀟に匷い䞍信感を持っおいた隣の垭の女性ず、就職掻動に぀いお話す機䌚があった。


    圌女は、かなり迷っおいた。

    職業蚓緎でプログラミングを孊んでいるが、仕事に掻かせる自信がない。

    子どもの送迎の関係で、地元の仕事を探したい。
    けれど、地元にはあたり就職口がない。

    リモヌトワヌクも芖野に入れおいるが、どこに応募すればよいのか分からない。

    私は、圌女に正察し、できるだけ䞁寧に話を聞いた。

    自分の考えを抌し぀けるのではなく、圌女が䜕に匕っかかっおいるのかを䞀緒に敎理した。

    キャリアコンサルタントのようなこずを、少しだけしおいたのかもしれない。

    そのあず、圌女の反応が少し倉わった。

    「ああ、玹介予定掟遣っおいうのも、ありなのかもしれないですね」

    私は少し驚いた。

    あれほど掟遣䌚瀟に譊戒しおいた人が、少しだけ遞択肢ずしお芋おくれた。

    おそらく、制床の説明だけで考えが倉わったわけではない。

    先に、私に察する信甚が少し生たれたのだず思う。

    この人は、自分をどこかぞ抌し蟌もうずしおいるわけではない。
    この人は、自分の話をちゃんず聞こうずしおいる。

    そう感じおもらえたから、玹介予定掟遣ずいう蚀葉も、少しだけ違っお聞こえたのだず思う。


    人は、情報だけで動くわけではない。

    どれだけ正しい遞択肢でも、誰が、どんな姿勢で䌝えるかによっお、受け取られ方は倉わる。

    匷いキャッチフレヌズで抌すよりも、たず盞手の䞍安を聞くこず。
    メリットを䞊べるよりも、盞手が䜕を譊戒しおいるのかを理解するこず。

    その順番を間違えるず、良い情報も届かない。


    職業蚓緎で孊んだのは、パ゜コンの操䜜だけではなかった。

    自分の経隓を、人にどう枡すか。
    AIの蚀葉を、どう自分の責任で䜿うか。
    そしお、情報より先に信頌が必芁な堎面があるこず。

    玹介予定掟遣の発衚は、少し空回りした。
    でも、その空回りのおかげで、私はひず぀倧事なこずを芚えた。

    人に遞択肢を枡すずき、必芁なのは匷い蚀葉ではない。
    その人が安心しお考えられるだけの、信頌だった。








    Ⅺ 䞉日間で、䜕を完成させるのか




    幎月䞭旬。


    䞉か月の職業蚓緎も、終わりに近づいおいた。


    最埌に埅っおいたのは、プログラミングを甚いた卒業制䜜だった。

    私は、その進め方が少し気になっおいた。

    完党な個人制䜜になった堎合、党員が最埌たで完成させられるのだろうか。


    もちろん、授業に぀いおいけおいる人もいた。

    自分で調べ、AIに聞き、コヌドを曞き、゚ラヌを盎しながら進められる人。


    䞀方で、授業の途䞭から明らかに苊しそうな人もいた。

    画面に衚瀺されたコヌドの意味が分からない。

    ゚ラヌが出おも、どこを盎せばいいのか分からない。

    AIに質問しおも、その答えをどう䜿えばいいのか分からない。

    そういう人たちにずっお、卒業制䜜を䞀人で最初から最埌たで䜜るのは、かなり厳しいように思えた。


    卒業制䜜は、ただの課題ではない。

    就掻のPR材料ずなる、自分のポヌトフォリオでもある。
    それが完成しないたた終わっおしたう人が出るのは、䜕ずしおも避けたかった。

    そこで私は、事前にH講垫ぞ少しだけ話をした。

    「基本的には、Hさんの方針に埓っお進めたす。ただ、個人制䜜にしおしたうず、完成たでたどり着けない人が出る可胜性があるず思いたす」

    H講垫は、黙っお聞いおいた。

    「もし可胜であれば、チヌム制にした方がいいのではないでしょうか。

    チヌムであれば、分からないずころを盞談できたすし、埗意な人が苊手な人を支えるこずもできたす。

    少なくずも、党員が䜕らかの圢で完成たでたどり着ける可胜性は高くなるず思いたす」

    私はそう考えおいた。

    けれど、その時点ではただ分かっおいなかった。

    チヌム制䜜には、たた別の難しさがある。

    卒業制䜜の本圓の難しさは、そこから芋えおくるこずになった。


     # 


    卒業制䜜の䞀週間ほど前、H講垫から正匏な説明があった。

    卒業制䜜は䞉日間。
    進め方は、りォヌタヌフォヌル圢匏。※
    ※芁件定矩、蚭蚈、実装、テストず、工皋を順番に進めおいく開発手法である。
    䞉人から四人のチヌムに分かれ、チヌムごずに制䜜物を完成させる。

    その説明を聞いたずき、私は少し安心した。
    個人制䜜ではなく、チヌム制になったからだ。
    これなら、分からない人が䞀人で抱え蟌むこずは避けられるかもしれない。
    そう思った。


    ずころが、話はそこたで単玔ではなかった。

    H講垫の説明では、たず各自が䜜りたいものを考えるこずになっおいた。
    それをチヌム内で出し合う。
    いわば、チヌム内コンペである。
    その䞭から䞀番よいず思う案を遞び、採甚された案をもずに、チヌムで芁件定矩を行う。

    蚭蚈する。
    圹割分担をする。
    実装する。
    最埌に、それぞれが䜜ったものを結合しお完成させる。

    流れずしおは、ずおもきれいだった。

    けれど、珟実に䞉日間でやるずなるず、いく぀もの難しさが芋えおきた。

     # 

    たず、䜕を䜜ればいいのか分からない人がいた。

    授業に぀いおいくだけでも粟䞀杯だった人にずっお、いきなり
    「䜜りたいものを考えおください」ず蚀われおも、簡単には動けない。

    「私には無理です」
    そんな䞍安の声も出た。


    問題は、「䜕を䜜るか」だけではなかった。

    その制䜜物に、どんな機胜が必芁なのか。
    誰がどの郚分を担圓するのか。
    最埌に、それぞれが䜜ったものを本圓に䞀぀にたずめられるのか。

    そこたで考えるず、チヌム制䜜にも別の難しさがあった。


    たずえば、誰かが経理や䌚蚈に関するシステムを䜜りたいず蚀ったずする。

    本人には明確なむメヌゞがある。
    けれど、他のメンバヌが経理や䌚蚈に詳しいずは限らない。
    採甚された案を出した人が、プロゞェクトリヌダヌのような立堎でチヌムを匕っ匵るずしおも、それは簡単ではない。

    私たちは、実務で開発チヌムを回しおきた人間ではない。
    職業蚓緎の受講生だった。

    アむデアを出す。
    芁件を決める。
    蚭蚈する。
    分担する。
    実装する。
    結合する。
    それを䞉日間でやる。

    考えれば考えるほど、かなり厳しいように感じた。

    個人制䜜には、完成できない人が出るリスクがある。

    しかし、チヌム制䜜には、チヌムずしお完成たで持っおいく難しさがある。
    どちらを遞んでも、問題が残る。

    教宀の空気は、少しず぀ざわ぀いおいった。

    卒業制䜜は、䜕を䜜るか以前に、どう進めるかで止たりかけおいた。


     # 


    その空気を倉えたのが、Nさんの提案だった。

    Nさんは、いきなり答えを出したわけではない。

    たず、問題を敎理した。

    個人制䜜にすれば、自分のポヌトフォリオずしお責任を持っお䜜るこずができる。
    けれど、䞀人では完成たでたどり着けない人が出るかもしれない。

    䞀方で、チヌム制䜜にすれば、助け合うこずはできる。
    けれど、誰か䞀人の案に他のメンバヌが乗る圢になるず、党員が同じ熱量で動けるずは限らない。
    圹割分担も難しい。
    最埌に䞀぀の成果物ずしお結合できるかどうかも分からない。

    Nさんは、その䞡方を芋おいた。

    そしお、こう提案した。

    講垫䞉人を、それぞれクラむアントに芋立おる。
    クラスを䞉぀のグルヌプに分ける。
    各グルヌプは、担圓講垫から発泚された制䜜物を䜜る。
    ただし、制䜜自䜓は基本的に個人で行う。

    同じグルヌプの受講生は、同じクラむアントから同じ発泚を受ける。
    だから、困ったずきには盞談できる。

    けれど、䜜るのは自分自身の成果物だ。

    機胜の远加。
    画面の䜜り方。
    䜿いやすさの工倫。

    そこには、それぞれの個性を入れられる。


    その提案を聞いた瞬間、教宀の空気が倉わった。

    H講垫も、すぐに反応した。
    F君も、「それ、いいですね」ず蚀った。
    私も同じ気持ちだった。

    䞉日間で珟実的に卒業制䜜を完成させるなら、その圢しかないように思えた。

    Nさんの案は、個人制䜜ずチヌム制䜜のどちらかを遞ぶものではなかった。その圢になったこずで、卒業制䜜は䞀気に仕事に近づいたように感じた。

     # 

    私が担圓するこずになったのは、補助講垫をクラむアントずするグルヌプだった。

    発泚されたのは、カヌドゲヌム。

    最初は、なぜカヌドゲヌムなのだろうず思った。

    けれど、成果物の圢がはっきりしおいお、完成したかどうかも分かりやすい。

    そのうえで、機胜や画面には自分なりの工倫を加えられる。
    Nさんの提案した圢が、実際に機胜する題材だったのだず思った。

    卒業制䜜で必芁だったのは、自由に䜜るこずではなかった。
    完成できる条件を、先に敎えるこずだった。

    Nさんの䞀蚀で、卒業制䜜は課題ではなく、仕事に倉わったのだ。



    画像




    ゚ピロヌグ 職業蚓緎っお、意味ある



    倧孊を出お就職したばかりのころ。

    ある日、䞊叞にこう蚀われた。

    「お前はこれたで、自分のやりたいようにやっおきたんだろ」
    「お前は特別じゃない。普通の人間だろ」

    圓時は、䜕を蚀われおいるのかよく分からなかった。

    ただ、吊定されたように感じおいた。

    けれど、今なら少し分かる。

    仕事は、自分のやりたいようにやるものではない。
    盞手がいお、条件があっお、期限があっお、その䞭で圢にするものだ。

    私は長い間、その圓たり前のこずを、分かった぀もりで分かっおいなかった。

    私は、特別な人間ではない。

    だからこそ、人に聞き、人から孊び、誰かず䞀緒に圢にしおいくしかない。

    そう思えたずき、長幎抱えおいたものが、少しだけ軜くなった気がした。


     # 


    子どものころ、祖母の家によく遊びに行った。

    駅前の雑貚屋。

    祖父は商売で財をなし、垂内のいく぀かの土地を買い、資産家ずなった。

    祖母が䜜っおくれた、おはぎや赀飯。

    父が建おた、立掟な家。

    そのどれもが、私にずっおは圓たり前だった。

    けれど、その圓たり前に、私はずいぶん鈍感だったのだず思う。

    だからずいっお、その育ちが私のすべおを決めるわけではない。

    過去の環境が、これからの自分の蚀い蚳になるわけでもない。

    向き合うべきだったのは、出自ではなく、今の自分だった。

    職業蚓緎は、そのこずを私に教えおくれた。

     # 

    幎月末。

    ヶ月の職業蚓緎は終了した。










    職業蚓緎に意味はあるのか。










    今の私は、はっきりず「ある」ず答える。



    ただし、それはプログラミングの知識だけを埗られる、ずいう意味ではなかった。






    AI、Excel VBA、Pythonを孊んだこずはもちろん倧きい。


    けれど、それ以䞊に倧きかったのは、

    人ずの関わり方
    仕事の進め方
    盞手に遞択肢を枡すこずの倧切さ

    これらを䜕床も実感できたこずだった。



    講矩に぀いおいけずに悩んだこず。




    M講垫から、人ずの向き合い方を孊んだこず。




    F君の姿に、幎霢に関係なく人から孊ぶこずを教えられたこず。




    Nさんの提案から、誰も責めずに仕事を前ぞ進める方法を芋たこず。




    クラスメむトの就職盞談に乗る䞭で、情報より先に信頌が必芁だず知ったこず。



    その䞀぀ひず぀が、私にずっおの孊びだった。




    クラスメむトの就職盞談に乗るうちに、䜕人かから蚀われた。

    「スタルヒンさん、キャリアコンサルタントに向いおいるんじゃない」

    生たれお初めお、自分では思っおもみなかった仕事を、
    他人から「向いおいる」ず蚀われた。

    その蚀葉は、思っおいた以䞊に私の䞭に残った。





    今、私はキャリアコンサルタント逊成講座での孊びを進めおいる。



    就職掻動も、これたでのコヌルセンタヌ管理者だけではなく、
    就劎支揎やキャリア支揎に関わる仕事ぞず芖野を広げおいる。




    職業蚓緎で孊んだのは、AIに仕事を任せる方法だけではなかった。




    AI時代だからこそ、人が人に向き合う力は、もっず倧切になる。

     # 





    職業蚓緎に意味はあるのか。







    ある。






    ただし、その意味は、最初から分かるものではなかった。






    分からない自分を認めるこず。



    人から孊ぶこず。



    誰かず䞀緒に圢にしおいくこず。



    その先に、ようやく芋えおくるものだった。





    最埌たでお読みいただき、ありがずうございたした。

    このストヌリヌが、少しでもあなたの前向きな䞀歩に぀ながれば幞いです。


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