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サラリーマンクビ。50代で俳優に全振りします

    ■ あらすじ
    会社をクビになった50代のサラリーマン。

    人生のどん底に立たされた男が、自分自身に問いかける。

    「これから、どう生きる?」

    セカンドライフや人生の学び直しは、資格を取ることや新しい仕事に就くことだけではない。

    自分の本当に好きなことに挑戦することも、新たな人生の始まりになる。

    実話をもとに描く、50代から俳優を目指した一人の男の再出発の物語。

    ⸻

    シーン1 会社・部長室

    部長室。

    重苦しい空気。

    神村が部長の前に座っている。

    部長
    「神村くん、なぜ呼ばれたか分かるか?」

    神村
    「はい……何となく。」

    部長
    「結果が出ていないやつは他にもいる。でも君は、プロセスが悪すぎる。」

    神村
    「……と言いますと?」

    部長
    「俺が言ったことを守らない。地主のところへ一人で交渉に行くなって言ったよな。」

    「結果を出そうと思って動いたんだろうけど、それが会社では通用しないんだよ。」

    「もう……限界なんだ。」

    神村は黙って俯く。

    部長
    「もう、君の面倒は見切れないということだ。」

    神村
    「結果を出せていないことは分かっています。でも、会社のためにこれからも頑張るつもりです!」

    部長
    「遅いんだよ……もう。」

    神村
    「部長の部署がダメなら、電話営業の部署はどうでしょうか? 電話対応なら得意です。」

    部長
    「他の部署にも掛け合ってみた。でも、どこも同じ返事だったよ。」

    神村
    「お願いします……。クビにしないでください!」

    部長は苦しそうな表情で神村に向かって深く頭を下げる。

    神村はその姿を見つめる。

    やがて静かに口を開く。

    神村
    「……分かりました。今まで、お世話になりました。」

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    ナレーション

    「こうして、私のサラリーマン人生は終わりを告げた。」

    新宿の街並み。
    神村は、慌ただしい雑踏の中を、肩を落とし、うつむき加減で歩いている。足取りは重く、どこか虚ろだ。

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    新宿ハローワークのビルを見上げる。

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    神村が雇用保険の受給手続きを終え、待合椅子に座っている。

    周囲には同年代の求職者たち。

    誰もが黙って順番を待っている。

    神村は窓の外をぼんやり眺める。

    ナレーション

    「仕事がない……。」

    「これから、どうするんだ……俺は。」

    求職者の手引きを持った手がわずかに震える。

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    シーン2 神村宅、憂鬱

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    夕方。

    玄関のドアが開く。

    妻
    「おかえりなさい。」

    神村
    「ただいま。」

    妻は神村の表情を見て異変を感じる。

    妻
    「元気ないね。どうしたの?」

    神村は黙って椅子に座り、大きく息を吐く。

    神村
    「あのさ……俺、今日でクビになった。」

    「二週間は有給扱いでいいって。」

    妻
    「えっ……クビ? どうして?」

    神村
    「いきなりじゃないよ。」

    「去年から兆候はあったんだ。」

    「横浜支店へ異動になった頃から、何となく覚悟はしてた。」

    少し間。

    神村
    「……どうしよう。」

    妻は少し考え、静かに微笑む。

    妻
    「決まったことなら仕方ないわね。」

    「でも、今の会社……まさきさん、ずっと辛そうだった。」

    「私は生活していければ大丈夫。」

    少し沈黙。

    妻
    「じゃあ……これから、どうするの?」

    神村は答えられない。

    静かな時間だけが流れる。

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    シーン3 神村宅・奮起

    神村はソファに座り、缶ビールを眺めている。

    妻
    「どうせなら、これからはお金じゃなくて、自分の好きなことをやってみたら?」

    神村
    「好きなこと……。」

    少し考える。

    「昔、趣味でやっていた演劇……かな。」

    妻
    「人生は一度きりなんだから。」

    「思い切って挑戦してみたら?」

    「私は応援するよ。」

    神村は妻の顔を見る。

    少し笑顔になる。

    神村
    「……そうだな。」

    「一度くらい、本気でやってみるか。」

    神村は缶ビールをテーブルに置き、ノートパソコンを開く。

    検索画面。

    『シネマランナーズ』

    「アマチュア映画出演者募集」

    スクロールする。

    『映画研究会 伊藤』

    「一緒に演技を通して表現してみませんか?」

    神村の目が輝く。

    神村
    「……これだ。」

    神村は迷わず、ワークショップの申し込みボタンをクリックする。

    ⸻

    シーン4 初川・公民館

    夕暮れの初川駅前。

    学生や会社帰りの人たちが行き交う。

    神村はチラシを見ながら公民館へ向かう。

    入口の案内板には、

    「17:30〜21:00 俳優研究会」

    と書かれている。

    神村は小さく深呼吸をして、貸し会議室のドアを開ける。

    ⸻

    貸し会議室。

    中央には長机。

    年配の男性が一人、資料を並べている。

    神村
    「あの……こんにちは。俳優研究会はこちらでよろしいでしょうか?」

    男性
    「ああ、参加者の方?」

    神村
    「はい。本日のワークショップに申し込んだ神村です。よろしくお願いします。」

    男性
    「主催の伊藤です。」

    「こちらでパンフレットと今日の台本を受け取って、後ろの椅子で少しお待ちください。」

    神村
    「ありがとうございます。」

    神村は台本を受け取り、席に座る。

    ページをめくる。

    神村(心の声)
    「この人も俳優なのかな……。」

    時計は午後五時半に近づく。

    少しずつ参加者が集まってくる。

    若い男女が楽しそうに話している。

    神村は周囲を見渡す。

    神村(心の声)

    「若い人ばかりだな……。」

    「50代は、俺一人か。」

    「まあ、いい。」

    「今日から、ここが俺のスタートだ。」

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    伊藤

    「それでは、本日のワークショップを始めます。」

    「まずは、一人ずつ自己紹介をお願いします。」

    伊藤が微笑みながら神村を見る。

    伊藤
    「神村さんからお願いします。」

    神村は立ち上がる。

    神村
    「初めまして。神村真佐輝です。」

    「東京都八王子市出身です。」

    「学生時代にミュージカルを少し経験しました。」

    「先日、不動産会社を退職し、第二の人生として俳優に挑戦しようと思い、参加しました。」

    「よろしくお願いします。」

    室内は静まり返る。

    数人が神村を見つめる。

    神村はその視線を受け止める。

    神村(心の声)

    「……よし。」

    「今日は、とにかく楽しもう。」

    シーン5 演技とは

    伊藤が参加者に台本のストーリーと各シーンについて丁寧に説明する。

    伊藤
    「今日は、このシーンをやります。シーン35。」
    「会社に帰社してきた営業マンの鈴木と、将来職場結婚する相手の富山さんが、少し距離を縮める場面です。」

    参加者は台本に目を通す。

    ⸻

    〈劇中劇・台本〉

    鈴木
    「お疲れ様です」

    富山
    「お疲れ様〜」

    鈴木
    「富山さん今日は残業ですか?」

    富山
    「取引先から連絡が来て、どう対応しようか困ってて、鈴木くん聞いてくれる」

    鈴木
    「はい」

    富山
    「発注した型番と色が違うって言ってきているんだけど、見てもわからないのよね。一応、上席に確認して折り返ししますって言ったんだけど。課長が来週まで出張でしょう。どうしようかなと思って」

    鈴木
    「分かりました。その件僕に任せて下さい」

    富山
    「ありがとう、今度、ランチのお礼するわね」

    鈴木
    「あ、ありがとうございます。ぜひご一緒させてください!」

    (ト書き:照れながら嬉しそうに)

    ⸻

    伊藤
    「では、順番にやっていきましょう。神村さんから。」

    神村(心の声)
    「また一番か……。」

    周囲の視線が集まる。神村は緊張しながら前へ出る。

    ⸻

    伊藤
    「よーい……スタート!」

    パンッ! 手を叩いて合図を出す。

    神村は鈴木役を演じる。

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    伊藤
    「カット。」

    静かな空気が流れる。

    伊藤
    「神村さん。セリフは覚えていて当たり前だが、鈴木の気持ちが見えてこない。」
    「富山さんに『ランチのお礼するわね』って言われて、本当に嬉しかった?」

    神村は黙ってうなずく。

    伊藤
    「だったら、その嬉しさを見せないと。演技は、セリフを言えばいいわけじゃない。」
    「その場で生きている人間の感情を相手に届けることなんだ。」

    少し間を置く。

    伊藤
    「じゃあ、もう一回、やってみようか。鈴木の気持ちになって、もっと富山さんを意識して。」

    ⸻

    伊藤
    「よーい……はい!」

    神村は、前に付き合っていた彼女から誘われたときのことを思い出しながら、嬉しい気持ちを笑顔で表してみる。

    伊藤
    「カーット!」

    伊藤は少し首をかしげる。

    伊藤
    「神村さん、前よりは自然になったけど、演劇をしてるんだよなぁ……。」
    「そのキャラだったらどう行動するか、考えてみないと。」

    神村は何も言えない。

    その後も、何度もやり直しが続く。神村は伊藤の言わんとすることを頭では分かっていても、うまく出すことができない。他のシーンでも、同じことの繰り返しだった。

    神村(心の声)
    「……分かっているのに、思う様に出せない。」

    歯痒さと無力感が神村の中に広がっていく。俳優への道が、少しずつ遠のいていくように感じられる。

    ⸻

    ワークショップ終了後。参加者が三々五々、公民館を出ていく。

    帰り支度をする神村に、伊藤が声をかける。

    伊藤
    「お疲れさん。最初はそんなもんさ。」

    神村は振りながら
    「、、、、、はい。」

    伊藤
    「でも、神村さんは必死になって演じようとしていた。俳優には、情熱とひたむきさが重要だ。君は案外向いているかもしれない。」
    「趣味でも、本気でも構わない。でも、人前で演じるなら、役の人生を生きる覚悟は持ってほしい。」

    神村は何も言えない。その言葉が胸に突き刺さる。

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    神村(ナレーション)
    「この日、私は初めて知った。」
    「演技は、演じることじゃない。」
    「生きることなんだ。」
    ⸻

    シーン6 初めての商業作品

    (モンタージュ)

    ワークショップへ通う神村。

    ノートにメモを取る。

    鏡の前で台本を読む。

    映画やドラマのエキストラとして、少しずつ現場へ立つようになる。

    ⸻

    ある日の撮影現場。

    助監督

    「神村さん、今日は会社の上司役です。」

    「退勤前に会社の不正資料を見つけるシーンです。」

    「セリフは一言。」

    『これは……!』

    神村は小さくうなずく。

    神村(心の声)

    「一言だけか。」

    「これなら大丈夫だ。」

    ⸻

    助監督

    「テストいきます!」

    「よーい……はい!」

    神村は退勤の準備を終え、歩き出す。

    机の上の封筒に気づく。

    手に取り、中を見る。

    神村

    「これは……!」

    ⸻

    助監督

    「カット!」

    少し間。

    助監督

    「神村さん、今回はセリフなしでいきましょう。」

    神村は一瞬、言葉を失う。

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    神村(心の声)

    「一言でも、場に合わなければ使われないのか……。」

    その後も立ち位置や目線、表情を何度も修正される。

    五回、六回と撮り直しが続く。

    撮影終了。

    神村は一人、深く息を吐く。

    その時、伊藤氏の言葉が頭によみがえる。

    伊藤(回想)

    「演技は、セリフを言うことじゃない。」

    「その場で生きている人間の感情を届けることなんだ。」

    神村(ナレーション)

    「商業作品の現場は、想像していた以上に厳しかった。」

    「でも、その厳しさが、俳優という仕事の本当の面白さでもあった。」

    ⸻

    シーン7     俳優人生の始まり

    季節が流れる。

    ワークショップ。

    オーディション。

    エキストラ出演。

    神村は少しずつ経験を積み重ねていく。

    ⸻

    商業ドラマの撮影現場。

    スタッフが慌ただしく準備を進めている。

    神村は衣装を身にまとい、静かに深呼吸をする。

    助監督

    「本番いきます!」

    神村は役として、その世界を生きる。

    監督

    「カット!」

    「OKです!」

    神村は小さく息を吐き、空を見上げる。

    穏やかな笑顔。

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    ⸻

    ナレーション

    「ここから、僕の俳優人生が始まった。」

    少し間。

    「僕が選んだ学び直しは、俳優だった。」

    さらに間。

    「僕は、50代で人生を演じ直すことにした。」

    神村は撮影現場を歩き出す。

    その背中を朝日が照らす。

    フェードアウト。

    END

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    俳優、シンガーソングライター、表現者 映画『カラオケ屋兆治』挿入歌「ラバーズブルー」を武田一多朗名義でリリース。 ショートドラマ、シネマプロデュース作品などで俳優として活動。 TikTokではギター弾き語りや歌唱動画を投稿。さだまさしさんの楽曲カバー企画を進行中!

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