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【162】 船津の裏山あたりで行はれた事件

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    (*写真は河口湖)

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    カチカチ山の物語に於おける兎は少女、さうしてあの慘みじめな敗北を喫する狸は、その兎の少女を戀こいしてゐる醜男ぶおとこ。これはもう疑うたがひを容いれぬ儼然がんぜんたる事じ實じつのやうに私には思はれる。

    これは甲州、富士五湖の一つの河口湖畔、いまの船津ふなつの裏山あたりで行おこなはれた事件であるといふ。甲州の人情は、荒あらつぽい。そのせゐか、この物語も、他のお伽とぎ噺ばなしに較くらべて、いくぶん荒あらつぽく出來てゐる。だいいち、どうも、物語の發ほっ端たんからして酷こくだ。婆ばば汁じるなんてのは、ひどい。お道化どけにも洒落しゃれにもなつてやしない。

    狸も、つまらない惡戲いたずらをしたものである。縁の下に婆さんの骨が散らばつてゐたなんて段だんに到いたると、まさに陰慘いんさんの極度きょくどであつて、所謂いわゆる兒童じどう讀物よみものとしては、遺憾いかんながら發賣はつばい禁止きんしの憂うき目めに遭あはざるを得ないところであらう。現今げんこん發行はっこうせられてゐるカチカチ山の繪え本ほんは、それゆゑ、狸が婆さんに怪我をさせて逃げたなんて工ぐ合あひに、賢明にごまかしてゐるやうである。

    それはまあ、發賣はつばい禁止きんしも避けられるし、大いによろしい事であらうが、しかし、たつたそれだけの惡戲いたずらに對ふうする懲ちょう罰ばつとしてはどうも、兎の仕打しうちは、執拗しつようすぎる。一撃いちげきのもとに倒すといふやうな颯爽さっそうたる仇あだ討うちではない。生なま殺ごろしにして、なぶつて、なぶつて、さうして最後は泥舟どろぶねでぶくぶくである。その手段は、一から十まで詭計きけいである。

    これは日本の武士道の作法ではない。

    『お伽草紙 カチカチ山』(太宰治)

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    太宰のお伽草子は、芥川の桃太郎、猿蟹合戦、かちかち山に触発されたものだと個人的には解釈している。太宰が逗留していた河口湖畔の天下茶屋にて執筆され、船津の裏山(天上山)がカチカチ山となった。元々謂いわれがあった訳ではなく、太宰の創作である。

    河口湖天上山公園のウサギは、ご多聞に漏れず例のアルビノアナウサギ。嘆かわしいことだ。

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    Amazon Kindle でトリに関する本や写真集を出版しています。 昭和後期のサブカルチャーの研究をライフワークにしています。

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