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【232】 狐の嫁取といふこと

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    (写真は狐火のイメージ(青))

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    狐火は今でも狐の嫁入りと伴ともなふものゝ如く、考へて居る土地は多いやうだが、大だい體たいに追々二つ別々の話とならうとして居る。是これまで一向に人は注意しなかつたけれども、動物の中でも特に狐に限つて嫁取りの沙さ汰たがあるのは理由が無くてはならぬ。

    偶然に傳つたはつて居た右の二に地じの俗信は、少しばかり此問題に手がかりを與あたへるものと言つてよからう。自分等の假か定ていでは、女性の生活の一大激げき變へんたるべき婚姻と産育と二つの時が、最も狐神の信仰の發はつ露ろし易い時ではなかつたかと思ふ。

    それが餘あまりにもけうとい信仰であつた故に、夙つとに離り背はいせられて笑わらい話ばなしの方へ移うつつたものと見るときは、僅わずか切れぎれに殘のこつて居る民間の昔話も、大切に蒐しゅう集しゅうして置く必要が極めて大である。

    何となればそれは單たんに古代人の幼稚な天然崇拜の状態を尋たずねる手段であるに止とまらず、一方又我々の人事風習の最も肝要な一つが、如い何かなる經路を經へて現在の制度方式に爲なつたかを、明あきらめるの資料でもあるからである。

    狐の昔話にはよく婚こん禮れいの行列を騙だまして、野の路じをさまよはせ、若もしくは本物より先に乘のり込こんで料理を食つたとか、石地藏を新しい閨ねやに送り込んだといふ外ほかに、更に狐の産うぶの床とこへ醫い師し産さん婆ばを招いたといふ不思議譚たんも分布して居る。

    この二つは必ず關かん聯れんする所があるかと思ふ。以前の嫁よめ迎むかへは聟むこ入いりよりもずつと後、多くは姙にん娠しんの徴候が現あられてからであつたらしいから、婚禮と産との二大事件は、今よりも遙かに密接な關かん係けいを持つて居たのである。

    『狐の嫁取といふこと』(柳田國男)

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    『名所江戸百景』
    「王子装束ゑの木 大晦日の狐火」
    (歌川広重)
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    『狐の嫁入り』
    (歌川芳虎)

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    Amazon Kindle でトリに関する本や写真集を出版しています。 昭和後期のサブカルチャーの研究をライフワークにしています。

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