
『海の帝国オキナガの逆襲 〜白村江の幻影〜』第三話
第三話:百済の王子とのハメ技
「さてと……」ナカノオオエは考え込んでいた。蘇我の排除という点では、筑紫も豊も同調できる。だが、どうやってあの巨大な怪物を切り崩す?
彼は、人質として豊の杜に滞在していたカマタリこと百済(くだら)の王子ホウショウに相談した。
すると、カマタリはいとも簡単に言った。
「謀反を企てたとして、大王(カシキヤヒメ)の前でたたき切ればいいじゃないですか」
ナカノオオエは慄きながら「誰がやるんだ」と言うと、これまたあっさりと、カマタリは冷たい目を向けた。
「あなたをおいて他にはいません。すでに筑紫と豊の意志は決まっている。ならば、ためらうことはない」
「仕方ないなぁ……でも、カマタリも手を貸してくれよな」
そして、ほどなくこの計略は実行された。
――乙巳(いっし)の変。蘇我、抹殺完了。
この時、カマタリことホウショウは、もはや自分に帰る国(百済)はない、このヤマトで生きていくほかないのだと冷徹に割り切っていた。そのためには、このナカノオオエの心に深く食い込み、その手綱をがっちりとつかんでおく必要がある。カマタリは、ナカノオオエのもとに妻として自分の娘たちを次々と送り込んだ。そのうえで、完璧なハメ技をナカノオオエに耳うちしたのだ。
「唐と結びましょう。新羅のスパイが商人としてこの杜にやってきております。彼らを通じて先ずは、我らの安泰を図った上で、オオアマに泣きつくことにします」
「どういうことだ?」
すぐに筋書きが読み取れなかったナカノオオエに、カマタリは不敵に微笑んだ。
「『どうか私の祖国をお救いください。オキナガの力でお守りください』……こう涙ながらに訴え、オキナガの艦隊を白村江に向かわせるのです。そして、唐の無敵艦隊に、オオアマもろとも海の藻屑としてやるのです」
ナカノオオエは慄いた。このカマタリという男、心底恐ろしい男だ。蘇我を消す時にも思ったが、決して敵に回してはならぬ男だと、ナカノオオエは心に刻んだ。だが、その恐ろしい計略は、ナカノオオエのオオアマへの憎悪をこれ以上ないほどに満たしてくれるものだった。
――そして、カマタリの計略通り、オキナガの艦隊は全滅したという報が届いたのである。