メインコンテンツへスキップ
見出し画像

聖騎士編③ 観測者アルスは解き明かしたい

    邑沢 迅

    「大司教様、万歳!」「『白き刃』に栄光あれ!」

     抜けるような青空の下。
     王都の大通りはパレードを歓迎する市民たちの熱狂的な歓声と、
     花吹雪に包まれていた。

     豪奢な装飾が施された馬車に乗る大司教のすぐ横。
     私は馬上から市民たちに穏やかな微笑みを向け、威風堂々と胸を張って進んでいた。
     沿道の市民たちは私を見て「さすがは高潔なる聖騎士様だ」と称賛の声を上げている。
     部下たちも、微塵の隙もない私の背中を見て誇らしげだ。

    『――三番街、右手の時計塔からの狙撃。貴方の死の、急所だ』

      チクリ。

     あの日からずっと脳裏にこびりついているくだらない一文。
     
     だが、私に恐れなどない。
     私は聖騎士だ。
     神の加護を得た私が、異端者の薄汚い脅し文句などに屈するはずがない。
     私は兜の下でも表情を崩さず、真っ直ぐに前を見据えていた。

    「ユリウス隊長。
     間もなく、大通り三番街に差し掛かります。
     人の熱気が特に多い箇所です」

    「うむ。気を引き締めろキース。我らは神の盾だ。
     いかなる時も、矜持を忘れるな」

    「ははっ!」

     若き斥候は、私の言葉に目を輝かせて力強く頷いた。
     そうだ、これでいい。

     私に死の恐怖など微塵もない。私こそが絶対たる正義の体現者だ。

       チクリ。

     奥歯をそっと噛み締め、馬を歩ませた、その直後だった。

    『――塵となれ』

     歓声を突き破るような、異端者達の詠唱。
     次の瞬間、あの手紙の予告と寸分違わぬタイミングで…
     三番街の死角、右手の時計塔の上が異質な光に包まれる。

    「襲撃だッ!! 大司教様をお守りしろ!!」
    「怯むな!! ユリウス様に続け!!」

     キースをはじめとした『白き刃』の隊員たちは、一切の迷いなく大司教の馬車の前に飛び出し、己の肉体を盾にするべく武器を構えた。

     私も、馬を蹴って宙を舞い、彼らの前に立った。

    「恐れるな! 私が防ぐ! 私の背に隠れろっ!!」

     私は声を張り上げ、迫り来る魔法の前に両手を広げて立ちはだかった。
     恐怖などない。私の中に漲っているのは、純然たる正義の光。

     ――しかし。

     自分でも、信じられなかった。
     私の体は、私の『正義の意志』を完全に無視した。

     ドンッ!!

     閃光が着弾する、そのわずか数舜。

     微塵も死を恐れていなかったはずの純白の盾たる聖騎士は、
     恐怖で両目を固く閉じ――

     左首筋を守るように…無意識に右へと僅かに『身じろいで』いた。


    ←聖騎士編②  聖騎士編④→

    あなたへのおすすめ