
ストーリー遊び 東山線ずっと動き続けなくてええなも!
名古屋の西、高畑。
朝の東山線は、今日もすでに忙しかった。
中村公園、名古屋、伏見、栄、千種、今池、池下、覚王山、本山、東山公園、星ヶ丘、そして藤が丘へ。
通勤する人。
学校へ向かう高校生。
買い物に行く親子。
病院へ向かうおばあちゃん。
推し活のバッグを抱えた学生。
部活の道具を持った子。
黄色いラインの東山線くんは、みんなを乗せて、今日も名古屋のまんなかを駆け抜けていた。
「ぼくはアクティブ路線だでね。
でも、アクティブだからこそ、整備なしでは走れんのだわ」
東山線くんは、藤が丘工場の方をちらっと見た。
「地下鉄も、ずっと走りっぱなしじゃ安全に走れん。
点検して、整備して、また元気に走る。
人も同じだがね」
そのころ、名古屋駅に近いお店で、パートさんの子どもたちが集まっていた。
高校生の はると は、母がパート先でなかなか有給休暇を取っていないことに気づいていた。
「お母さん、また休みの日に家の用事全部やっとる……。
でも、職場では“忙しいから有休は言いにくい”って言っとった」
隣にいた中学生の妹、みお が首をかしげる。
「有給休暇って、旅行とか特別な理由がないと使えんの?」
その瞬間、ホームに入ってきた東山線くんが、ぴたりと止まった。
「ちがうがね!」
扉が開くと、東山線くんの声がホームいっぱいに響いた。
「有給休暇は、働く人のための休み。
理由は、いろいろでええんだわ。
家の用事、通院、勉強、子どもとの時間、気分転換、趣味、買い物、推し活。
“私用です”でも大丈夫だでね」
はるとは、目を丸くした。
「地下鉄の整備みたいなもの?」
「そうだがね!」
東山線くんは胸を張った。
「東山線が藤が丘工場で整備を受けるのは、さぼりじゃない。
名古屋の毎日を守るためだわ。
お母さんが有給休暇を取るのも、家族と自分の毎日を守るため。
休むことは、悪いことじゃないんだよ」
その日、はるととみおは家に帰ると、母にそっと言った。
「お母さん、東山線もずっと走りっぱなしじゃないんだって。
藤が丘工場で整備して、またみんなを乗せて走るんだって」
母は苦笑いした。
「でもねえ、店が忙しいし……」
みおが、ポスターを指さす。
「お母さんの心と体にも、定期点検が必要です。
それが年次有給休暇、って書いてあるよ」
はるとも続けた。
「休む理由は、家のことでも、私用でも、気分転換でもええんやって。
お母さんが倒れたら、ぼくらの毎日も止まっちゃう」
母は少し黙ったあと、スマホのシフト表を見た。
「……そうね。
来月、半日だけでも申請してみようかな」
その瞬間、どこからともなく東山線くんのベルが聞こえた気がした。
「その一歩、大事だがね!」
翌日。
はるとたちは学校で、友だちにも話した。
「東山線って、名古屋で一番忙しいくらいの路線だけど、ちゃんと整備するんだって」
「じゃあ、パートさんもアルバイトも、休むのは“止まる”じゃなくて“次のための整備”なんだね」
「そうそう。
ずっと動き続けなくてええなも!」
東山線くんは、今日も高畑から藤が丘へ走っていく。
名古屋の毎日を支えながら、こう呼びかけている。
がんばる人ほど、点検と整備が必要だよ。
お母さんも、パートさんも、学生アルバイトも。
有給休暇を取って、また元気に走ろう。
#創作大賞2026