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新しくて懐かしい

    ある土曜日の午後、夫と近所をウォーキングをしていた時、新しいお店があるのに気がついた。

    そこは50年以上前に建設された県営団地の近くで、かつて八百屋、魚屋、肉屋が軒を連ねていた場所だ。
    我が家は少し離れていたけれど、小学生だった私もよく母に連れられて買い物に来ていた。八百屋のおやじさんは声が大きかった。魚屋は外の店先で魚を捌いていて、その包丁使いを見物した。肉屋は冷蔵ケースの向こうにいて、皆、白衣を着ているせいか、なんだか清潔感があった。どの店も買い物客で賑い、活気があったが、もう長い間、閉じたシャッターが見慣れた景色になっていた。


    「なんのお店だろうね」と近づいてみると、看板にあったのは当時の肉屋の名前。思いがけない再会に嬉しくなった。
    買い物は済んでいたけれど、私たちは肉屋に立ち寄ってみることにした。店内は客3人でいっぱいになるくらいの広さだ。規模は以前の店の3分の1くらいだろうか。小型の冷蔵庫にパック入りの肉、ショーケースに量り売りと惣菜、カウンターに揚げ物とお弁当。
    奥で作業している男性に見覚えがあった。昔、お店を手伝っていた息子さんだ。接客しているのは奥さんだろう。息子夫婦でやっているようだ。
    夕飯のおかずにメンチカツを一つとコロッケを三つ買った。とてもおいしかった。夫はメンチカツをいたく気に入り、今度はお弁当が食べたいね、と言った。


    しばらくして、夫の仕事が午前中で終わり、昼前に帰ってきた日にお弁当を買いに行った。
    開店は11時半。店には12時前についたけれど、5、6人のお客さんが列を作っていた。買い物を済ませた人の買い物袋を覗くと皆お弁当を買っている。この時間は肉を買いにというよりお弁当が目当てなのだ。
    「並んでるね、どうする?」と夫に聞くと、「並ぶよ。こんなにお客さんがいて良かったよ。美味しいんだから。気付かれなくて潰れちゃったら大変だよ」という返事が返ってきた。そうだね、私もそう思う。
    年配の女性が「私、予約だから前に行って」と言ってくれたのですぐに店内に入れたけれど、お弁当は一つしか残っていなかった。そのお弁当も前の人が手にとっている。さいわい、前の人がお弁当を戻したので、自分のカゴに入れた。夫の第一希望だった国産牛のハンバーグ弁当だった。それと夕飯用の豚の細切れ肉、私はお弁当を諦めてメンチカツとカニクリームコロッケにした。
    揚げ物をパックに詰めていたのは、小学生の頃、買いに行くといつも優しかったお母さんだった。懐かしい顔に思わず声をかけたくなったが、とても忙しそうだったのでやめておいた。私はハムタイプのサラミが大好きで、よく母にねだって買ってもらったことをふと思い出した。


    今、団地は建て替え工事をしている。工事関係の人がお弁当をたくさん注文していた。
    スーパーは便利だけれど、最近、歳をとったせいか、無人レジが味気ないせいか、小さなお店で対面で買いたいなと思うことがある。
    団地の建て替え工事はまだまだ続くので、お弁当はよく売れるだろう。いずれ完成したら新しい住人も増える。肉屋が繁盛すれば、またここに店を開こうと思う人も出てくるかもしれない、そうなればいいなと思った。



    #創作大賞2026

    #エッセイ部門

     
     
    58歳。 読書、手芸、写真が好き。 夫と私と息子2人、大人4人で暮らしています。

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