
BIM審査の「第一号」を見て、住宅BIMの未来を考えてみる
2026年4月、日本ERIがBIM図面審査による確認済証の第一号を交付したというニュースが流れてきました。申請者は竹中工務店、モデルはArchicadで作成されたもの。事務所ビルの案件で、PDFの設計図書とIFCデータを併用して審査に対応したそうです。
正直な第一印象は「ついに来たか」でした。ただ、それと同時に「これは住宅にはまだ遠いな」というのが、日々確認申請の現場に立っている人間としての実感です。今日はこの温度差について書いてみようと思います。
第一号事例が示していること
この事例が象徴しているのは、確認申請という手続きが「2D図面をベースに審査する」というこれまでの前提から、「BIMモデルそのものを審査の材料にする」という前提へと、実際に一歩踏み出したという事実です。
竹中工務店側は、この日に備えて社内の設計モデル作成ガイドラインを2025年10月に改訂し、11月には全国の設計グループ長向けに説明会まで開いていたといいます。準備期間の長さを見るだけでも、これが「たまたま出来た」案件ではなく、組織として狙って取りに行った第一号だということが分かります。
日本ERI側も、以前から個別の営業所レベルでIFCモデルを使った審査補助の検証を重ねてきた延長線上に、今回の正式な制度化があります。つまりこれは突然変異ではなく、両者が数年がかりで積み上げてきたものが、ようやく実務のレールに乗った瞬間だということです。
なぜ「住宅BIMはまだ先」だと感じるのか
一方で、私が日々向き合っているのは年間400件超(省エネ・長期優良を含めれば600件超)の住宅系確認申請です。この現場感覚で言うと、住宅スケールでのBIM審査は、事務所ビルとは全く違う壁があります。
一つは、単純に住宅設計側のBIM運用が組織的に成熟していないこと。竹中工務店のように「モデル作成ガイドラインを改訂し、全国説明会を開く」ような体制を持てる住宅系の設計事務所や工務店は、まだほとんど存在しません。
もう一つ、これは私自身が実際にIFCデータを触ってみて痛感したことですが、IFCファイルは幾何形状のデータは持っていても、法適合確認に必要な属性データ(仕様や性能に関する情報)を十分に持たせられていないケースが多い。モデルの「見た目」は再現できても、審査に耐える「中身」を持たせるには、モデリングのルールそのものを作り込む必要があります。これは事務所ビルの一号事例でも同じ課題を抱えていたはずで、だからこそ竹中工務店はPDF図書を併用したのだろうと推測しています。
それでも「今」動く理由
ただ、だからこそ今のうちに手を動かしておく価値があると思っています。
制度が本格的に住宅スケールに降りてきたときに、モデルの作り方も、属性の持たせ方も、審査機関とのやり取りの作法も、ゼロから手探りで始める設計事務所がほとんどでしょう。そのときに「うちはもう分かっている」と言える状態を作っておけることは、単なる先進性のアピールではなく、実務のスピードと価格の両方における明確な優位性になります。
うちが日本ERIとの関係を続けながら、BIM審査の情報を追いかけているのも、突き詰めればそこに尽きます。制度が整う前に、制度の穴や癖を知っておく。これは審査機関と工務店の間に立つ「緩衝材」としての性分なのかもしれません。
住宅BIMの未来について、今の時点での見立て
今回の第一号事例を見て思うのは、「BIM審査は始まった。しかし住宅への波及にはまだ数年の時間差がある」ということです。事務所ビルのような大規模・大手主導のプロジェクトで実績とノウハウが積み上がり、それが徐々にモデリングのテンプレートや審査側の運用ルールとして標準化されたのち、ようやく住宅の世界に降りてくる。おそらくそういう順番になるはずです。
その「時間差」をどう使うか。傍観するもよし、今のうちに手を動かして先行者優位を作るもよし。うちは後者を選んで、小さくても実験を続けていくつもりです。