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一章 未完の恋

    一、未完の恋

    私は、初恋の人を忘れられないまま大人になった。

    出会いがなかったわけでもない。
    新しい恋ができなかったわけじゃない。

    それでも、なかなか前に進めなかった。

    気づけばどこかで比べていた。
    今の恋と、
    あの頃の気持ちと。

    ⸻

    思い出しているのは、
    たぶんあの人自身というより、
    あの恋をしていた頃の自分だ。

    まっすぐで、素直で、
    誰かを好きになることに理由なんていらなかった頃の私。

    ⸻

    あのときの私は、告白ができなかった。

    好きだったから。
    大切だったから。

    その一言で、
    今までの関係が壊れてしまう気がして怖かった。

    もし断られたら、
    今までの関係も、空気も、
    全部なくなってしまう気がした。

    ⸻

    だから私は、
    気持ちを伝えるよりも、
    関係を失わないことを選んだ。

    ⸻

    後悔していないと言えば、嘘になる。

    卒業してから、一度も会っていない。

    だから今でも、ときどき考えてしまう。

    もしも、あのとき、
    勇気を出していたら。

    もしも、ちゃんと伝えていたら。

    何かひとつでも、
    違う未来があったのではないかと。

    ⸻

    この「もしも」は、
    ずっと心に残っている。

    終わった恋ではなく、
    終わらせることができなかった恋だから。

    ⸻

    でも最近、ようやく思う。

    あのときの私は、
    逃げたわけじゃなかった。

    ただ、失いたくなかった。

    ⸻

    怖いと思うくらい、大事だった。

    壊したくないと思うくらい、好きだった。

    ⸻

    だから私は、
    自分から終わらせることができなかった。

    ⸻

    あの恋は、
    叶わなかったというより、
    未完成のまま残ってしまった恋なのだと思う。

    ⸻

    私はきっと、
    あの人を忘れたいわけじゃない。

    あのときの自分を、
    忘れられないだけなのだ。

    ⸻

    だから、無理に消さなくてもいいと思っている。

    ⸻

    私はもう、
    誰かを好きになることを知っているのだから。

     
     

    八朔

     
     
    読んでくれた方に、元気や勇気や清々しさや優しさや切なさや…いろいろな感情をお裾分けできたらいいなと思っています。

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