
妄想不動産。〜もしもの人生、内見中〜【エッセイ】
私には変な趣味があります。
正直に言えば、いくつかあります。
その一つは、中古物件を検索することです。
夢を見るなら、新築の豪邸でも見ればいいと思います。
青い海の見える家とか。
暖炉のあるリビングとか。
雑誌の表紙になりそうな家とか。
でも、なぜか私が気になるのは築十年以上、駅徒歩十五分以内、価格はなんとか現実的な中古物件です。
夢を見るにも現実味が必要なのです。
「これは無理だな」と思った瞬間、夢はただの見学になってしまうから…。
でも、「頑張ればなくはないかもしれない」くらいだと急に心が動きはじめます。
もちろん買う予定はありません、
今のところは…。
しかし、その「今のところ」が少々怪しいのです。
物件を見つけると、私は周辺環境の調査を始めます。
スーパー。
銭湯。
本屋。
そして最重要項目…、
喫茶店。
私にとって、一番大切なのは、徒歩圏内に個人経営の喫茶店があるかどうかです。
そして、
そこからが、本番です。
慣れた手つきで、Googleマップを開きます。
店内写真をくまなく見ます。
なんなら、メニュー表がある日はラッキー。
そして勝手にマスターを作ります。
名前はまだありませんが、無口なのは決まっています。常連客には少しだけ笑い、必要最低限しか話しません。
実はコーヒーには異常なこだわりがありますが、本人はそれを一切語りません。
そんなマスターが淹れてくれたコーヒーを飲みながら、本を読んでいる老後の私まで見えているのです。
もちろん一度も行ったことはありませんし、マスターも実在しません。妄想なのに私たちはもう顔見知り……。
さらに最近気づきました。
私はGoogleマップで行ってみたいカフェやレストランを保存するのも好きなのです。
それも近所だけではありません。
北海道。
長野。
香川。
なぜそこなのか、自分でも分かりませんが、気になる店があるとついつい保存します。
たぶん私は店を保存しているのではなく、もしかしたらの人生を保存しているのです。
長野でりんごのはいったスーパー袋をぶら下げ、古本屋に寄る私。
香川でうどんを食べたあと古民家の喫茶店に入る私。
北海道で窓から雪を見ながら、白い恋人と一緒にコーヒーを飲む私。
そんな存在するかどうか分からない未来の私が、地図の中に大量発生しています。
夫にこの話をしたら、
「今住んでいる家でいいじゃん!」と言われました。
たしかにその通りです。
私は今、ちゃんと家に住んでいます。
雨漏りもしていません。
ありがたいです。
ただ、問題はそこではありません。
私は今日もまた、どこかの中古住宅と、まだ見ぬ喫茶店のマスターに会いに行く予定です。
Googleマップの中で……。
さっそく、いい香りが漂ってきました。
どうやら今日も、私のために豆を挽いてくれているようです。
いってきます♪
おしまい