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ソラに架かる橋

    #2026創作大賞
    #エンタメ原作部門
    #ドラマ脚本
    #ヒューマンドラマ

    あらすじ
    八島健次(68)は過失で孫を負傷させたこと、かつての部下を誤指示で死なせたことなどに呵責の念を持っていた。
    隣に越してきた有沢游(10)は実母の有紀(36)が2年前に蒸発、今は知海という継母がいるが、彼女をママと呼べないでいた。
    ある日、八島は医師に病が重篤であると告げられる。その帰り道、刑事時代に関わった組員の南次郎(40)と遭遇する。南は昔の恨みを晴らす為、八島に暴行を加える。八島は南に、自分をここで殺してくれ、と懇願する。数日後、游は公園で包帯姿の八島と会う。
    二人は帰り道に催事場を通りかかると有紀の旧友の津山圭子(36)が游に声をかける。游は圭子に有紀の居場所を聞くが答えはなかった。


    登場人物
    八島健次(やじまけんじ)68 元刑事
    有沢游(ありさわゆう)10
    有沢俊一 38 游の父、会社員
    有沢知海(ありさわともみ)34 俊一の妻、游の継母
    八島祐介 38 八島の息子、会社員
    新城有紀(しんじょうゆき)36 游の実母
    鳴海信子 42 有紀の恋人
    津山圭子 36 有紀の旧友
    石山清子 70 石山の母
    南次郎 35 暴力団組員
    菅沼重夫 27 南の舎弟
    下田勝男 24 同
    重山達夫 50 刑事
    山本さやか 10 游の同級生
    同級生A 10
    同級生B 10
    石山徹(いしやまとおる)30 八島のかつての部下
    その他


    ○アパート・外観・木造モルタルの二階建て
       新しい7階建マンションが隣接する。
       その入り口に引っ越し業者のトラック
       停まる。

    ○アパート・八島の部屋(二階)
       八島健次(68)が箪笥の上の小さな
       仏壇の前で合掌している。
       仏壇の中に中年女(八島の妻)の写真。
       その奥に位牌がある(戒名は不明瞭)。
       仏壇を離れて机の前に座る。
       机の上に数枚の半紙、硯、筆がある。
       八島、筆をとり写経を始める。
       八島の神妙な顔。
       外から引越し業者の声が聞こえてくる。
       八島、筆を止め窓に立って外を見る。   

    ○マンション・入口付近
       数名の引っ越し業者がトラックから家具などを
       運び出す。
       有沢知海(34)が業者にあれこれと指示している。
       有沢俊一(38)は知海の傍に立ち、傍観している。
       有沢游(10)がトラックの下を興味深げに
       覗き込んでいる。
       游が何かを見つけたらしくしゃがみこむ。
       引越し業者の一人が来て、游の隣にしゃがむ。
    引越し業者A「何か、見つけたの?」
    游「えっ?あそこに子猫がいるよ。轢かれたらかわいそうだよ」
       游の指差す方向(トラックの下)に子猫が一匹佇んでいる。
    引越し業者A「大丈夫。暫くトラック動かないから。
       そのうちに出てくよ」
       言葉が終わらないうちに子猫が出ていく。
       引越し業者Aは立ち上がって仕事に戻る。
       八島が不自由な脚を庇いながら降りてきて有沢に近づく。
       有沢、八島に気づき軽く一礼する。
    八島「(トラックを見上げ)大変だね」
    有沢「転勤して来たんです」
    八島「ほう。どちらから?」
    有沢「長野から」
       知海来て八島に軽く一礼する。
    知海「私、下町の出身なんです。やっと東京に戻れたわ」
    八島「・・・」
    有沢「僕、有沢です。彼女は・・・」
    知海「(遮って)知海です。よろしく」
    八島「ああ、八島です。(アパートを指さして)
       隣のボロアパートの住人だよ」
    知海「アハハハッ(無遠慮に笑う)」
       有沢、游を手招きする。
       游、来る。
    有沢「息子の游です。(八島に)ほら、ご挨拶」
    游「(下を向いたままチョコンと一礼)」
    八島「(笑って)コンチハ」
       游、走ってトラックの陰に消える。
    有沢「どうも・・・すみません」
    八島「・・・いや」

    ○マンション・有沢の部屋・ダイニング(朝)
       段ボール箱が所狭しと積まれている。
       知海が姿見の前に立ち、服装を整え、念入りに口紅を塗る。
       有沢がパンを咥えたままネクタイを結ぶ。
       テレビが朝ドラを放送中。
       游はテーブルでパンを食べている。
    知海「(姿見に写る游に)游ちゃん、今日は帰り遅くなるから
       夕ご飯、自分で食べてね」
       游、パンを吐き出す。
    游「(呟く)いつもじゃん!」
    有沢「(玄関出ながら)ちゃんと勉強しろよ!游」
    游「(呟く)ウッセーんだよ」  
       知海が玄関を出て行く。
       游、テーブルから立ち上がり画面から消える。
       テレビはついたまま。

    ○アパート・八島の部屋
       八島、息子の祐介(38)に電話をかけている。
    祐介(声)「具合、どう?」
    八島「ああ、なんとかな。お前の方は?」
    祐介(声)「もう、忙しくってさァ」
    八島「働きすぎは良くないぞ」
    祐介(声)「昔の父さんほどじゃないよ」
    八島「永太は?」
    祐介(声)「まあ、普通にしてるよ」
    八島「・・・脚の方は?」
    祐介(声)「医者に行ってるけど。あんまり、変わんないな」
    八島「・・・」
    祐介(声)「・・・じゃ、仕事中だから」
    八島「ああ。悪かったな」
       八島、受話器を置き窓に立つ。
       
    ○(回想)公園
       T『二年前』
       八島が嬉しそうな顔で(孫の永太(6)の顔を見て)
       ベンチに座っている。
       その脇に『自転車乗り入れ禁止』と書かれた注意書きの
       看板がある。   
       永太は八島の前面の砂場で山などを作りながら時折、
       八島に目をやる。
    永太「(ほらこんなに出来たよ、と自慢そうな顔)」
       八島はそれを見て微笑み返す。
       少年たちが永太の背後で縦横無尽に自転車を乗り回している。
    八島「・・・(危ないな)」
       八島、ウトウトして目を閉じる。
       暴走自転車、永太の背に突っ込む。
       小鳥の騒がしい鳴き声が聞こえる。
       八島、目を開ける。
       永太、突き飛ばされ、苦悶の表情。
    八島「!!」
       八島驚き、咄嗟に飛び出してゆく。
       だが、途中の木の根っこに足をとられ転倒する。
       八島の苦痛に満ちた顔。
       永太の悲鳴が響いてくる。
       園内の子供たち、騒然となる。
       永太は気を失なって動かない。
       公園内の人々が倒れた永太を取り囲む。
       八島、動けずその場に蹲る。
    八島「(永太の方を見て)永太ーッ!」
       救急車のサイレン入ってくる。
                 (回想終わり)

    ○元の場所
       八島、窓を閉める。

    ○小学校・外観
       校歌らしい歌声が流れている。

    ○同・教室の中
       休み時間で生徒たちが騒いでいる。
       游は自席で静かに読書(文庫本)している。
       生徒A(10)と生徒B(10)が来る。
    生徒A「(游に)おまえ、ユウだっけ?」
    生徒B「アリカワユウだよ。なッ」
    游「(語気荒く)アリサワ!」
    生徒A「アリサワか、間違えたよ」
       游、立って出て行く。
    生徒A「(見送って)なんだ、アイツ」
    生徒B「?」
       始業のベルが鳴り生徒らがわらわらと席に着く。
       教師が教室の戸を開けて入ってくる。
       教師、游の席が空いているのを見て、
    教師A「有沢くんは?」
    生徒A「知らなーい」
       生徒ら前後左右を見て私語を始める。
       教師、窓際に寄り、校庭にいる游を見つける。
       游、小石を拾い一方へ放っている。
       游を見つめる教師の顔。

    ○マンション・有沢の部屋・ダイニング(夜)

    ○テレビ画面。
       何かの旅番組で(場所は北海道)お笑い芸人が土地の
       名産品を試食している。
       (台本通り、美味しい!と言う)

    ○同・有沢の部屋・ダイニング
       游、床に座りコンビニ弁当を食べている。
       その目はテレビを見ていない。
       游、食べかけの弁当を床に置き、立ち上がり
       どこかへ消える。
       テレビついたまま。芸人たちの騒々しい声。

    ○同・4畳半ほどの游の部屋
       雑然とした室内。物置と化した机上。
       游、机の引き出しから一枚の写真を取りだす。
       
    ○写真
       游の実母、有紀(34)が游(8)と手を繋いで写っている。
       (夏に公園のような所で撮ったもの)
       游、有紀の写った部分を手で覆う。

    ○教室の中
       休み時間。
       游、文庫本を読んでいる。
       同級生の山本さやか(10)来て、
    さやか「それ、面白い?」
    游「(首を横に振り)わかんない」
    さやか「わかんないのに読んでるの?」
    游「(僕には)難しいんだ、これ」
       さやかに表紙を見せる。

    ○その本『銀の匙・中勘助』

    さやか「えー、何これ。ぎんの?何て読むのこの字」
    游「さじ、だよ。さじ。スプーンのこと」
       さやか、本を手に取りページをめくって、
    さやか「字、ちっちゃーい」
    游「ママが、お母さんがくれた。でも、よくわかんないよ。
       読めない字ばっかだし」
    さやか「(フーン)」
       生徒Aと生徒B来る。
       生徒A、さやかに、
    生徒A「おまえ、夏休みどこ行くの?」
    生徒B「オレ、海外だよ」
    さやか「えっー、外国行くの」
    生徒A「フツーだよ。オレだって行くよ」
    さやか「(生徒Bに)わかった!ハワイとか?」
    生徒B「ピンポーン、大当たり」
    生徒A「オレなんか中国だよ。おとうさんが仕事兼ねるんだってさ。
       なんかもっとカッコイイとこ行きてーよ」
    さやか「有沢くんは?」
    游「(急に振られて戸惑う)えっ?別に」
    生徒A「(游に向かい)予定無いよな。夏休みは読書だもんな?」
    游「ボクだって行くさ!」
    生徒B「どこ?」
    游「(出任せ)北海道、だよ」
    さやか「ステキー。ラベンダーとかスズラン、きれいよねッ!」
    生徒A「何だ、国内かよ」
       始業ベル鳴る。   
       生徒A、生徒B、他の生徒たちも着席する。

    ○墓地
       八島、杖をつき手向けの花と桶を持って墓地に続く
       坂道をヨロヨロ上っている。
       八島、墓前に来る。

    ○墓(石山家の墓)
       八島が花を手向け、皿型香炉に火をつけた
       線香を置き、しゃがんで合掌する。
       背後から声が聞こえる。
    声「八島さん?」
       八島、振り返る。
       石山清子(70)が立っている。
       八島、立ち上がり、清子に平身低頭する。
       清子、八島に寄って手を添える。
    清子「八島さん。もう・・・」
    八島「(首を横に振る)」
    清子「(墓石を見て)もう、十年も経ったんですよ」
    八島「いえ・・・私には、昨日の事のようです」
    清子「今もご自分を責め続けていらっしゃるんですね」
    八島「・・・」
    清子「あの子は恨んでなんかおりません。
       最期まであなたを尊敬しておりました」
    八島「そんな、尊敬だなんて!」
    清子「警察官だから、仕方ありません。
       あの子は仕事に誇りを持っておりました」
    八島「彼は立派な警察官でした。そんな若者を・・・私は」

    ○記憶(インサート)
       T『十年前』
       犯人のアジトを張る八島(58)と部下の石山徹(30)。
       八島、石山に目配せする。
       石山、拳銃を手にドアを蹴破り中へ突入する。
       数発の銃声が響く。
       石山、その場に崩れるように倒れる。
       歪む石山の顔。
       八島が駈け寄る。
       犯人らがその隙に窓から逃げ出す。

    ○元の場所
       八島の苦渋に満ちた顔。
       清子が墓前に跪き、暫く合掌した後、立ち上がって。
    清子「八島さん・・・あの時、あなたは適切な指示を
       されたんです。あれは防ぎようもない出来事でした。
       だからもう、忘れて下さい」
    八島「ウ、ウッ(嗚咽)」
    清子「八島さん・・・」
    八島「(墓前に跪いて)・・・許してくれ!」
    清子「(涙ぐむ)」

    ○公園(夕)
       游、一人でサッカーボールを玩ぶ。
       そのズボンの尻ポケットに差しこんだ文庫本。
       
    ○中央病院・外観(大きな病院)(朝)

    ○同・診察室
       八島が神妙な顔で座っている。

    ○同・シャウカステンに掛けられたCTスキャンの画像(内臓など)
       医師の声「ウーム・・・これは」
       八島の不安な顔。
       医師、八島に振り向いて。
    医師「・・・なるべく早く手術されることをお奨めします。
       ご家族とお話をして下さい」
    八島「そんなに悪いんですか?」
    医師「医者の立場として最善の方法を申し上げていますが
       最終的に決めるのは患者さんご自身ですから・・・
       いづれにせよ、早めに検討された方が良いと思います」
    八島「何もしなければ・・・どのくらいで?」
    医師「・・・人によりますが。三ヶ月くらい、かと」
    八島「(!絶句)」
       
    ○同・出口
       八島、薬の入った袋を下げ杖を突きながらヨロヨロと出てくる。
       立ち止まり、大きなため息ひとつ。

    ○商店街
       八島、杖を突きアーケード街を歩いている。
       街の騒音。多くの通行人が行き交っている。
       向かいから筋モノ風の男三人が肩で風を切りながら来る。
       八島、うつむいて歩いている。
       男ら八島に近づいてくる。
       八島、すれ違いざまよろけてその男らの
       一人(南)の肩にぶつかる。
    男(南)「(大袈裟に)痛てててッ!」
       八島、(失礼と)頭を下げる。
       南次郎(35)が寄ってくる。
    南「おいおい、(自分の肩に手をあて)ジイさん、ケガしたぜ!」
       南、(オヤと)八島を覗き込んで。
    南「コリャアたまげた!八島のダンナじゃアありませんか!」
       八島、南を見て驚く。
    八島「南!」
    南「(仲間に振り返り)おい、こちらが八島のダンナだぜ。
       (八島に視線を移し)随分老いぼれになりやがったな」
       舎弟の菅沼重夫(27)と下田勝男(24)が八島を取り囲む。
    菅沼「(八島を睨んで)このジイさんですか。
       兄貴がタンと世話になったってのは」
    南「鬼のヤジマって言われてよォ。そりゃあ、厳しかったぜ。
       このジジイの部下を殺(ヤ)ったのはオレだと、
       しつこく攻めやがって。結局オレは無罪だよ・・・
       フフフ。どう転んでもナ、有罪になんかなる訳ねエんだよ!」
    八島「オマエが殺(ヤ)ったのは分かってんだよ」
    南「うるせエ、何言ってやがる!」
       菅沼と下田、両脇から八島の腕を拘束する。
       八島、狼狽えてもがく。
    八島「(二人を見て)何をする気だ!」
       菅沼と下田、強引に八島を路地裏へ引きずって行く。
       八島の杖が手から離れる。

    ○路地裏(人通りがほとんど無い)
       ゴミの散らかった狭い通り。
       南、ジャケットを脱いで下田に渡すと
       いきなり八島の腹にケリを入れる。
       八島、(ウッとなり)腹部を押さえ蹲まる。
       南、菅沼と下田に目顔で(やれ!と)合図する。
       菅沼と下田、八島に殴る、蹴るの暴行を加える。
       街の騒音が微かに聞こえる。
       アーケードの多くの通行人。
    南「もういい。止めろ!」
       二人、暴行止める。
       ゴミの散らかった中に八島が倒れている。
    南「ケッ!鬼の八島がヨ、このザマだ」
       菅沼と下田が八島に向かって唾を吐く。
       倒れている八島の手が、南のズボンの裾を掴む。
       南、驚いて八島を見る。
       南を見上げる八島の苦悶に満ちた顔。
    南「離せ!このジジイッ。死にてえのか!」
    八島「そうだ・・・殺せ!オレを殺せ!(哀願するように)
       今すぐ、ここで・・・殺してくれ・・・」
    南「気ィ狂ったか?このジジイ!」
       南ら(気味悪がって)振り切って去る。
       八島、ゴミの中に倒れたまま動かず。
    八島「ウウッ・・・オレを殺して・・・くれ」

    ○有沢の部屋・ダイニング(夜)
       有沢と知海、テーブルを囲む。
    有沢「何とか都合つかない?」
    知海「ダメよ。東京でやっと会社立ち上げたんだから。
       夏休みなんて無理、無理ッ」
    有沢「オレ、休み取れるの秋口なんだよ。
       代わりに何処かに連れてって欲しいんだよ」
    知海「だから、言ってるでしょ。今が大事な時なのよ。
       休んでいる暇なんかないわよ」
    有沢「でも、何処へも連れて行かないんじゃ、かわいそうだよ」
    知海「アナタが何とか都合つけて連れて行ってあげてよ。
       パパなんだから」
    有沢「そんな、自由に出来やしないさ。夏は秋葉原の店、
       全部回んなきゃなんないし」
    知海「游ちゃん、半年も経つのに私のことママって
       言わないのよ・・・嫌いなんだわ、私のこと」
    有沢「そんなこと・・・ないだろ?」
    知海「アナタ、何も分かってないのね!」
    有沢「・・・」

    ○同・廊下(夜)
       游、立ち聞きしている。

    ○公園
       游、一人サッカーボールを玩ぶ。
       八島が杖をつき、顔に絆創膏、腕に包帯を巻いた姿で来る。   
    八島「ヨォ!」
    游「!(驚く)」
    八島「一人かい?」
       游、八島の包帯姿を見て、
    游「痛い?」
    八島「あぁ?これか。まあね」
    游「喧嘩したの?」
    八島「喧嘩じゃないよ・・・ちょっと転んだんだ。年だな」
    游「ウチじゃパパとおばさん、いつも喧嘩してる」
    八島「おばさんって、ママのことかい?」
    游「ママじゃないもん。おばさんだよ・・・ママ、どっかに
       行っちゃったんだ」
       八島、ヨッコラしょとベンチに腰を下ろす。
       游、寄って八島に手を貸す。
    八島「(笑顔で)ああ、ありがとうな」
       游、隣へ座る時に尻ポケットから文庫本が落ちる。
       八島が腰を屈めて文庫本を拾う。
    八島「銀の匙?こんな難しいの読むの」
    游「プレゼント。ママから」
    八島「ほう」
       八島、本の汚れを払い游に渡す。
    游「ママ、本屋さんに勤めてた」
    八島「そうかい」
       游、本を受け取り、挟んである写真
       (游と有紀が写っている)を取り出す。
    游「(写真を八島に見せ)これ、ママ」
    八島「(覗いて)美人だね」
    游「ママ、どこにいるのかな?」
    八島「?」
       一方からサッカーボール来る。 
       游、拾って投げ返す。
    八島「今のママはイヤかい?」
    游「・・・」
       游、立ち上がりボールを蹴り始める。

    ○同(時間経過)
       夕陽がさして眩しい。
       八島がベンチに座っている。差し込む夕陽を手で遮る。
       游がボールを蹴りながら来る。
    八島「帰るか?」
    游「(頷く)」
       八島、ベンチから立つて歩き始める。
       游、八島が杖を忘れたのに気づき、取りに戻る。
       游、杖を持って来て八島に渡す。
       八島、微笑んで受け取る。
    八島「ありがとう」
       歩く八島と游の背中、夕陽に染まる。

    ○道(夕)
       八島と游が並んで歩いている。
       二人、何か話しながら時々笑顔になる。

    ○同・催事場(夕)
       『郷土工芸展』と書いた幟がある。
       関係者が呼び込みしている。
       八島と游が前を通る。
       游、催事場へちょっと顔を向ける。
       顔を向けた先に『長野県』と書いたブースがある。
    八島「長野か」
    游「・・・」
       八島と游が通り過ぎる。
    背後の声「游ちゃん!游ちゃんじゃない?」
       津山圭子(36)が追ってくる。
       八島、游、振り返る。
    圭子「(追いついて)ああ、やっぱり游ちゃんだ。吃驚したわ、
       こんなとこで会うなんて!」
    游「(驚いて)津山のおばちゃん!」
    圭子「東京へ引越したって聞いてたけど。
       偶然ね、(八島を見て)おじいちゃん?」
    八島「いえいえ、隣に住んでるものですよ」
    圭子「(游を見て)元気だった?」
    游「まあ、ね」
      八島は圭子を見ている。
    游「おばちゃん!ママどこ行ったの?ねえ、(泣き出す)
       ママのお友達でしょ。ママの居るところ、教えてよ!」
    圭子「(困惑)えっ?」
       八島の不審がる顔。

    ○同(翌日)
       工芸展関係者たちが後片付けをしている。
       八島が一角で椅子に座り、圭子と話している。
       圭子が何か困惑している。
       八島が何かを懇願している。
       圭子が立って一方へ去る。 
       八島の元へ圭子が戻って来て、何かのメモを八島に渡す。
       八島、一礼して去る。
       圭子が不安げな顔で八島を見送る。

    ○校門
       生徒達が作品や課題など持って出てくる。
       八島が校門の陰で待っている。
    生徒らの声A「夏休み、何する?」
    生徒らの声B「宿題、多すぎだよ。遊ぶ暇ないじゃん」   
       游、やって来る。
    八島「(游に寄る)ヨォ!」
    游「あっ、おじいちゃん」
    八島「明日から夏休みだな」
       八島、游の荷物を持つ。
       游と八島、並んで歩きだす。
       生徒Aと生徒B、その姿を目撃する。
    生徒A「游のじいちゃんか?」
    生徒B「知らねぇー」
    生徒A「全然、似てねー」
       さやかが来る。
    さやか「何? 何見てんの」
       生徒Aが八島らを指さす。
       さやか、歩いて行く游と八島を見つめる。

    ○道
       八島と游が歩いている。
       八島がポケットから何かアメを出し游に渡す。
       游、食べる。笑顔になる。
    八島「ホントのママに会いたいか?」
    游「えっ?」
    八島「会いに行こうぜ。ママに」
    游「ホント!ママどこに居るのか知ってるの?」
    八島「ああ(笑顔で頷く)」
    游「ねえ、どこに居るの、ママ」
    八島「オレと一緒に来れば分かるさ。どうだ?一緒に行くか?」
    游「行くよ。どこでも」
    八島「だけどな、パパとママには内緒だぞ。いいな!」
    游「うん、わかった!」

    ○八島の部屋(夜)
       仏壇の扉が閉じている。
       八島が箪笥の引き出しから通帳を取り出し
       残高を確認する。
       何か決心したようなその顔。

    ○公園(早朝)
       八島、ベンチに座っている。
       傍に置いた旅行鞄。
       游、リュックを背に小走って来る。
    八島「(游を見る)」
    游「(少し緊張して)おはよッ」
    八島「気持ち、変わってないか?」
    游「(頷く)」
       二人、歩きだす。
       小鳥の囀り。

    ○有沢の部屋・ダイニング(朝)
       有沢が起きてきてテーブル上のメモを見つける。

    ○メモの文字「北海道に行く。ユウ」

    有沢「!」
       知海が起きて来る。
       有沢、急いでメモをパジャマのポケットに入れる。
    知海「游ちゃんは?」
    有沢「(慌てて)友達と出かけたらしい」
    知海「(欠伸しながら)随分早いのね」
    有沢「ああ・・・」
       知海、一方へ去る。
    有沢「(困惑)北海道って!まさか一人で?」

    ○八島の部屋の前
       有沢、ドアをノックするが応答は無い。
    有沢「(怪訝な顔)」
       有沢、去っていく。

    ○羽田空港・出発ロビー
       八島と游がチェックインする。

    ○同・滑走路
       旅客機が離陸していく。

    ○機内
       八島と游が窓際の席に座っている。
       游、窓に顔をくっつけ外を見ている。
    八島「初めてか?」
    游「(外を見ながら)ウン」
    八島「夏休み、どっか行くんじゃなかったのか?」
    游「(首を横に振る)」
    八島「帰ったらパパとママに謝らなくちゃならんな」
    游「・・・(外を見たまま)」
     
    × × ×

    八島「ケンジって呼べよ。俺のこと」
    游「(振り返って)えっ?」
    八島「俺とお前はもう、共犯だ。(微笑)いやトモダチだ。
       だからユウちゃん、おじいさんじゃなくて、
       ユウとケンジだよ」
    游「でも・・・」
    八島「いいんだ。そう呼んでくれよ、な。ユウ」
    游「解った・・・ケンジッ」
    八島「ユウ!(笑う)」
       飛行機揺れて游、八島の腕にしがみつく。
       笑う二人。

    ○新千歳空港
       旅客機が着陸してくる。

    ○同・ターミナルビル
       八島と游が歩いている。
       八島が案内係に順路を尋ねる。
       案内係が方向を指し示す。
       八島と游が礼をして歩いてゆく。

    ○高速バス
       原野の中を走る。

    ○同・中
       八島と游、揺られている。
       八島、目をつぶっている。
       游、窓外を見ている。

    ○ホテル(札幌市内)・受付
       八島と游がチェックインする。

    ○有沢の部屋(夜)
       有沢が電話している。
       相手は知海。
    知海(声)「まだ、帰ってないの?」
    有沢「ああ」
    知海(声)「どこ行ったのか知らないの?」
    有沢「ン、ウン」
    知海(声)「メモとかないの?もしかしたら行き先、
       書いてあんじゃない」
    有沢「メモ?・・・」
    知海(声)「あったのね?」
    有沢「ウム・・・」
    知海(声)「何て書いてあんのよ?」
    有沢「・・・北海道行くって・・・冗談だろうと思ったんだ」
    知海(声)「北海道?何で」
    有沢「知らないよ」
    知海(声)「一人で行ったの?」
    有沢「どうかな?もしかしたら隣のお爺さんと一緒かも・・・」
    知海(声)「えっ、なんで一緒なのよ?」
    有沢「八島さんも留守みたいだし。とにかく早く帰って来てくれよ」
    知海(声)「変だわね・・・お爺さんと一緒に北海道へ行くなんて」
    有沢「游、この頃隣のお爺さんとよく公園に行ってるから。
       お爺さんに何か唆されたのかも・・・」
       有沢、電話を置く。

    ○警察署(夜)
       有沢と知海が捜索願いを係官に渡す。
       係官が作成された書類に目を通している。
    係官「一応、家出人の捜索という形になりますが、
       誘拐の可能性も考えられるので・・・。
       息子さんは、有沢游、十歳。誘拐したと仮定される
       隣の老人は八島健次、六八歳。間違いありませんね?」
    有沢「はい」
       警部の重山達夫(50)が通りがかりの際、足を止める。
    重山「ヤジマ・・・ケンジ?」
       重山、係官に寄る。係官は立って一礼する。
       重山、書類を手に取って暫く眺めている。
    重山「ヤジマ・・・ケンジ?」
       有沢と知海が重山を見上げ、怪訝な顔をする。

    ○駅(札幌)・ホーム
       電車を待つ人々。
       その中に紛れて八島と游が立っている。
       電車が入ってくる。
       ドアが開いて人々が乗り込んで行く。
       八島と游がその群れと共に乗り込む。
       電車のドアが閉まり発車する。

    ○電車・(車中)
       多くの人で混んでいる。錯綜する乗客たちの会話。
       その中で、八島と游が沈黙を守って座っている。
    游「・・・(固い表情)」
    八島「(游に視線を向ける)」

    ○野幌駅前
       荷物を持った八島と游が出てくる。
       八島、立ち止待ってメモを取り出し確認する。
       游は周りを見ている。
    八島「(一方を指さす)多分、こっちだ」
       八島と游が歩き出す。

    ○警察署
       重山がパソコンで何か検索している。

    ○同・パソコン画面
       八島のデータが表示される。
       (八島の警察在職中の情報。賞罰、昇進など適宜。
       八島は警部補で退職)
       重山、何かを考えている様子。

    ○有沢の部屋
       有沢と知海、テーブルを囲んで対座している。
    知海「八島さん、本当に游ちゃんを誘拐したのかな?」
    有沢「解らない。でも、最近一緒に歩いている所、何度か見てるし。
       八島さんも留守だしな」
    知海「何で誘拐するの。訳わかんない」
    有沢「オレの方が知りたいよ」
    知海「でも、北海道、ホントに行ったのかな?」
    有沢「・・・」

       × × ×
       
       電話のベルが響く。
       有沢、ドキッとして顔色変わる。
    有沢「(電話に出る)はい。有沢です」
       電話の相手は津山圭子。
    有沢「もしもし・・・」
    圭子(声)「あのゥ私、津山です。長野で有紀さんとサークル一緒だった、
       津山圭子です」
    有沢「津山さん?ああ。その節はどうも」
    圭子(声)「私、この間、游ちゃんとバッタリ会ったんです。
       工芸展のブースで偶然に・・・」
    有沢「(知海に振り向く)そうですか」
       知海の不審な表情。
    圭子(声)「翌日に八島さんて方が私を訪ねて来て。
       私、その時、余計な話をした・・・」
    有沢「何です?余計な話って」 
       知海、有沢に寄って聞き耳を立てる。
    圭子(声)「有紀さんの居場所知ってるだろ?教えてくれって言われて
       ・・・。八島さんて人、しつこく聞いてくるんです。何か刑事みたい 
       な聞き方するんですよ。だから断り切れなくて・・・今、北海道に居 
       るんです、有紀さん」
    有沢「何ですって!」
    知海「!」
    圭子(声)「ごめんなさい。軽率な事しちゃって、
       本当に申し訳ありませんでした」
    有沢「だから・・・游が北海道に行ったんですね」
       知海の困惑の表情。
    圭子の声「ごめんなさい。でも、游ちゃんの気持ちを思うと・・・」
    有沢「ご連絡、ありがとうございました」
       有沢、電話を切る。
    知海「どういう事?」
    有沢「(難しい顔)・・・」

    ○道(江別市)
       八島と游が歩いている。
       游が突然歩を止める。
    八島「(游に)どうした?」
    游「(有紀に会うのが怖い)ううん」
       游、気を取り直し再び歩き出す。
       八島、少し心配になってくる。

    ○七階建てのマンション・前
       八島と游が見上げている。
    游「(八島に)ここ?」
    八島「そうだナ」
       八島が入り口付近で上着のポケットからメモを取り出し、
       部屋番号を確かめる。
    八島「七〇一号・・・」
       八島、游に(行くぞ、と)目配せる。
       八島の指がエレベータボタンを押す。
       游、側に寄り八島の腕を掴む。
    八島「ユウ、おまえはここで待ってろ」
    游「(頷く)」
       エレベータが降りてドアが開き、八島一人が乗り込む。

    ○七階のエレベータードア・前 
       ドアが開き八島が降りてくる。
       八島、歩いて部屋の前まで来て、再びメモを確認する。

    ○同・七〇一号室・ドア前
       八島「・・・(ここだな)」
       八島、インターフォンを押す。
       インターフォン越しに声が聞こえる。
    声(信子)「はい・・・どなた?」
    八島「新城有紀さんのお宅ですか?」
    声(信子)「・・・どなたでしょうか?」
    八島「八島、と言うものですが・・・」
       ドアが少し開いて素っぴんの鳴海信子(42)が顔を出す。   
       怪訝そうに八島を見て、
    信子「何のご用でしょう?」
       半開きのドアから室内で何かしている新城有紀(36)
       の姿が垣間見える。
    八島「(信子に)あなたが、有紀さんですか?」
    信子「有紀は・・・(振り返り、室内の有紀を見る)」
       何かしている有紀に。
    信子「有紀、この方あなたにご用らしいけど・・・」
       有紀、立ち上がってドア側まで来る。
    有紀「(不審な顔で)有紀は、私ですが・・・」
    八島「あなたが!有紀さん?」
    有紀「ハァ?」
    信子「(前に出て)有紀に何のご用です?」
    八島「(信子を無視する)ちょっとそこまで出られませんか?」
    信子「何です!いきなり」
    八島「東京から来ました。大事な用があるんです」
    信子「(前に出て)あなた、一体?警察呼びますよ!」
    八島「(信子に)結構、呼んでくれ」
    有紀「(信子に)大丈夫。ちょっと出てくる」
    八島「ありがとう!」

    ○同マンション前のベンチ
       游、一人で座っている。
       八島と有紀がマンション入り口から出てくる。
       游、それを見て咄嗟に近くの木の陰に隠れる。
       八島と有紀が来る。
       八島、いなくなった游を探して歩き回る。
    八島「ユウ! どこだ。何処行った?」
       有紀の顔に戦慄が走る。
    有紀「!」
       游がそろりと木の陰から現れる。
    有紀「あッ!」
       八島、動揺する有紀の腕をとり、
    八島「有紀さん、游だよ」
       游、有紀を見つめたまま動かない。
    八島「(游に寄り)どうした?ママだろ」
    有紀「游!」
       游、躊躇している。
    有紀「游ちゃん!大きくなったわね」
    游「(微かに頷く)」
    有紀「(頽れる)ゴメンネ!游ちゃん、ホントにゴメンナサイ・・・」
       八島、游に目顔で促す。
       游、おずおずと有紀に近づく。
       游、有紀の肩を不器用に抱いて、
    游「(こみ上げる)ママ、ママッ!」
    有紀「(游に腕を回し)游ちゃん、游ちゃん!」
       抱擁する游と有紀。二人の涙顔。
    八島「(目、潤む)」
       信子がやって来る。
    信子「游ちゃんね?(游に寄り)会いに来たのね。ママに」
    八島「(信子に)あなた方は・・・つまり」
    信子「一緒に暮らして、二年になります」
    八島「!」
    信子「(游に寄り)これからは、いつでも会いにいらっしゃい。
       ママも喜ぶわ」
    游「(信子を見て)ホント?」
    有紀「(游に)ママとおばさんは(信子を見る)一緒に暮らしてるの。
       どうしてって思うでしょう・・・(チョット八島を見て戻す)
       ママはパパが嫌いになった訳じゃないの。でも、パパとはもう一緒に 
       暮らせないの・・・ママにとって今はこの人(信子を見て)が大切な
       の。ママはね、自分に正直に生きる事を選んだの。だから・・・」
       理解ができず激しく動揺する游。
    游「!」
    有紀「・・・あなたがもっと大きくなったらきっと解かる時がくるわ。
       だから、今はこのまま・・・」
       八島の困惑した顔。
    游「ママ何言ってるの?そんなのわかんない!おかしいよ、変だよ!」
    有紀「ママ、きっと変なのね(自重気味に少し笑う)でも・・・
       いつまでもママはあなたのママよ。
       ウウッ(言い終わらないうちに嗚咽する)」
    游「違う!そんなのママじゃない!(一方へ駆け出す)」
    八島「(有紀、信子に)もう、これで・・・」
    有紀「(八島に深く頭を下げる)」
       八島、游の後を追って行く。

    ○同・マンションから続く道
       游と八島が歩いている。
       その遥かな光景を見遣る、寄り添った有紀と信子の姿。
    游「ウ、ウッ、(しゃくり上げる)」
    八島「(振り返る)」
       遠くの有紀が礼をする。

    ○ホテル・札幌市内(深夜)
       八島の部屋(和室)。
       八島と游が揃って寝ている。
       八島、起き上がると一方へ行く。
       游が気配で目を覚まし八島を目で追う。
       八島が部屋を出て行く。
       游がその後を追う。

    ○同・屋上
       強い風が吹いている。
       非常口が開き、その向こうに黒い八島の
       シルエットが見える。
       游、その八島を凝視する。
       八島がフェンスを乗り越える。
    游「!」
       八島が屋上の突端に立っている。
       八島、眼下を見下ろして、
    八島「(呟く)これで・・・終わったな・・・」
       おぼろげな夜景。
    游「(駆け出す)ケンジッ!」
    八島「(ハッとして振り向く)ユウ!」
    游「空、飛ぶつもりかよ!」
    八島「フフ、飛べるかもな」
    游「落ちて、死んじゃうよ!」
    八島「(苦笑)そうだな。死ぬかもな」
    游「死ぬの?」
    八島「・・・それも悪くないな」
    游「じゃ、死ね! 早く飛べよッ、クソジジイ!」
    八島「!」
    游「何だよ!一人で死んでカッコつけんなよ。ボクを置いてくのか!」
    八島「ユウ!」
    游「トモダチじゃないのか!トモダチ残して・・・勝手に死ぬのかよ!」
    八島「!」
    游「ケンジのバカヤロー!」
       游、来てフェンスを乗り越える。
    八島「何してる!落ちたら死ぬぞ」
    游「ボクも飛ぶんだ!飛ぶんだよッ」
       八島と游、もつれあって大きく揺れる。
       八島が游を抱き止める。
    游「バカヤロー!」
       八島、游が抱き合って泣き笑いする。
    八島「分かったよ・・・戻るか?」
    游「(頷く)」

    ○羽田空港
       旅客機が着陸する。

    ○同・到着ロビー
       八島と游が歩いて来る。
       三人の男が近づく(重山とその部下刑事A、刑事B)
    八島「(気づいて)!」
       重山が八島に声を掛ける。
    重山「ヤジマさん?ですね」
    八島「君は?」
    重山「○×署の重山と申します」
    刑事A(40)「(游に)游君、だね?」
    游「(怪訝な顔で見上げる)」
    重山「ヤジマさん、困りますねェ。あなたほどの人が
       こんなことを・・・」
    刑事B(42)「(八島に)誘拐の疑いがありますので・・・
       任意でご同行を願います」
    八島「(頷く)」
       男Aが游を保護する。
       有沢と知海が駆けつけて来る。
    有沢「(駆け寄る)游!心配したぞ!」
    知海「ダメじゃない!勝手に旅行に行ったりして」
    八島「(有沢に頭を下げる)申し訳ありません。
       すべて私の考えたことなんです」
    有沢「まあ、游も無事に戻ったことですし」
    知海「(游に)ママに会えた?」
    游「(唇を噛んで知海を見つめる)・・・」
       知海が游を心配そうに覗き込む。
    重山「(有沢と知海に)じゃ、これで」
       有沢と知海が(ありがとうございました、と)一礼する。
       重山と刑事A、Bが八島を連行する。  
    游「ケンジ! どこ行くの!」
    八島「(振り向き)すぐ、戻るよ(游に微笑む)」
       八島、重山、刑事A、Bが歩き始めると、
       八島が数歩進んだ途端、膝を折る。
       游が八島に走り寄ってくる。
    游「ケンジ!」
    八島「ウ、ウゥ(蹲り苦痛の声を上げる)」
       救急車のサイレンが入ってくる。

    ○病院・病室の外
       待合室辺り
       祐介がドアを開けて出てくる。
    祐介「・・・(深刻な顔)」
       続いて医師が出て来る。
       祐介が医師に寄って何か話している。
       医師の真剣な顔。
       祐介、思わず目を伏せる。
       医師、黙して語らず。
       祐介、一礼して医師の元を離れる。

    ○同・病室内
       八島がベッドで眠っている。
       激しい雨が窓を叩く。
       游、有沢、知海らがドアを開けて入ってくる。
       游、八島に近づく。
       八島の安らかな寝顔。
    游「(小声で)ケンジ」
       八島、眠ったままで気づかない。
    有沢「起こさないほうがいいよ」
       知海が游を促して(こっちにおいで、と)手招きする。
       八島の安らかな顔。
    有沢「(游に)また、来よう」
       有沢と知海が見舞いの品をベッド脇に置いて去ろうとする。
       游はベッド脇から離れずにいる。
    游「ボク、ここにいる。ケンジが目を醒ますまでここにいる」
    知海「でも・・・」
    有沢「いいよ。(游に)待合室にいるから」
       有沢と知海、その場を去る。
       游が安らかな八島の顔を見ている。
       寝顔の八島、少し笑う(夢を見ているようだ)。
       窓外の雨が激しい。
       游、窓辺に立って外を眺めている。
    八島(声)「ユウ・・・ユウか?」
       游、振り返って八島に寄って行く。
    游「ここにいるよ。ケンジ」
       游、八島の手を握る。
    八島「(目を開ける)ヨォ」
    游「ヨォ!」
    八島「・・・夢を見た。綺麗な夢だった」
    游「夢?」
    八島「空に虹が出ていた・・・俺はその上をフワフワと歩いているんだ。
       虹はどこまでも長く続いていて・・・その先に・・・」
    游「虹の上? 落ちないの、そんなとこ歩いてさ」
    八島「ハハ、夢だからな」
    游「虹の先には何があるの?」
    八島「多分、神様のいる・・・」
    游「神様?ケンジは天国行くの?」
    八島「・・・いや、地獄かもしれんな。きっと地獄だ」
    游「ケンジ、地獄に行きたいの?」
    八島「・・・」
    游「・・・地獄にはもう行ったでしょ。ほら、あの屋上でさ」
    八島「ああ、そうだったな」
    游「早く元気になって・・・また遊ぼうよ」
    八島「(目で頷く)」
       游、有紀と写した写真を取りだし八島の前にかざす。
    游「もう・・・ママが居るから。これ要らないや!」
       游、写真を粉々に破り捨てる。

    ○床に散らばる破られた写真の断片。

    八島「!」
       游、親指を立てて微笑む。
       八島、微かに笑う。
       そして静かに目を閉じる。
    游「(八島に寄り)オヤスミナサイ・・・」
       游、入り口ドア前に来て止まり、八島を振り返る。
    游「虹・・・」
       游がそっと出て行く。

    ○待合室・ベンチ
       知海が座っている。
       有沢が窓辺に立って外の様子を見ている。   
    有沢「雨、上がったようだな」
       游が側に来る。
    有沢「(游に)帰るか?」
    游「ウン」
       游と有沢が出口へ歩きだす。
       知海がその後へ続いて行く。
    有沢「(八島さん)起きなかったのか?」
    游「ウン」
    有沢「また来ればいいさ。その時はきっと元気になってるよ」
    游「そうだね・・・」

    ○病院出口
       游、有沢、知海が出て来る。
       遥か彼方の空に虹が架かっている。
    游「(目を見張る)虹だ!」
       游、走り出す。
    有沢「オ、オイ、游ッ」
       游の後を追う有沢。知海がその後を追って行く。
    知海「(走りながら)どうしたのよ、一体」
       有沢と知海がようやく游に追いつく。
    游「(走りながら)虹だ、虹だよ!ケンジが歩いてる。(虹の彼方を指さす)  
       あそこだよ。あそこに・・・ケンジが歩いてるんだ!」
    有沢「(虹を見て)?」
    知海「(同じく)?」
    游「ケンジが神様のところへ・・・」
    有沢「(游を見て)何言ってるんだ?」
    游「(大粒の涙で頬が濡れている)」
    游「(知海に振り向いて)あそこだよ。ママ、あそこ!」
    有沢「!」
    知海「游!(涙溢れて)」
       知海、游の手を握る。
       有沢も游の手を取る。
       游、有沢、知海、三人が手を繋ぎ走って行く・・・その後ろ姿。
       虹、どこまでも続いていく。
         

          —完—   


    #創作大賞2026
    #エンタメ原作部門

     
     
    元ファッションデザイナーでいくつかのメンズブランドを手掛けました。デザイナー活動期間は70年代~90年代。後にグラフィックデザインの仕事も。青山シナリオセンターに2年間通い、ドラマエキストラ経験有り。ファンタジー小説で受賞経験有り。

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