メインコンテンツへスキップ
見出し画像

これっきりですか?【アマノ文筆クラブ】

    夏目瀬石

    「肝臓がね。もう限界なんですよ。
     ──お酒は、これっきりになさるべきです。」


     そりゃあ。
     もちろん、飲みまくってきた自覚はある。
     しかし、それをいまさら、これっきりにしろと言われても……。

    「いいですか? これ以上、お酒を続けると死にますよ。」


     死。

     死かあ。


     ……嫁さんがいるわけでなし。
     当然、子供がいるわけでなし。

     見上げた入道雲と青い空。そこに誰かの顔が思い当たるでもない。

     ここまでの私の道程は、そんなものだったというわけだ。
     しかし、いざ『死』というフレーズを目の前に突き出されると戦慄する。
     一人で来た。こんど失われるのは、その私。


     一念発起した。よし!
     今日を限りに、酒をやめようじゃないか。


     ──ただし!
     酒とは、今生の別れだ。
     それはそれは、きちんと別れなければならない。未練などが残らないよう、丁重に……。


     目覚めたのは、翌日の昼だった。

     まず、襲ってきたのは頭痛である。それから、全身がだるくてしかたない。

     たしか、景気づけにストロングゼロを三本行った。
     そのあと、焼酎の瓶の二本目あたりから記憶にない。
     見渡せば、部屋には無数のビンやカンがある。それが、現代芸術のように私を取り囲んでいる。しこたま飲んだらしい。記憶に無いのがもったいないところだ。


     だるい。頭が痛い。トイレに立つ気もしない。

     寝転んで見えた青い空には、昨日と似たような入道雲。
     私は空き缶の中心で考えた。
     この、アートの完成度について──。


     ──良い作品アイデアだとは思う。

     しかし。これは未完成としか言えまい。

     この芸術は、真ん中で私が二度と起き上がらなくなったとき、はじめて完成するのだ。

     タイトルは、『これっきりですか?』でどうか。



     ──なんてな。
     どうやら私は、酒をやめるつもりはないらしい。




    完


     参加させていただいたのはこちら。

     
     
     
    なんとか生き延びてきた氷河期世代。いろいろものを書いてきたけれど、そろそろ小説も書いてみようかな。

    あなたへのおすすめ