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媚びると重苦【アマノ文筆クラブ】

    夏目瀬石

     妻との関係を維持するには、こちらが折れるしかないのだ。


     結婚2年目。
     彼女はミス・キャンパスだった。美貌はまだまだ衰えを知らない。
     街中でちょっと目を離すと、もう男に声をかけられている。
     モテるのだ。彼女もわかっているだろう。
     だから。
     ──僕との関係を保つ努力を、彼女は放棄している。


    「荷物持って。」
    「車出して。」
    「お金払って。」

     ここ最近、こんな声しか聞いていない気がする。
     どうにも気が滅入って、医者にかかることにした。


    「奥様への『媚び』が、重い苦痛になっているんです。
     関係性を見直す機会なのかも知れませんね。」

     医者の言葉は、僕の心の隅で燻りつづけていた。


    「ねえ。お金出して。100万円。」
    「いやだ。」


     拒絶の言葉は、想像以上に簡単に、僕の口から滑り出ていった。
     それで、驚愕の表情を見せたのは妻のほうである。


    「なに? 離婚したいの?」
    「そうしよう。」

     目を見開いた、妻の表情を見た。

     僕の心の雲が、一息のうちに晴れ渡る心地がした。


     誰にも媚びる必要がなくなった。


     ──そうして、部屋は、ひどく空っぽになった。




    完


     参加させていただいたのはこちら。

     
     
     
    なんとか生き延びてきた氷河期世代。いろいろものを書いてきたけれど、そろそろ小説も書いてみようかな。

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