
栗の木
朝の散歩の途中、畑に植えられた一本の大きな栗の木に満開の花が咲いていて、思わず立ち止まった。夏が来たと思った。
栗の木が一番栗の木であることを主張しているのは、花の時期だと思う。
黄色がかった白色のさながら毛虫のような花が、緑色の葉っぱの間からうわっと垂れ下がる姿は、初夏の緑の中で一段と目立つ。においは少しツンと刺激があり、お世辞にも「いい香り」ではないが、ほのかに栗の実の雰囲気が感じられる。
朝見つけた木はそれはそれは大きく立派で、花の重みで枝がしならんばかりだった。立ち止まって鼻をひくつかせてみたが、距離があるからかはたまた風がなかったからか、あのツンとしたにおいは感じられなかった。
しかしその花の見事さは、私に懐かしい記憶を思い出させるのに十分だった。
小学校へと向かう通学路に、栗畑があった。
栗の花の時期は周りの果樹園の緑も濃く、ひときわ栗の花の色が映えた。
朝靄と、涼しい風と、栗の花のツンとしたにおい。その下を歩く私は水着を入れたビニールバッグを持っていたっけ。
まだ初夏が確かにあった時代の記憶だ。
学校が好きでなかった私にとって、朝は毎日憂鬱だったはずなのだが、不思議と爽やかな記憶として今日の私には思い出された。
遠く離れた故郷を思いながら、私は再び歩き出す。
涼しい風が私たちの間を吹き抜けた。