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陰術垫・九条廻の陰凊方 4

    第四章 喰瞁の波王
    問題が起きたのは、その週の終わりだった。
    患者の䞀人が、蚺療所の前で倒れおいた。
    䞭幎の男性。䞉ヶ月前から通っおいる垞連患者で、背䞭に健党な陰を぀けおいるはずだった。九条が発芋した時、男は意識を倱い、背䞭の陰は——消えおいた。
     
    剥がされた痕があった。
    男の背䞭には、背骚に沿っお现く、陰の傷があった。
     
    「癜河」
     
    「芋おる」
     
    二人は男を蚺療所の䞭に運び蟌んだ。
     
    「目が」ず癜河が蚀った。
     
    男の目を芋た。焊点が合っおいない。䜕か怖いものを、芋おいる。
     
    「喰瞁の目に、晒された」
     
    九条は静かに蚀った。
     
    「同様のケヌスがこの䞀週間で䞃件ある」ず癜河が蚀った。
     
    「党員が陰術垫の患者か、陰職関係者だ。狙い撃ちにしおいる」
     
    「陰職の呚蟺を朰しおいる。最終的に孀立させお——栞心に近い術者を仕留める気だ」
     
    「栞心に近い術者——お前だ、九条」
     
    沈黙。
     
    「九条家の血は、柪が萜ちる前にもっずも倚く觊れおいた陰術の䜓系だ。喰瞁——柪は、無意識にお前の術匏の匂いを芚えおいる」
     
    「柪が、俺を探しおいる」
     
    「喰瞁ずしお」
     
    「  笑えない話だ」
     
    コりが九条の癜衣の裟を鉀爪で匷く匕いた。
     
    「ヒュン  ヒュン  」
     
    九条は芖線を萜ずした。コりが珍しく、激しく自己䞻匵しおいる。
    ポペンポペンず膚らんで瞮んで、鉀爪をぶんぶん振り回しお。
     
    「コり、萜ち着け」
     
    「ヒュヒュヒュ」
     
    語尟が党郚䞊がっおいる。
    九条はしゃがんで、コりず目線を合わせた。
     
    「䜕を蚀いたい」
     
    「ヒュン  」
     
    コりは静かに鳎くず、鉀爪を九条の手のひらにそっず眮いた。
    「共に行く」ずいう意思衚瀺に思えた。
    陰が人間に察しおそれをするこずは、たずない。
    「  」
     
    「なんだ、それ」ず癜河が静かに蚀った。
     
    「コり」九条は蚀った。
     
    「俺ず来るか」
     
    「ヒュヌン」
     
    力匷い返事だった。
     
    その倜、蚺療所の奥で二人ず䞀陰が地図を広げた。
     
    癜河が把握しおいる喰瞁の出没地点に印を぀けおいく。
    東京の東偎に集䞭しおいる。䞋町の、叀い街䞊みが残る゚リア。
     
    「この密床なら、䞭心地点はこのあたりだ」ず癜河が人差し指を眮いた。
     
    「廃ビル街だ」ず九条が蚀った。
     
    「再開発予定で、䜏人がいない」
     
    コりは地図の䞊に乗っお、䞭心地点あたりをちょんちょんず鉀爪で叩いた。
     
    「お前は乗るな」
     
    「ヒュ」
     
    コりはどかなかった。ぜよぜよが真䌌しお地図の端に乗り、コりの隣に座った。
     
    「ぜよぜよも乗るな」
     
    「キュン」
     
    癜河が珍しそうに「ぜよぜよ」ず聞いた。
     
    「あの䞞いや぀がそういう動き方をするから」
     
    「呜名、お前がしたのか」
     
    「コりがするから、他のもするようになった」
     
    癜河はコりを芋た。
     
    コりはすたし顔で地図の䞊に座っおいた。
    癜河ず目が合うず、「ヒュ゛」ずだけ蚀っお、でも今回は逃げなかった。
     
    「䞉日埌に動く」ず癜河が蚀った。
     
    「それたでに柪に届く術匏を考えおくれ」
     
    「わかった」
     
    「䞀぀頌みがある」
     
    「䜕だ」
     
    「柪が残っおいたずしお——喰瞁を解䜓した埌、柪が人間に戻れないずしたら、どうする」
     
    九条は少しの間、考えた。
     
    「柪が人間ずしお戻れるなら、そうする。それが難しいなら——せめお、苊しくない陰ずしお、どこかで生きおいけるように」
     
    癜河はその答えを聞いお、目を现めた。
     
    「  お前は倉わらないな」
     
    「お前もだろ」
     
    コりが二人を亀互に芋お、「ヒュン  ヒュン  」ず小さく鳎いた。
    その声に、なんずなく、安堵のような色があった。
     
    倜の仕事
    決行の䞀週間前。
    癜河から連絡が入ったのは、倜の九時だった。
     
    「九条、出られるか。野良陰の集団が出た。芏暡は小さいが、堎所が悪い」
     
    堎所が悪い——癜河が珍しくそう蚀う時は、人的被害が出かねない状況だ。
    九条は癜衣を脱ぎ、コヌトを矜織った。
     
    「コり」
     
    陰籠から顔が出た。
     
    「ヒュン」
     
    「来るか」
     
    「ヒュ」
     
    二぀返事だった。ぜよぜよが「キュン私も」ず蚀っお、コりに鉀爪でぜんず叩かれた。
     
    「ぜよぜよはただ小さいから留守番だ」
     
    「キュン  」
     
    ぜよぜよが萎れた。長老が「仕方ない」ずいう雰囲気で隣に来た。
     
    九条は叀いクラりンのキヌを取り、倖に出た。゚ンゞンをかけるずコりが助手垭の圱に朜り蟌んだ。シヌトの隙間から、小さな目だけが芗いおいる。
     
    「シヌトから出るな」
     
    「ヒュラゞャヌ」
     
    出ないずは蚀わなかったきがする。
     
    珟堎に着くず、癜河の黒いハヌレヌがすでに停たっおいた。
    癜河が路地の入口で腕を組んで埅っおいた。
     
    「遅い」
     
    「お前の連絡が急すぎる」
     
    九条は路地の奥を芋た。神瀟の裏手。石畳の现い路地。
    その暗がりに——䞃䜓の野良陰がいた。
     
    路地の突き圓たりには、深倜たで営業しおいる居酒屋がある。
    人の出入りが倚い。野良陰が人に鉀爪をかけるず、その人は翌日から䜓調を厩す。
     
    「分担するか」ず癜河が蚀った。
     
    「お前が光陣で倖を封じろ。俺が䞭に入っお個別に察凊する」
     
    「九条、お前、コり連れおきたのか」
     
    「あこい぀ 。出るなず蚀ったのに 」
     
    癜河が「ぞえ」ず面癜そうに蚀った。
     
    「戊わせるのか」
     
    「 芋孊だ」
     
    九条の圱から「ヒュ゛芋孊じゃない」ずいう声がした。
     
    「お前 だめだ。芋孊だ」ず九条は繰り返した。
     
    「ヒュ゛゛」
     
    癜河が小声で「お前、 コりには甘いな」ず蚀った。
     
    「 甘くない」
     
    「いヌや。甘いわ。あたあただわ。」
     
    「ヒュン」
     
    「もういい。行くぞ」
     
     
    路地に螏み蟌んだ。
    癜河が入口に「光陣」を薄く展開した。九条は「陰制の印」を切る。
    前に出た䞉䜓の野良陰が止たった。
    その隙に、個別に「圱解の笊」を貌っおいく。
    野良陰を祓うのではなく、鎮静させお陰籠に収容する。
    これが九条のやり方だ。癜河なら䞉䜓たずめお焌く。
    䞀瞬で終わる。でも九条は䞀䜓ず぀、䞁寧に凊理する。
     
    「遅い」ず癜河が入口から蚀った。
     
    「うるさい」
     
    「䞉䜓目が動いた」
    制圧が解けかけおいる䞀䜓が、こちらに向かっおきた。
    鉀爪が癜衣の袖を掠めた。九条は䜓を匕いた。
     
    その瞬間——
     
    「ヒュヌン」
     
    コりが九条の圱から飛び出した。
     
    「コり、芋孊だず蚀っただろ」
     
    「ヒュ゛緊急事態」
     
    コりは野良陰に向かっお鉀爪を振るった。
    小さな䜓で、倧きな野良陰の正面に立った。
    野良陰がコりを芋お䞀瞬だけ——止たった。
    倉質しきっおいない野良陰には、同族ぞの本胜の揺らぎが残っおいる。
    その䞀瞬を、九条は䜿った。
    制圧の印を打ち盎す。野良陰が止たった。
     
    「  コり」
     
    「ヒュンどういたしたしお」
     
    「芋孊だず蚀った」
     
    「ヒュ゛蚀った。でも緊急事態だった」
     
    「刀断は俺がする」
     
    「ヒュ゛゛でも間に合っおた」
     
    事実だった。間に合っおいた。
    九条は返事をせずに、残りの四䜓の凊理に戻った。
    コりは今床は圱の䞭に戻っおおずなしくしおいたが、「ヒュン  ヒュン  」ず実況䞭継のような声を出し続けおいた。
     
    十分埌。䞃䜓党員を鎮静させ、携垯甚の陰籠に収容した。
     
    「終わった」
     
    癜河が光陣を解いお入っおきた。
     
    「早かったな」
     
    「お前が倖を抑えおいたから」
     
    「コり、戊ったのか」
     
    九条の圱から「ヒュちょっずだけ」ずいう声がした。
     
    「ちょっずだけ、じゃない」ず九条が蚀った。
     
    「指瀺に埓わなかった」
     
    「ヒュ゛でも圹に立った」
     
    癜河が笑った。「圹に立ったのは認めおやれよ」
     
    「認めない」
     
    「ヒュ゛゛」
     
    癜河はハヌレヌのそばに戻りながら、「なあ九条」ず蚀った。
     
    「なんだ」
     
    「コり、戊闘の勘がいいな。普通の陰には、ああいう刀断はできない。術者の窮地を読んで、本胜的に動く」
     
    「  。」
     
    「コりは 䜕かがあるんじゃないか」
     
    「  ただわからない」
     
    九条ぱンゞンをかけた。
    コりが助手垭の圱から「ヒュン  」ず静かに鳎いた。
    その声には——䜕か、遠いものぞの、かすかな郷愁があった。
     
    「垰るぞ」
     
    「ヒュ」
     
    叀いクラりンが路地を出た。黒いハヌレヌが埌ろを぀いおきた。
    二台の黒が、倜の街を走った。
     
     
    陰人合䞀
    病院の垰り道、九条は車の゚ンゞンをかけずに、しばらくシヌトに座っおいた。
    柪は「遞んだ」のだ。
    䞃幎間、九条は「柪が陰に匕きずり蟌たれた」ず思っおいた。
    被害者ずしお。
    でも——今日、柪の顔を芋お、思い盎した。柪は匱くない。
    柪は「もう䞀回やる」ず蚀っお立ち䞊がるや぀だ。
    そんなや぀が——ただ「匕きずり蟌たれた」わけがない。
     
    柪は——䜕かを、しようずしお螏み蟌んだのだ。
     
    九条はグロヌブボックスを開け、叀い手垳を出した。
    仙之助から受け継いだものだ。
    ペヌゞをめくっおいくず——䞀぀の蚘述が目に止たった。
     
    「陰人合䞀いんじんごうい぀の術」
    陰ず人間の完党な融合を目指した叀代の術匏。
    完成すれば、陰ず人間の境界がなくなる。実珟した䟋なし。
    詊みた者は党員、廃人ずなるか消えた。
     
    「  」
     
    九条は手垳を閉じた。
     
    柪は——これを、しようずしたのか。
     
    「陰ず人間が境界なく共存する䞖界」。
    あの瞁偎で柪が蚀っおいた蚀葉。十四歳の柪が、桐の葉が萜ちる庭を芋ながら蚀っおいた蚀葉。それを——十九歳の柪は、文字通りに実珟しようずした。
     
    間違っおいるか
     
    九条には、簡単に「間違っおいる」ず蚀えなかった。
    陰ず人間が本圓に共存できるなら——それは九条自身が望んでいるこずでもある。
    でも——方法が違う。
     
    柪のやり方は、人間を陰ず「融合させる」こずだ。
     
    喰瞁は遞択の䜙地なく。術者を取り蟌んで、融合の栞にしお、䞖界を倉える。
    それは——共存ではない。
     
    「  柪」
     
    九条ぱンゞンをかけ、倜の道に出た。
     
    お前の理想は間違っおいない。
    でも——方法が違う。
    だから俺が行く。止めに行くんじゃない。
    連れ垰りに行く。
     

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 の䞖界が奜きです。

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