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ヤブ医者外来診療録 下痢


    月曜日の午前、救急当番ではない日は、ヤブ医者は総合内科外来の見習いになる。新年度になって、外来のメインの先輩医師に
    「先生、今年も、この枠入れって言われたんですか?」
    と不審がられたが、入っていいと言われたのでお言葉に甘えている。
    大学病院でもないのに、外来を快く見学させてくれる先生は貴重だ。
    今日は、ヒマだった。
    先生の外来をのんびりと見学している。
    途中で、一人まーやの患者が入る。
    平和な外来だが、一人曰く付きの患者が入る。
    九十代女性。
    ドクターショッピングをしている。
    十日前にも下痢で救急受診している。
    ヤブ医者の出番である。
    回転率を維持したい、総合診療にこのタイプの患者を混ぜると時間がかかる。
    他の空いた診察室に患者を呼ぶ。
    「今日は、どうされました?」
    「今日、朝から下痢して」
    朝から下痢。
    十日前の下痢とは関係ないのか。
    下痢はするが、下剤を飲んでいる。
    食事は食べられる。
    水も飲める。
    熱も無ければ、吐き気も無い。
    自分で歩ける。
    十日前の血液検査に異常はない。
    「一人暮らしなんですよね。下痢止め出してもいいですけど、下痢止めいります?」
    「いや、ほなけど先生、飲んでまた便秘になったらかなんし」
    「ほなやめましょう。整腸剤飲んでるんやね。整腸剤の量、増やしとくね。どのくらいいる?」
    「なかなか来れんし、出来るだけ多め」
    「はいはい。診察、予約しときます?」
    「いや、人に頼まんなんから、来れるか分からんし、また来れる時に寄らしてもらいます」
    近所の茶飲み友達じゃあるまいし。
    「ほな、これで様子見てください。他は、なんか不安な事ある?」
    「いや、ほら不安な事はいっぱいあるけど」
    「そりゃそうやね。一人やしね。月曜と金曜だったら、私が対応できますから、いつでも来てください」
    「月曜と金曜やね」
    そう言って、本当に来た患者に会った事がない。
    きっと、私に会った事すら記憶の彼方に消えていくのだろう。
    「ほな、また来てください」
    間違えた。
    「また、来たらあかんね」
    「それよ、先生。スッキリ治りましたって言いたいとこやけど」
    「ほな、お大事に」
    こうして、ヤブ医者の外来は終わる。
    あの、おばあちゃんに、もう会う事はないのだろう。
    また不安になったら、何処かの病院に行くのだろうか。
    下痢が早く治るといい。

     
     
    関西在住。医者。 殿ちゃんと姫ちゃんの母。 家族と病院の人間観察を書いています。

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