
313 果たせなかった夢を卒業できた日。
アメリカの大学を体験する。
娘のいない大学の卒業式もとりあえず終了。
他の卒業生の家族たちはそれぞれに車などで帰っていく中、私は入試担当者のLさん夫妻との待ち合わせをしていました。
その夜はLさんの家に、また泊めていただく予定だったのです。
Lさんご夫妻と合流して、すぐ車で帰るのかと思いきや、
「よかったらキャンパスを案内しますよ。」
とお二人が言ってくださって。
今歩いてきただけでもいろんな建物などを見れたし、先日も保護者向けのキャンパスツアーに参加したりできたのに、今度は個人的に娘が4年間の間に住んでいた寮や、使っていた建物などを案内してくれるというんです。
「いいんですか?
ぜひお願いします!」
と、ツアーガイドをお願いすることになりました。
「ここは、〇〇ちゃんが2年生の時に住んでた寮ですよ。
1〜2年生の寮はだいたいこの辺なんです。」
と連れてきていただいた寮の中に入らせていただくと、私がこの卒業生ウィークの間に宿泊していた寮とはまた違った、天井が低くこじんまりした建物でした。
同じ古く歴史ある寮でも、できた年代によって作りや内装がそれぞれ違うようです。

「ほとんどの寮は古くて、順次改修しているところだけど、今新しく大きな寮も建設中なんです。」
と教えていただいたのは、大型マンションのような4階建ての寮。
「わ〜、こんな最新式の寮に住める新入生は快適でしょうね〜!」
「そうですねー、〇〇ちゃんは間に合わなくて、残念でしたね。」
伝説の木と玉座のある教室と。
「この木はキャンパスでも珍しいもので、言い伝えがあるんですよ。」
と教えてくれた大きな木は、ものすごく曲がりくねった変わった形。
ちょっと説明が難しいんですが、樹齢何百年とも思えるその木は枝が地面にまで伸びていて、しかもその枝と枝が絡まった中に、ぽっかりとドーム状に空間ができているんです。
それもかなり大きくて、人が何人も入ることができるくらい。
まるで、イギリスの古い伝説の木とか、ハリー・ポッターに出てくる魔法の木、おとぎ話の主人公が別世界へ行く入り口かのようで、不思議な感じ。
こういう実際の自然や風景などから、西洋の物語はできていってるんだなぁなんて思いました。
「ここは文学系の授業でよく使われる建物で、〇〇ちゃんも2年生や4年生の時に使ってたと思います。」
と、教室に入らせていただいたり。
この教室というのも、またものすごく歴史ある感じで、普通のこじんまりしたものもあれば、ステンドグラスのある荘厳な雰囲気の教室もあります。
「ちょっと椅子に座ってみませんか?」
と玉座のような椅子に座らせていただき、写真を撮っていただいたり。
そう、なぜかお二人は、娘が過ごしたキャンパスのあちこちを私に体験させてくれ、そのつど何枚も写真を撮ってくれるのでした。
夢のプレゼント。
そして、キャンパスツアーの後は、近くの町で1番おいしいというイタリアンレストランに車で行き、ディナーをご馳走してくださったんです。
ゆったりした広さで、照明はそれぞれの丸テーブルにあるキャンドルがメイン。
アメリカの古くて大きな家、という感じの落ち着いたお店でした。
「ここは学生たちも時々来てるんです。
〇〇ちゃんも大好きだったみたいですよ。」
ここに来て、はっきりわかってきました。
お二人は、娘の学生生活を知らせるだけでなく、私に大学生気分を味わわせようとしてくださっているんだと。
実は先日、こんなふうにお礼を言ったのです。
「私も子どもの頃、アメリカの大学に行くのが夢だったんですよ。
両親は大反対だったので、もう中1の時にあきらめましたけど。
まさか娘が私と同じように英語が好きで、アメリカの大学に行きたいと言い出すとは思わなかったし、入らせていただけるとも思わなくて。
本当に、娘を入学させてくださってありがとうございました。」
そんなふうに何気なく言ったのを、覚えてくださってたのかもしれません。
そのことは、私も娘が8歳の時に
「アメリカの大学に行きたい。」
と言い出すまで、すっかり忘れていたことでした。
自分と同じ夢を娘が持つなんて驚きでしたが、思い出してからも、娘にはあまり言わないようにしてたんです。
親が自分の果たせなかった夢を子どもに託すようなことは、したくないと思っていたから。
それで苦しんでいる子どもたちをたくさん見てきたし、自分自身が、親の夢を背負わされた子どもだったからです。
それが、こんな形でお二人が少しでも叶えようとしてくださっているなんて、信じられませんでした。
それで学生寮や教室に入らせていただいて、
「そこに座って。」
「ドアのところに立って。」
などと、記念に何枚も写真を撮ってくれた。
そして、学生たちの行きつけのお店にまで連れてきてくださったんだと。
私が実際には経験できなかったことを、形だけでも体験させようと・・・。
それに気がつくと、涙があふれてきてしまいました。
絶望してアメリカの夢を捨て、ラジオで英語を勉強することもやめることにした13歳の自分が、救われたような気がしたんです。
「もうこれで、私は人生で思い残すことはありません。」
とお礼を伝えましたが、それは本当です。
まさか娘の卒業式の日に、自分がこんなことをしていただけるとは思いもせず。
遠いアメリカ北部に一人でやってきて、人生最高の贈り物をもらえた1日となりました。
娘の卒業とともに、私も果たせなかった夢を卒業できたのかもしれません。