
ダニエルとジャックダニエル
甥っ子の就職祝いに2人で飲むことにした。
まだ私は体調が良くないので、ジュースでお祝い。
甥っ子のあだ名はダニエル。
「ダニエルさん、ジャックダニエル飲むか?」
「えー、俺ウィスキー苦手だけど少し飲んでみようかな」
そう言って私は甥っ子にグラスを用意し、ジャックダニエルを注ぎ込んで水で割った。
一口すすった甥っ子。
ダニエルさんは、スーツを着ているからか妙に様になっている。
昔、私に掴まってバイクの後ろに乗っていたチビの甥っ子ではなく、もうこんなに大きくなっていたんだ。成長って早いなと感じていた。
だが急にむせだす甥っ子。
「おっちゃん、やっぱ苦手だ」
「なんだ、ダニエルのくせに飲めないかー」
ふふふっと笑う甥っ子。
「やっぱ俺はこれだね」と、冷蔵庫からカシスオレンジを持ってきて飲み始めた。
まあ、それが好きなら仕方ないなぁ。
しかし、大人になったもんだとしみじみジュースをすすっていると、甥っ子に急に肩をポンと叩かれた。
「おじさん、早く良くなってね」
……急に励まされた。
ちょー嬉しいし、泣きそうだ。
だが甥っ子の手前、泣くわけにはいかない。
そこで、照れ隠しと涙をこらえるために、とっさに言った。
「叩けばホコリは出るぞ」
渋い。
我ながら渋い。
映画のワンシーンのようなセリフが出たぞ。
ふふふ、お前らガキンチョは知らんだろこんな言葉。
少し顔を赤らめながら放った言葉に浸っていると、しばらくの沈黙の後、甥っ子は少しカシスオレンジを吹いた。
「おっちゃん逆でしょ。ホコリは叩けば出るね」
甥っ子は口の周りのカシスオレンジをタオルで拭き、冷静な顔で私を見つめた。
ぬおお、恥ずかすぃ~
なんて恥ずかすぃ~んだ俺笑
まさかの甥っ子に会心の一撃を喰らった。
しかも、知らないだろうと高を括っていた俺が、ちょー恥ずかすぃ~笑
もう帰りたい。
自分の家だが帰りたいどこかに。
ここはしばらく沈黙してなかったことにするか、あるいは笑ってごまかすか。
逃げられないなぁ。
そんなとき天から言葉が降ってきた。
「バカだなぁ、ダニエルさん。ホコリが出るってことは、それだけ動いてる証拠だし、まだ生きてる途中ってことだよ」
顔を真っ赤にしながらも渋い返しをした。
甥っ子は冷静に、
「まあ、ホコリくらい出るよな」
と返してきた。
なんかムカつく笑
カシスオレンジにジャックダニエル混ぜてやろうかと思うくらい。
ダニエルさんがトイレに行った時、絶対にジャックダニエルを混ぜてやる笑
そう思ってくだらない話をお互いにしているが、中々トイレに行かない。
こいつ、無敵か?
膀胱も大人になったのか?
それとも俺の行動がバレてるのか?
次第にダニエルさんの顔がニヤけてくる。
「おっちゃんさぁ、バレバレだよ笑」
「はっ?何がだよ?」
私もニヤけながら聞き返す。
「俺がトイレに立ったら、カシオレにジャックダニエル混ぜようとしてるでしょ。
カーッ!
なんでそんな賢い大人になっちまったんだ、お前は!
昔はバイクの後ろで私の背中にしがみついていたチビ助が、私の悪巧みまで見抜くくらい、対等に化かし合える大人になったんだな。
実はダニエルさんも、私がトイレに立ったら、逆に私のジュースに何かを混ぜてやろうと狙っていた笑
結局、ダニエルさんは一歩も席を立たないままカシオレを飲み干し、
「じゃ、明日早いから帰るわ。おっちゃん、お大事にね」
と爽やかに去っていった。
ダニエルさんは少しぎこちない歩き方で帰っていったが、私は玄関まで見送った。
玄関が閉まった後、静かになった部屋で私はジュースをすすりながら思った。
……あいつ、絶対に限界だったはずなのに、意地でもトイレに行かなかったな。
変なところが俺に似て頑固に育ちやがって。
次回までに、ダニエルの膀胱に勝つための秘策を練っておくか笑
その後、私にも限界がきてトイレに駆け込んだ。
後になってわかったことだが、このくだらない勝負は、お互いに何か仕掛けてやろうと頑張りながら、膀胱との戦いにも耐えていた大会になっていたのである。
次飲むときは、私も体調を万全にして、2人で本物のジャックダニエルを傾けよう。
その時はもう、水割りじゃなくてロックでもいいかもしれないな。
生意気だけど頼もしい。
そんなダニエルさんの成長が、なんだか嬉しかった一日だった。
こんな平和がずっと続くといいな〜としみじみ思った。