
曇り空、晴れ晴れ
「曇り空」と言われれば、どんよりとして重い印象を抱く。
気分も重くなるような気がする。
変にまぶしくて、なんか気持ち悪い。
でも、今年の梅雨は違う。
窓を背に座るあなた。
窓の外は、真っ白ではない、少しぼやけたような白色をしている。
曇り、そして昼の時間特有のまぶしい光が、あなたの後ろで、あなたの輪郭を包むようにぼんやりと広がっている。
私は、彼を見た。
美しいと思った。
あなたのふわふわとした柔らかい髪が、ぼやけた光に溶けてしまいそうだ。
溶けてしまいそうに思えるくらい、柔らかいひと。
だけど、あなたの存在は光の一歩手前にあって。
溶けずに、私の目の前に、確かに存在している。
あなたは私にとって、景色ではない。
「曇り空が似合う」と言うと、悪い意味として受け取られそうだから、やめた。
曇り空が似合うと感じるなんて、彼が初めてだ。
光に包まれつつも輪郭を帯びる彼を、何度も思い出す。
それから2週間が経っただろう、ある日。
その日も曇りだったと、はっきりと覚えている。
あなたは、空を見上げた。
「曇りの日って眩しいな。空が全部太陽みたい。」
と言った。
ああ、なんて、すてきな表現なんだろう。
私はずっと前から、彼の言葉選びが大好きだ。
彼は、たびたび、言葉にするとき、考えるのではなく感じたことをそのままに表現しているように思う。
ふさわしい言葉を手繰り寄せる私とは違って。
あなたのその素直さと純粋さ。
あなたの目に、この世界はどのように映っているんだい。
あなたは、「自分には語彙力がない。」とよくこぼす。
あなたは、自分の中にあなたらしい言葉がたしかに存在していることを、まだ知らない。
私には、あなたの言葉はあなたらしく、静かに、輝いているように見えるよ。
あなたが
何かうまいことを言えるわけじゃなくても
難しい言葉を使えるわけじゃなくても
確信めいたことを言えるわけじゃなくても
あなたが口にする無意識の言葉の中にちりばめられたあなたらしさを、私はたしかに感じている。
彼の「空が全部太陽みたい」という言葉を何度も思い出す。
曇り空を見上げるたびに。
(ほんとだ、ぜんぶ太陽だ)
ずっと、どんよりと重かった雲が、明るく感じた。
気持ち悪いと感じていたまぶしさも、今はぼんやりとして心地いい。
そして、あの日の、窓を背に座るあなたの記憶がより美しく。
やっぱり、あなたは曇り空が似合う。
今日も今日とて、曇り空なのに、太陽のように私の心に光が射している。