
君と在りし日々の詩
——雨上がりの綺麗な夕映えを見た。
胸に抱くのは郷愁のような、哀惜のような、なんとも言えない感情。
君を思い出すときは、こんな時。
どうしてだろう。
思い出すのは、君の困ったような、少し寂しそうに笑う顔。
* * * * * *
幼いころは、二人でいるのが当たり前だった。
学校の行き帰りでの通学路。
放課後の遊びの時間。
子供の頃の世界はとても狭くて、小さくて、私の中では君と家族が世界のすべてだった。
けれど、時は無常に過ぎてゆく。
子供だった君も、私も、いつまでも子供の頃のままではいられなかった。
それぞれが将来について少しずつ考え始めるころ、
それに比例するようにいつの間にか君との距離も離れていった。
私が進学した高校は共学ではなく、いつのまにか同性の友人と過ごすことが当たり前になり、君の近況は互いの親を通して知るくらいになっていた。
偶に顔をあわせても、遠くから手を上げて軽く挨拶するくらいになっていた。
そして私は、高校を卒業と同時に東京の学校へと進学し、そのまま就職した。
就職すると、はじめは仕事に慣れるのが大変で、私はしばらく故郷へ帰省することはなかった。
数年が経ち、高校の同窓会の知らせが母から電話で伝えられ、久しぶりに私は故郷へ帰省した。
駅を降りると、東京よりは人口は少ないが、それでもそれなりに発展している地方都市。
都会のように整備された都市計画ではなく、再開発されつつもごちゃ混ぜな雑多なその街を見ながら、懐かしい気分に浸る。
(ああ、帰ってきたんだなあ……)
そんな感慨を抱きながらバスを降りたのは、幼い私が通っていた小学校前に停車するバス停。
私の実家からは三つ四つばかり前のバス停になる。
バスを降り、風に吹かれて歩きながら子供の頃に通った通学路を家路へと向かう。
その傍をあの頃の私と君のように、ランドセルを背負いながら数人の子供たちが列をなして帰り道を行く。
……不意に、その姿を見ていると涙がこぼれた。
* * * * * *
母とは、通常の連絡であればメールでのやり取りが多かった。
私の仕事は時間が不規則で夜勤もあったから、母なりに気遣っていたのだろう。
なので私からかける電話以外は、母からは滅多に私への携帯が鳴ることはない。
それでも昨日、たまたま日勤の仕事を終えてロッカーで着替えていた時、まるでタイミングを計ったように携帯が鳴った。
着信は母からで、珍しいと思って携帯に出た私は、そこである事実を聞かされた。
―—それは、君がもうこの世の何処にも存在しないことを伝えるものだった。
君との思い出を辿るように、私は夕暮れの道を歩く。
けれどあの頃見ていた世界と、今の身長では見る世界が変わっていた。
それが時間の流れであり、成長なのだろう。
そう考えてしまう私は、随分と淡白な人間になってしまったものだ、と自嘲気味に笑う。
もしも君が今の私を見たならば、やっぱり困ったように笑うのだろうか。
そんな風に考えて、ふと思う。
……ああ、そうか。
きっと、私はあの頃、そんな君が好きだったんだ。
いつの間にか前を歩いていた子供たちの姿はなく、私はひとりになっていた。
感傷に浸っていた感情を無理やり封じ込め、私はまた歩き出す。
ヒールの音を響かせて。
君との思い出は、きっとこれからも私の心の片隅でひっそりと生きていくのだろう。
そしてそんな日々を懐かしみながら、時々宝箱を開けるように思い出しながら、いつしかこの気持ちも薄らいでゆくのだろう。
気が付くと、実家はもう目の前だった。
私は頭を一つ振ると、気持ちを切り替えて告げた。
「ただいま」