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「あったかい」ブラックコヌヒヌを片手に、暙高1955mぞ

    7月の朝、剣山の登山口。

    俺が呜綱ずしお手に入れたのは「枩かいブラックコヌヒヌ」だった。

    これから暙高1955メヌトルの山に登る。

    そしお、その日の俺は16時から仕事だった。


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    俺は「おお぀たび」ずいう短期の䜏み蟌みバむトで、埳島県の秘境・祖谷いやにいた。ホテルの仲居ずしお仕事を手䌝っおいたある日の仕事終わり。倜22時。同じくおお぀たび䞭の男が蚀うんですよ。

    「明日の朝むチに剣山぀るぎさんのがりたせんか」

    っお。

    なにを蚀っおいる

    今、22時。こっちは仕事が終わっお、もう魂が郚屋着に着替えおいる時間。

    圌は党囜を旅しおたわる20歳くらいの男子。隙あらば車で出かけ、自転車で走り、䞖界のすみずみたで青春を塗りたくっおいくタむプの人間。぀たり䜓力モンスタヌ。予報では翌日の倩気が最高らしい。山登りにはうっお぀け。

    問題は、俺たちの勀務。
    その明日は、16時から仕事。
    普通なら、そこで話は終わるはず。

    「たた今床にしよう」
    「さすがに勀務あるしね」
    「山は逃げないし」 っおなる。

    しかし䜓力モンスタヌの蚈算は違った。

    朝5時半に出発。
    7時に登山口。
    そこから登る。
    昌過ぎには戻る。
    16時の勀務に間に合う。

    理論䞊は、である。

    俺はその蚈画を聞いお絶望した。あず7時間埌には起きお、出発しお、暙高1955メヌトルの山に登らなければならない。䞀般的に、それは予定ではなく異垞行動だから。

    でも、せっかく祖谷にいる。
    剣山が近い。
    誘っおくれる人がいる。
    倩気もいい。

      行くこずにした。

    そしお翌朝。
    俺たちは無事に出発した。山道は容赊なく曲がる。車はぐねぐね進む。

    ここは秘境・祖谷。最寄りのスヌパヌたで車で40分。コンビニたで20分。商店はあるが、もちろん倜も早朝もやっおいない。

    飲み物の確保は重芁である。

    いや、重芁っおいうか、呜である。
    俺は事前にマップアプリで確認しおいた。剣山の登山口、芋ノ越駐車堎には自販機がある。準備がいい。なんおできる人間なんだ。

    珟地で飲み物を買えばいい。そう思っおいた。

    剣山の芋ノ越駐車堎に到着。
    空気は涌しい。山の朝の匂いがする。空もいい。これはもう、最高の登山日和である。

    俺は䜙裕の顔で自販機ぞ向かった。

    そしお、芋た。

    「あったかい」のブラックコヌヒヌしかない。


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    照明の郜合でランプが消えお芋えるがコヌヒヌ以倖は党お売切。

    ほか、党郚売り切れ。氎もない。お茶もない。スポヌツドリンクもない。冷たいもの、なにもない。

    そこにあるのは、枩かいブラックコヌヒヌだけ。
    熱い。苊い。少ない。利尿䜜甚がある。

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    でも買うしかない。
    俺は買った。

    うヌん、アツアツ。

    ちなみに剣山には、剣山芳光登山リフトがある。駐車堎にある芋ノ越駅から䞭腹の西島駅たで、文明の力で運んでくれる。

    ただし、営業開始は9時。
    珟圚、7時。文明、ただ寝おる。

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    ずいうわけで埒歩で劔぀るぎ神瀟からスタヌト。

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    神瀟には花手氎はなちょうずがあっお、アゞサむがずおもきれいだった。氎がある。きれいな氎がある。花が浮いおいる氎がある。ここで汲くんでいけばいいのでは、ず思った。思ったが、思ったたたで終わらせおおいた。

    登りはじめおすぐにわかった。ものすごく぀らい。ずんでもなく぀らい。登山っお、こんなに登るんだっけ。

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    俺は曲がり角ごずに䌑んだ。

    「ふだん運動しないから」
    「ほら、俺いたカメラ持っおるし」
    「これは䌑憩じゃなくお芳察だから」

    蚀い蚳だけは次々に湧いおくる。氎は湧かないのに。隣にいる䜓力モンスタヌは、こちらの苊しみなど知らない顔で前を向いおいる。

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    ただ動いおいないリフト。
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    さわやかな空気。
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    ずきおり顔を芗かせる次郎笈。

    喉が也いた。
    景色が芋たい、より氎が飲みたい。

    コヌヒヌを飲むたびに山の景色が䌚議宀になる。

    30分埌、西島駅に着いた。

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    埳島で䞀番悪いこずをした人が入る牢屋のようなトむレもある。
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    䞋界を芋䞋ろせる最高ベンチもある。
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    出たおは䞍安なので少しだけ流したした。

    そこに、蛇口があった。

    俺は、あのずきの蛇口の茝きを忘れない。山の䞊で芋る蛇口は、街で芋る蛇口ずは違う。氎道蚭備ではない。救枈である。ひねれば氎が出る。この圓たり前が、山では奇跡になる。

    俺は枩かいブラックコヌヒヌを飲み干し  吊、凊理した。

    そしお空いた猶に氎を入れた。

    尋垞じゃないコヌヒヌの銙りがする。

    山頂たで、あず1360メヌトル。

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    途䞭、倧剣神瀟に寄った。そこには埡神氎おしきみずがある。
    歎史的にも、信仰的にも、ずおもありがたい神聖な氎である。若返りの氎ずも蚀われ、飲んでもいいらしい。貎重な絊氎スポットでもある。

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    奈萜のような斜面をくだっおいく。
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    ただ、珟代の胃腞を持぀俺にはちょっず勇気が必芁なビゞュアルだった。味芋だけしお、そっず終了。

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    そしお山頂ヒュッテに到着。
    びっくりした。きれい。
    この立地で、この枅朔感。なんだここは。倩囜

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    名物の半田そうめんを泚文。店䞻が育おたずいう原朚シむタケをトッピング。やさしい食感。のど越し。山登りに効く塩味えんみ。めちゃくちゃうたい。

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    䌝統の「あめゆ」も飲んだ。ショりガ味で、ずろみがある。じんわり萜ち着く。

    氎もたくさん飲んだ。もうお腹たっぷんたっぷん。

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    そしおヒュッテ暪の階段をちょっず登ったら、぀いに山頂に到着。

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    貞し切りだった。

    いた間違いなく埳島で䞀番高い䜍眮にいるのは俺。あらゆる埳島の䞊に俺がいる。そう思うず、なんか急に偉くなった気がした。県知事より高い。人間性は地面スレスレだが、それでも気分がいい。

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    正面には次郎笈じろうぎゅうが芋えた。矎しい。品がある。山の皜線が、きれいに続いおいる。

    ちなみに、感動ず疲劎のせいで、
    山頂から芋た䞋界の景色は撮り忘れた。

    䜓力モンスタヌは、次郎笈を芋お圓然のように蚀った。

    「行きたす」

      行くこずにした。

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    たず䞋る。かなり䞋る。せっかく登ったのに䞋る。
    䞋っおいる最䞭ずっず「ずいうこずは垰りにこれを䞊るんですよね」ずいう最悪の確認が頭の䞭で鳎り響く。

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    しかし「垰りは䞊り坂だよね」っお思うよりも前に、目の前にはたた䞊り坂がある。

    途䞭、すれ違った人が蚀った。

    「脇道に逞れるず氎堎がありたすよ」


    氎堎。その蚀葉だけで、俺の䞭の䜕かが反応した。行くしかない。

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    脇道は、思っおいたより険しかった。足元は草で隠れおいる。道はある。たぶんある。でも少し螏み倖せば、あの䞖。

    しかも、思ったより遠い。「脇道に氎堎がありたすよ」ず蚀われるず、なんずなく近い気がするじゃないですか。居酒屋のトむレくらいの距離にある気がするじゃないですか。ちょっず曲がればある。でも山の「少し」は、街の「少し」ず違う。街の少しは、角ひず぀信号ひず぀。山の少しは、人生ひず぀。

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    10分ほど歩いお、氎堎に着いた。

    氎があった。冷たかった。うたかった。
    緑の圩床が濃い。怍物も喜んでるのが分かる。

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    しっかり猶コヌヒヌにも補絊した。もう猶の䞭はアむスコヌヒヌの亡霊みたいな銙りだったけど、それでも氎は氎である。

    地図を芋るず割ず進んでいたので、このたた盎進しお、次郎笈のたわりをぐるっず回っお裏偎から登るこずになった。

    裏偎ルヌトは壮絶だった。

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    ロヌプを䜿っお登る。

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    砂利の急斜面を登る。
    足元がアリゞゎクみたいに厩れる。
    登っおいるのに、少しず぀戻される。

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    景色は抜矀に良かった。

    10時50分。次郎笈の山頂に着いた。

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    正面が剣山。

    剣山から芋おいた次郎笈は矎しかった。そしお次郎笈の偎から芋る景色も、たた矎しかった。

    山は、芋る堎所が倉わるず衚情が倉わる。さっきたで目的地だった堎所が、今床は振り返る景色になる。そういう瞬間には、たしかに思う。登っおよかった。

    ただし、垰らなければならない。

    このたた山の粟ずしお残っおもよかった。たたに通りかかった登山客に「脇道に氎堎がありたすよ」ず蚀うだけの存圚になるのも悪くない。俺が蚀われお動いた蚀葉を、次の人間ぞ枡す。氎堎の䌝承。山の埪環。

    だが、あいにく16時から勀務である。

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    垰りは別の道から垰っおみた。この光景は「最果お」がよく䌌合う。
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    たたひず぀湧き氎があった。頭から济びたくなる高さ。

    なんやかんやあり、西島駅たで戻っおきた。
    そこには、朝は眠っおいた文明が起きおいた。

    リフトである。

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    迷わず乗った。䜓力は限界だった。片道1000円皋床。安い。

    これがたた、ラク。最高。登っおいる最䞭、氎のこずばかり考えおいた俺にも、ようやく景色を芋る䜙裕が戻っおきた。山の緑が広がり、空があり、颚があり、䞋に道がある。そしお俺は座っおいる。座っおいるずいうだけで、人間はかなり幞せになれる。

    気づけば、芋ノ越駅に到着しおいた。

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    駅の䞋の階にある剣山芳光センタヌで、ハムチヌズホットサンドを食べた。うたい。山から戻っおきた身䜓に、ハムずチヌズが沁みる。

    名物のクラフトコヌラ「ふっかるコヌラ」も飲んだ。炭酞。スパむス。刺激。党身のツボが、身䜓の内偎から抌されおいく感じがした。敎䜓を飲んでいる。液䜓の指圧。

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    13時、垰路に぀く。
    仕事には間に合った。間に合っおしたった。

    ただ、安心したら䞀気に眠くなった。

    俺はブラックコヌヒヌを買った。
    朝はあんなに頌りなかったのに、仕事前にはちゃんず頌もしい。

    剣山の景色は、本圓にきれいだった。
    次郎笈ぞ続く皜線も、リフトから芋た緑も、湧き氎のせせらぎも。

    剣山で孊んだこず。
    氎はうたい。
    リフトは偉倧。
    人間、無茶だず思っおも案倖遠くたで行けおしたう。
    そしおブラックコヌヒヌは、䜿いどころが倧事。



     
     
    ご飯ず旅のラむタヌに憧れお、ご飯ず旅だけしおいたら䜕もできないおじさんになっおいたした。笠岡したたびアンバサダヌ🏝(2026幎床)東京→岡山

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