
推し活?なんのこっちゃ。おっさんが、分からないまま飛び込んだ話。
未だに理解できていません。それでも私は、推し活コスメを作っている。
24歳の彼女に、おっさんは賭けてみることにした。
最初に、正直に白状しておく。
私は今も、推し活というものが、よく分かっていない。
これは、分かったおっさんが書いた成功物語ではない。
分からないまま飛び込んで、分からないまま走り続けている、58歳の記録である。
なんのこっちゃ、が第一印象だった
推し活。
この言葉を初めてちゃんと聞いたとき、私の頭に浮かんだ感想は、たった一言だった。
なんのこっちゃ。
なんのこっちゃ、である。
ウチワに何かを書いて、コンサートに行く。
その感覚が、まったく分からなかった。
誰かを応援するために、グッズを買い、お金を使い、時間を使う。
頭では分かる。
でも、体の芯では分かっていなかった。
私の世代の感覚からすると、それはまるで、知らない国の文化だった。
ガチャガチャに、すげえと思った
それでも、調べていくうちに、驚くことが増えていった。
推し活のガチャガチャ。
推し活のグッズ。
その世界の作り込みを見て、素直に、すげえな、と思った。
人の好きという気持ちが、これほど大きな経済を動かしている。
おっさんの知らないところで、巨大な熱量が回っていた。
美容の仕事を長くやってきて、人がきれいになりたい気持ちには詳しいつもりだった。
でも、誰かを応援したい気持ちが持つ力は、まったくの別物だった。
知らない市場が、目の前に広がっていた。
そもそも、なぜおっさんが推し活なのか
話を、少し前に戻したい。
きっかけは、一本のセミナーだった。
日本経営合理化協会。
会場には、私のようなおっさんの経営者がずらりと並んでいた。
スーツ。腕時計。難しい顔。
そして壇上に立ったのは、24歳の女性だった。
正直、最初は思った。
大丈夫かな、と。
これだけのおっさんを前に、若い女性が一人。
完全に、余計なお世話だった。
彼女は、堂々としていた。
推し活という、私たちが一番ピンとこない世界を、目を輝かせながら語っていた。
聞いているうちに、私の中で何かがひっくり返っていった。
すげえな。
超かっこいいな。
気づけば、難しい顔をしていたはずの自分が、前のめりになっていた。
そして、こう思った。
これは、おっさんが乗ってみるべきやつだ。
分からないからこそ、乗る価値がある。
一番高い会社を、あえて選んだ
そこから、私はいろんな推し活の会社を探した。
何社も比べた。
正直に言う。
推しココ様は、一番高かった。
普通なら、もう少し安いところを選ぶ。
経営者として、コストは当然気になる。
でも、組むならここだ、と思った。
理由は、はっきりしていた。
20代の若い女性ばかりの会社だったからだ。
きっと、おっさんの発想からは絶対に出てこないものを、たくさんもらえる。
私が一番ほしかったのは、安さではなかった。
自分の中にない視点。
それが手に入るなら、高さは投資だ。
そう腹をくくった。
自分の頭の中にあるものを足しても、しょせん自分の延長にしかならない。
でも、自分にないものを取り込めば、見たことのない景色が見られるかもしれない。
24歳の彼女が当たり前に見ている世界を、56歳の私はまったく知らない。
その差が、宝の山に見えた。
東京のグッズ屋を、数軒回った
腹をくくったおっさんは、行動だけは早い。
私は東京に行き、推し活グッズの店を、数軒回った。
実際に、自分の足で。
店に入り、商品を見て、店員さんに、あれこれ聞いた。
これは何ですか。
これはどう使うんですか。
どういう人が買うんですか。
今思えば、相手はきっとこう思っていたはずだ。
このおっさん、何しに来たんだろう。
場違いも、いいところだった。
若い子たちが楽しそうに選んでいる中を、一人のおっさんが、真剣な顔でメモを取りながら歩く。
我ながら、なかなかの絵面だったと思う。
それは、発見ではなく体験だった
正直に書く。
何軒も回って、いろいろ聞いて。
それでも、新しい発見はなかった。
なぜか。
未だに、理解できていないからだ。
これは格好をつけているのではない。
本当に、今も分かっていない。
ただ、発見はなかったが、体験はあった。
分からない世界に、自分の体で飛び込んだという体験。
知らない場所で、知らない人たちに、知らないことを聞いて回ったという体験。
頭で理解することと、体で触れることは、違う。
理解はできていない。
でも、触れた。
その手触りだけは、確かに自分の中に残った。
若い感性と、おっさんの経営
こうして、推し活コスメ Enchérie が動き出した。
若い感性と、おっさんの経営。
その組み合わせは、想像通り面白かった。
打ち合わせのたびに、自分にはなかった言葉が飛んでくる。
なるほど、そう来るか、の連続だった。
私が常識だと思っていたことが、彼女たちの世界では常識ではない。
彼女たちが当たり前にしていることが、私にはまったくの新鮮だった。
このズレが、面白い。
おっさんが一人で考えていたら、絶対にたどり着けない場所に、会話のたびに連れていかれる。
きついことは、実はなかった。
分からないなりに、ずっとワクワクしていた。
知らないことを知っていく過程は、いくつになっても面白い。
それだけは、はっきり言える。
せっかちなおっさんの、長すぎる戦い
ただ一つだけ、本音を言わせてほしい。
完成まで、長い。
本当に、長い。
思うものを作ろうとすると、これがまた、お金もかかる。
こだわればこだわるほど、ゴールが遠ざかっていく。
私は、せっかちな人間だ。
思い立ったらすぐやりたい。
すぐ形にしたい。
すぐ世に出したい。
なのに、ものづくりは、待てと言ってくる。
ここが、私にとって最大のジレンマだ。
見切り発車の天才、と昔スタッフに言われたことがある。
たぶん、当たっている。
その私が、じっくり時間のかかるものづくりに挑んでいる。
これはもう、自分の性格との戦いでもある。
そして、白状すると。
Enchérie は、まだ完成していない。
この集大成を書いている今も、まだ、できていない。
物語の最後に、完成しました、と書けたら格好いい。
理解できました、と書けたら、もっと格好いい。
でも、嘘はつけない。
まだ完成していないし、推し活も、まだ分かっていない。
それでも、後悔はまったくしていない。
あのセミナーで、24歳の彼女に賭けてみると決めた瞬間のことを、今でも覚えている。
おっさんが、知らない世界に飛び込む。
分からないものに、分からないまま手を伸ばす。
その時点で、もう半分は成功だと思っている。
分かってから動くおっさんには、きっと、この景色は見えなかった。
残りの半分は、もう少しだけ、待つ。
せっかちな私には、それがいちばんの修行だ。
いつか Enchérie が完成して、それでもまだ推し活を理解できていなかったとしても。
たぶん私は、笑っている。
分からないものに飛び込めたこと自体が、おっさんにとっては、上出来なのだから。