
母ちゃん、最近笑わないね。
4歳か、5歳の頃だったと思う。
子育て、家事、仕事復帰。
まだ始まったばかりの生活の中で、
私は、とにかく全部を一人で完璧にこなそうとしていた。
朝起きて、朝ご飯。
洗濯、片付け、保育園の準備。
園服を着せたら、保育園へ送り届け、そのまま出勤。
夕方、仕事を抜けて迎えに行き、子どもを連れて職場へ戻り定時まで仕事。
帰ったら、ご飯、お風呂、寝かしつけ。
毎日が流れ作業みたいで疲れている暇もなかった。
夜の帰宅後、子どもと過ごせる時間は、ほんの2時間ほど。
「早く食べて」
「早く着替えて」
「早く寝よう」
時計ばかり見ながら過ごしていた。
ちゃんとやらなきゃ。
ちゃんとこなさなきゃ。
そう思うほど、
子どもの顔を見る余裕がなくなっていった。
そんなある日、子どもがぽつりと言った。
「母ちゃん、最近笑わないね」
一瞬で、現実に引き戻された。
子どもは、ちゃんと見ていた、私の顔も、声も、空気も。
私なんかより、よっぽど周りをみて過ごしていたのかもしれない。
いつの間にか、じっくり子どもの顔を見るのは、
絵本を読み終え、静かに寝息を立てたベッドの中だけになっていた。
完璧にやろうとしていたのは、
ちゃんと暮らしたかったからだった。
けれど、大切にしたかったものを、
置き去りにしかけていたのかもしれない。
今思えば、あの言葉は、
子どもからの小さな「待って」だったのだと思う。