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『はらぺこあおむし』を読んだことない人とエリック・カール展に行ってみた:大人になって初めて読むと何が見える?【ひとりごと】

    ■ 「えっ、読んだことないの?」

    先日、東京都現代美術館で開催されている『エリック・カール展』を見に行ってきた。
    めっちゃ雨降ってた。

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    ふたりで行ったのだが、実は事前に同行者からこう聞いていたのだ。

    「実は読んだことないんだよね、
    『はらぺこあおむし』笑」

    ……えっ?
    まじで?
    あれ幼児期の必修みたいなもんじゃないの?

    もちろん家庭によって読む本は違う。環境は千差万別。理屈では分かっている。でも、こちらとしては軽くカルチャーショックだった。

    一方で、すぐに別の考えが浮かぶ。

    これは面白いシチュエーションだ。大人になって初めて『はらぺこあおむし』を読む人は、何を感じるんだろう。その反応を見られる。

    せっかくなので、勝手に文化人類学的フィールドワークを始めることにした。

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    ■ 日本語タイトルは、説明ではなく「あの子の名前」

    前提として私、この作品には以前からひとつ感心していることがある。『はらぺこあおむし』という日本語タイトルが、とんでもなく巧い。

    原題は

    The Very Hungry Caterpillar

    直訳すると「とてもお腹を空かせたイモムシ」。

    ……全然売れなさそう。

    あ、もちろん、エリック・カールの作品のいくつかが “The Very 〜” で統一されていることは知っている。原題が下手という話では決してない。
    むしろ「英語という言語の特徴からすれば」とても優れたタイトルだ。

    ただ、日本語のシステムには合わないという話。

    一方、『はらぺこあおむし』になると、

    ●幼児語のような「はらぺこ」
    ●ひらがなの柔らかさ
    ●8文字のグルーヴ感

    全部が一気に立ち上がる。さらに面白いのは、英語では「状態」を説明していて、日本語では最初から「キャラクター名」になっていること。

    「お腹を空かせたイモムシ」ではなく、「あ、はらぺこあおむしちゃん!」もう友達なのだ。

    日本語は、やはりタイトルにも人格を与える傾向がある。図らずもここで私が書いた「かわいい論」に繋がってしまった。

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    ■ フィールドワーク開始

    そんなことを考えながら展示を歩く。私は制作技法を見たり、英語原文と日本語の差について考えたり、コラージュの色彩に感心したりしていた。

    一方、初見の同行者はどう見ていたのか。聞いてみると、返ってきた感想は短い一言だった。

    「土曜日最高!」

    なるほどそこかーー!

    教訓ではなく、快楽を読んでいた。

    念のためまとめると、物語の中であおむしくんが食べていたものは以下。

    月曜日:りんご(1つ)
    火曜日:なし(2つ)
    水曜日:すもも(3つ)
    木曜日:いちご(4つ)
    金曜日:オレンジ(5つ)
    土曜日:チョコレートケーキ、アイスクリーム、ピクルス、チーズ、サラミ、ぺろぺろキャンディー、さくらんぼパイ、ソーセージ、カップケーキ、すいか
    日曜日:お腹を壊して葉っぱを食べる

    通常は「食べ過ぎてお腹を壊す」という教訓として読む。ところが初見の大人は違った。

    チョコレートケーキ。
    アイスクリーム。
    キャンディー。
    ソーセージ。
    好きなものを全部食べる。
    その自由さと欲望のほうに反応したのだ。

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    これは仮に独りで展示を見ていたら、絶対に気付かない視点だった。

    考えてみたら私も同行者も一種の酒カスである。あおむしの土曜日の暴食に、「欲望のままにアルコールを摂取する夜」を投影するのもごくごく自然なことなのだ。これぞ大人ならではの視点。

    ……となると、日曜日にあおむしが食べた葉っぱは、いわば二日酔いの我々にとってのしじみの味噌汁のようなもんである。

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    ■ 俺ら版『はらぺこあおむし』

    さらに展示を歩きながら同行者と話す。

    「というかもし俺らがあおむしだったら、曜日の途中で絶対酒入るよねw」

    月曜日に芋焼酎を1杯飲みました。
    火曜日にラフロイグを2杯飲みました。

    そんなくだらない話をしていたら、展示後半で本当に酒瓶を持ったあおむしが現れた。

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    作者公認だった。

    完全に展示側に一本取られた。

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    ■ 大人になって初めて読むというレアな価値

    今回一番面白かったのは、展示そのもの以上に、『はらぺこあおむし』を読んだことがない大人という存在だった。

    私は翻訳の面白さを見ていた。
    同行者は「土曜日最高!」を見ていた。

    同じ作品なのに、見えているものが全然違う。

    『はらぺこあおむし』って、子どものためだけのものだと思っていた。でも案外、大人になって初めて読むからこそ見えるものもあるらしい。

    今回のエリック・カール展は、単なる展覧会というよりは、そんな小さな、でも得難いフィールドワークであった。

    と、歩き回ってすっかりはらぺこになった大人2匹は、美術館近隣のイタリアンで盛大に食らい、ワインを飲むのでした。

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    エリック・カール展は7月26日まで開催中です。
    あと、記事内の展示会の写真はすべて撮影OKなエリアで撮ったものです。大半は撮影NGだったのでご承知おきください。

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