
【散文】喪失2
俺わかった気がする。なんかずっと不思議でどうしようって思ってたんだけど。
今月半ばには好きなバンドのライブがあってそれだけでも生きてて良かったって。好きな漫画も発売されるし。観たい映画もあるって。
良かったね。良かったよ。
ありがとう。
ずっと思ってたことがあって。
愛別離苦ってきっと人生の一生のテーマかもしれないって。
たまたま実家に行く用事があってさ、70になる母親と50近くの姉と40過ぎた自分がハンバーグなんか食べに行って。甥っ子は今年受験だしあんなに栄えてた駅前も寂れてて。
白髪になった母親がハンバーグ残してこれ食べな、って俺に言うけど、俺ももうそんなに食べれないよって。
俺がお金出して俺の運転で旧国道沿いを真っ直ぐ走る。風は生ぬるくて助手席の姉が俺のことを太ったって、シミの増えた腕をさすりながら笑う。あんたも辛いだろうけど頑張るんだよって。
ああもうあと何回こんな時が来るのかな。
自分の家に帰ってきて、奥さんがハマってるスープ作りながらお帰り、みんな元気だった?って。うん、元気だよ。相変わらずだよ。でももうきっと二度と戻れないんだねって。思ったよ。
奥さんの背中に抱きついてなんかさ、寂しいもんだねって。どうしたの?何かあったの?
ううん、なんか俺わかった気がするよ。これってどうしようもないしきっとこれから先はこういうことばかりが起きるんだってわかってる。覚悟してる。でもね、なんかね、苦しいね。
愛するものたちと別れる苦しみはどうしようもないんだね。今までも色んな別れがあったよ。
父親は物心ついてすぐいなくなった、仲の良かった友達とも会わなくなった、大好きだった彼女とも別れた、もう会うことがない先輩や上司もいる。
人生、なんて言いたくないけど、人生ってそういうものなんだね。
ねえ?私がいなくなったらどうするの?
腕の中で奥さんが窮屈そうに笑う。スープはコトコト言っている。
きっとそれはいつか必ず起きることで、もしかしたら先に俺がいなくなるかもしれなくて、きっとそれはいつか必ず起きることで、母も姉もいつか必ず起きることで、俺は、俺って、それに耐えられるのかなって。
今がきっと一番良いんだろうね。
きっと起きてしまった後で今日思った事を思い出して苦しい思いをするんだろうね。それはいつか必ず起きることで。
どうしたらいいんだろう?かけがえのない今が失われてしまうことに俺はどう臨んでいけばいいんだろう?
俺なんかわかった気がするんだ。
それはいつか必ず起きることで。恐れても抗ってもどうしようもない逃れられないことで。
この手の温もりが永遠に失われると分かっていても日々は続いて繰り返し生きていかなきゃいけないもんね。
俺なんかわかった気がするんだ。そんなことないのかもしれないんだけどさ。それは必ず俺から大切なものを奪ってしまう。それに俺はきっと耐えられず深い喪失に打ちのめされる。
絶望するかもしれないし後を追いたくなるかもしれない。またいつかどこかで再会することを望みにするかもしれない。救済を探し求めるかもしれない。それは必ずいつか起きることで。
それは必ずいつか起きる。
あのさ、こんなの正解でもないし慰めにもならないかもしれないんだけどさ、
確かにあったから。
俺は必ず大切なものを失うけれど、大切なものを持ってたんだって。元気で女手一つで育ててくれた母ちゃんもヤンキーだった姉ちゃんも俺と結婚して暮らしてくれた奥さんも他にもたくさんの失いたくなかったものを、俺は持ってたんだって。
それは必ず失われてしまうから、その苦しみと悲しみに俺は勝つことが出来ないけど、確かにあったんだって。それは戦争でも犯罪でも俺からなかったことには誰にもできないから、それは良かったのかなって。
良かったねって。俺はなんかわかった気がするよ。失われるものでも良いんだと思うよ。失われてしまうかもしれないけれど、それが何だよ?
確かにあったから。
確かにあったってことは失われることはないのかなって。
思うよ。
ねえ?私がいなくなったらどうするの?
あの日、あの場所で、大切なものと過ごしたことはどんなものにも否定出来ないよ。誰にも奪えないよ。だからきっと大丈夫だよ。また会えたら良いね。スープは腐って腕の中にはもう何も残ってないかもしれないけれど。
俺ようやくなんかわかった気がする。気がするって。だから平気だよ。泣いてないよ。こっちは大丈夫だよ。一生懸命生きてくよ。
確かにあったから。
また会おうね。
ありがとね。