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プリマドンナ・デルモンド           誰も知らないモナリザの秘密          第118話  マントヴァへ その四 

    稲邊富実代

    やっとミラノの町を突き抜け、野原まで来ると、夜遅く一行は野に幾つも天幕を張った。
    夜が明けると、一行はすぐにまた出発した。
     
    「お妃様、お願いがございます。」
    アントニオが馬上から話しかけた。イザベラは、馬車の窓から見上げた。
    「もう、行かせて下さい。 殿様に一刻も早くお報せしたいのです。」
    「でも、通行証書が」
    「私は無くても平気です。」
    「いいえ、国境付近にはフランス兵が駐屯しています。」
    「御心配なく。 では」
    言うが早いか、アントニオは馬に一鞭当てた。
    「お待ちになって」
    行きかけてアントニオはきびすを返した。
    「これを持って行って下さい。」
    「あっ、これは」
    イザベラが差し出した通行証書を見て、アントニオは驚きの声を挙げた。
    「これが無かったら、お妃様はお困りになります。」
    「いいのです。私たちは大勢で参りますが、貴方は一人でいらっしゃるのですから。」
    イザベラはアントニオの手に通行証書を握らせた。
    アントニオは、感極まった表情で暫くそれを見つめていたが、深く一礼すると、しののめの光のさし始めた東をさして、夜明けの野を矢の如く馬を駆って去って行った。
     
    マントヴァへの道をイザベラはまばたきもせず、馬車の窓から見つめ続けた。
    刻一刻、着実にマントヴァに近づいているのだ思うと、イザベラの胸は高鳴った。
     
    その夜、イザベラは天幕の中で眠れなかった。
    明け方、まだ暗いうちにイザベラは、自分の喜びの声で目を覚ました。
    今日こそ、今日こそマントヴァに着くのだ。
    早朝、一行は出発した。
    「ああ、マントヴァの風のにおいだわ。」
    イザベラは涙を流した。
     
    馬車は国境に差しかかった。通行証書が無いので、ここは最後の難関である。
    イザベラは窓を閉めた。
    馬車は、刻一刻、国境に近づいた。
    その時、わあっという叫び声の様なものが微かに聞こえた。
    そして、それはだんだん迫って来た。
    「何が起こりましたのでしょう。」
    「せっかくここまで帰り着きましたのに」
    侍女たちは向かいの座席で震えていた。
    イザベラは、身を固くした。
    と、突然、馬車が止まった。
    イザベラは、心臓が乱れるのを感じた。
    不意に馬車の窓が外から開けられた。侍女たちは蒼白になった。
    イザベラは心を決め、馬車から降り立った。
    その瞬間,地を揺るがす様な歓声が湧き起った。
    イザベラは気が遠くなった。
    なんとそれは、無数の出迎えの人々だったのである。
    イザベラは、立っているのがやっとだった。
    その時、イザベラは、はっとした。
    エレオノーラがこちらに向かって走って来るのだ。
    イザベラは我を忘れて駈け出し、エレオノーラを抱き上げた。
    その瞬間、涙が席を切った様に溢れ、イザベラは息が止まりそうになった。
    イザベラは、エレオノーラの小さな胸がつぶれるほど抱きしめたが、自分でも腕の力を緩めることが出来なかった。エレオノーラの柔らかい髪が口に入っても、イザベラは顔を摺り寄せて泣き続けた。
    その横でフランチェスコは、いまにも涙がこぼれそうな表情で仁王立ちになっていた。
    人々は、一斉に万歳を叫んだ。
    人々は、声を限りに万歳を叫んだ。
    その声は、マントヴァの山野に広まり、何時までも何時までもこだまし続けた。



    「プリマドンナ・デルモンド 誰も知らないモナリザの秘密」を御愛読下さり、有難うございました。
     

     
     
     
    15世紀 北イタリア。フランスの大軍に包囲された小国マントヴァ。 実在の若き侯妃イザベラ・デステの運命は?   そして、レオナルド・ダ・ヴィンチが生涯憧れ続けた永遠の女性は?   誰も知らないモナリザの真実。

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