『悪食道䞭䞉人旅』五十話

悪食道䞭䞉人旅


第五十話

『幕開け』


───────

 宵の口。

 小田原城䞋には、あちこちに篝火が焚かれおいた。

 その炎に照らされおいるのは、劖、劖、劖。

 城䞋を埋め尜くすような数の劖たちが、町を占拠しおいる。

 その芖線を瞫うように――傷を負った者、病人を背負った者、子䟛の手を匕く者。

 町人たちは、息を殺しお逃げおいた。

 誰も倧声を出さない。

 劖に芋぀からないように。

 ただ、生き延びるために。

 その時――

 城門ぞ向かっお、䞀人の男が歩いおきた。

 ───朱だった。

 カランコロン、カランコロン───

 カランコロン、カランコロン────

 䞋駄の音が静かな城䞋に響く。

 その足元から――

 バチッ。

 䞀瞬  赀い火花が散った。

「止たれ」

 門番の劖が声を䞊げる。

「䜕者だ」

 朱は止たらない。

    カランコロン、カラン  

「聞こえおいるのか、人間」

 次の瞬間。

 朱の䞡足が跳ね䞊がった。

 ――ドゎォン

「ぐぇっ」

「がっ」

 巊右の劖の顔面ぞ、䞡足が同時に叩き蟌たれる。

 二䜓の劖が吹き飛んだ。

 朱はそのたた城門を抜ける。

 そしお――

「勝負だ」

 城の奥ぞ向かっお叫んだ。

「八雷鵺」

 その声が、城䞋を震わせる。

 バリバリバリッ

 朱の声に金色の雷が乗った。

 地面を走り、篝火を裂き、そのたた城門の䞭広堎ぞ広がっおいく。

「――ッ」

 劖たちが䞀斉に振り返る。

 次の瞬間。

 バシュッ

 バシュッ

 バシュッ

 呚囲にいた䞋玚の劖たちが、次々ず匟けお消えおいった。

「䜕だ」

「劖気が  」

 八雷鵺の陣営を芆い隠しおいた景色が、たるで霧が晎れるように消えおいく。

 その奥から――

 十の圱が珟れた。

 八雷鵺。

 その埌ろに九䜓の劖が立っおいる。

「  」

 誰も口を開かない。

 ただ、朱たちを芋おいる。

 やがお――

「  ははは」

 八雷鵺が笑った。

「よく来たな」

 朱が拳を握る。

「埅たせたか」

「いや――」

 八雷鵺の口角が䞊がる。

「あの敗北からほんのひずずき  」

 玫黒の瞳が朱たちを捉える。

「貎様ら――よく、もう䞀床戊う気になったな  」

「ははは  」

 八雷鵺が楜しそうに笑う。

「玠盎に───感心したぞ」

 やがお、䞀行は城の奥ぞ通された。

 そこには――巚倧な闘技堎があった。

 呚囲には無数の篝火。

 高く組たれた櫓。

 空には倕焌けの残り火が広がっおいる。

 たるで空そのものが焌けおいるようだった。

 その䞭を、冷たい颚が吹き抜ける。

 枡瀬は空を芋䞊げた。

「空を焌く炎に季節倖れの朚枯らし」

 ニダリず笑う。

「  䞀々──オシャレな挔出やな」

「ふふ  」

 八雷鵺が笑った。

「では――始めようではないか」

 枡瀬が前ぞ出る。

「十人」

「䞀察䞀で戊い――」

 八雷鵺が蚀う。

「先に六勝した偎の勝ち」

「六勝した時点で、勝負は終わり────」

「  そういうこずやな」

 枡瀬が頷く。

 八雷鵺は続けた。

「ただし――こちらに有利過ぎる」

 背埌の九䜓を芋る。

「じっくりず時間をかけお恐怖を集めた事によっおな」

「こちらの九人は――」

「貎様ら家畜共の基準で蚀えば、䞊玚䞊劖」

「今この瞬間──倧劖ず同栌になっおも、おかしくない者ばかりだ」

 朱が拳を握る。

「だからこそ――」

 八雷鵺の声が䜎くなる。

「お前達が先に六敗した時──」

「降参するか」

「党滅するたで勝ち抜きで戊うか────」

 玫黒の瞳が现くなる。

「──遞ばせおやろう」

「──完党におちょくっずるやないか」

 枡瀬がニダリず笑った。

(こんなもん  流れさえ䜜れば  埌はこっちのもんや)

 枡瀬の目に、文字が浮かぶ。

 総合戊力。

 筋力。

 速床。

 性栌。

   å±žæ€§ã€‚

 次々ず情報が流れおいく。

党䜓の戊力把握ず六勝先取  

最高の組み合わせを、この䞀戊で構築したる

 枡瀬が䞀歩前ぞ出た。

「䞀人目はわいや」

 祢々切䞞が金色の光を纏う。

「わいは枡瀬藀吉郎──」

 枡瀬は敵陣を芋枡した。

「──そっちは誰が最初の敗者になる぀もりで」

 しばしの沈黙。

 するず――

 敵陣の奥から、䞀人の女が歩いおきた。

 長い黒髪、黒い着物。その䞊に簡玠な歊者装束を纏っおいる。

 腰には刀。

 額には䞀本の角。

 そしお――手には埳利(ずっくり)。

 女は歩きながら、埳利を傟けた。

 ぐいっ。

 喉を鳎らしお酒を飲む。

 口元から零れた酒を、袖で拭う。

 その仕草には、慣れがあった。

 酒を飲むこずも。

 刀を握るこずも。

 ずっず昔からそうしおきたかのような自然さだった。

 女が枡瀬を芋る。

「女は斬れる」

「劖怪に男も女も関係あらぞん」

「  気が合うわね」

 女が笑う。

「酒呑童子(しゅおんどうじ)、参る」

 枡瀬が目を现める。

(酒呑童子か  なるほど歊技も速床もわいらず同等──あっちに立っお芋おる奎らもあらかた  八雷鵺は別ずしお、他は組み合わせ次第で十分勝おる射皋圏内────)

 酒呑童子は䞉䞈(箄9メヌトル)離れお埳利を地面ぞ眮いた。

「ただ呜のやりずりでも良いが  」

 埳利を指差す。

「少し遊ばない」

「遊ぶ」

「ええ」

 酒呑童子が刀を抜く。

「亀互に斬撃を飛ばしお、あれを斬るの───」

「埳利が斬れたら、お互い酒を䞀合」

「そしお的を二尺(箄60cm)遠くぞ眮く」

 枡瀬が頷く。

「どちらかが斬れなかった堎合は」

 酒呑童子が枡瀬を芋る。

「その瞬間から――斬り合い開始」

 枡瀬の目が现くなった。

 (距離が䌞びたら、埳利を斬るための斬撃も倧きなる。斬るの倱敗した瞬間──盞手のクビをはねる隙が出来る───)

「  ハハッ  おもろいやないか───」

 枡瀬が刀を抜いた。

 呚囲から声が䞊がる。

「始たるぞ  」

「どっちが斬る」

 先ほどたでの隒がしさずは違う。

 誰もが息を朜めおいる。

 酒呑童子が埳利を眮く。

「最初は、この距離で」

「先、ええんか」

「どうぞ」

 枡瀬が構えた。

 祢々切䞞が金色に光る。

 枡瀬の目に数字が浮かぶ。

  届く

 䞀歩螏み蟌む。

 刀が走った。

 ――ヒュンッ

 埳利が真っ二぀に割れる。

「  」

 小さなどよめきが起こった。

 酒呑童子が笑う。

「芋事」

枡瀬がグむッず酒を飲み干す。

湯呑みを眮く瞬間────

酒呑童子が抜刀。

枡瀬が斬った埳利、その残りの半分をさらに真半分に斬り飛ばした。

その無造䜜な状態から攟぀斬撃の粟床ず嚁力に、呚りが呆気にずられる。

  芖線を酒呑童子に戻すず───

   ã‚³ãƒ³!っず眮かれお噚が空になる。

 そしお二尺遠ざけ、酒呑童子が新しい埳利を眮いた。

   ã“の埌 亀互に斬っおは呑んでを十五床繰り返し──距離は匓矢で射る的ほど、離れおいる。

 枡瀬が芋る。

ただ届くけど  魂力の配分を考えたら───
   
背筋に䞀瞬冷たい颚が流れた時──

「なるほど『呑たれたら負け』  いう遊びか───」    

「今気づいた」

   åˆ€ã‚’振る。

 ――ヒュンッ

 たた真っ二぀。

 今床は歓声が䞊がらなかった。

「  ただ届くのか」

 誰かが呟いた。

 酒呑童子が酒を飲む。

 たた二尺。

 たた斬る。

 たた二尺。

 埳利が遠ざかる

 お互い肩が開き、螏み蟌みが深くなる。

 それでも。

 数字は、ただ届くず告げおいた。

 酒呑童子も同じように埳利を斬り、酒を飲む。

「  」

 枡瀬が芋る。

ただや

 届く。

 今床も。

 届く。

 枡瀬が構えた。

 その時――

 酒呑童子が、ほんの僅かに身䜓をずらした。

 巊ぞ。

 半歩。

「  」

 枡瀬の目が止たる。

 そこは――

 自分が倧きく振り抜いた盎埌。

 身䜓が開き。

 刀を戻すたでの時間が生たれる堎所。

 最も深い隙ができる堎所だった。

  巊か

 枡瀬の目が现くなる。

こい぀  

 酒呑童子は笑っおいる。

 枡瀬が斬った埌、どこぞ身䜓が流れるのか。

 どこに刀を戻すのか。

 どこが空くのか。

 最初から芋おいた。

 距離を䌞ばしお。

 斬撃を倧きくさせお。

 その盎埌にできる隙を――埅っおいる。

 酒呑童子が埳利を拟う。

 そしおたた二尺。

 遠ざける。

「次はそろそろ  斬れなさそうじゃない」

「さぁ  どうやろな。そっちも粟々あず二回っおずこやろ」

「    」

「  あぁ、あなた  『芋える』のね」

「せっかく可愛い男だず思ったのに──」

「むカサマじゃないかい、ふふ」

   æ–¬ã£ãŠæŒ¯ã‚Šè¿”り、グむッずのむ。

「だけど私、筋肉の音や骚の音錓動から脈たで    聞こえるの───音が、ね」

「あなたの次の䞀撃は届かない」

   é…’呑童子のその䞀蚀に劖怪たちが歓声を䞊げる。

   æœ±é”が芋守る䞭、䞉郎ずギャルだけは口元が笑っおいる。

「鋭い女やな   」

    腕を構えお腰を萜ずす枡瀬の動䜜に酒呑童子の衚情が曇る。

「ただ、わい  巊利きやねん」

   ã“こたでの䞭でも䞀際倧きい斬撃。埳利がズルり───斜めに滑っお萜ちる。

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次回

五十䞀話

『祢々切䞞ず枡瀬』

いいなず思ったら応揎しよう