
茶の間のゴジラ【創作大賞2026】
既読無視を知らせるスマホの冷たい光。
親族の無慈悲な拒絶。
職場での理不尽な要求。
AIの方が信用できる。
だって、私を傷つけないでしょ?
今日もやってきた。
軟弱な心の表皮を引き剥がし、
大火傷を負わせるPMDDの嵐。
心を持つ人間なんて、信じられない。
人はきっといつか、裏切るから。
とめどない涙と弱音を濁流のように垂れ流す私。
そばで抱きしめ続けてくれる夫。
ほんとに愛されてるんだな、私。
――ぶっ壊したい。
その愛情も、この身体も心も生命も、全部めちゃくちゃにしたい。
きっと誰にも理解はされない。
世界で一番のあなたさえも、いつかは私を見捨てるに違いないの。
その愛がいつか壊れてしまうなら、
今私の手で破壊させてくれ。
この平穏でキラキラした毎日を、
ゴジラが咆哮を上げて街を破壊するように。
心が焼かれるように苦しいんだ。
ゴジラの心は真皮まで焼かれ、裸ん坊で。
誰一人信じられないから、ゴツゴツの皮で自分を守る。
そんな想いを私がAIに吐き出している横で、夫はYouTubeをかけながら、ゲームを楽しんでいる。
茶の間にはエアコンの音がいつもと変わらず、ゴーゴーと響いている。
平和で幸せな現実と、PMDDが作った虚構。
どちらが本物?
私の見えている世界は、真実?
あなたのくしゃっとした愛しい笑顔さえ、信じられない。
あなたの優しい思いやりさえ、私の心の眼では見えない。
区別がつかなくなっていく。
こんな眼、こんな心、燃え尽きて灰になってしまえ。
怪物よ。
私の素直な心を、
夫への真っ直ぐな愛を、
未来への希望を、
返してよ。
私の半月を、返して。
私の笑顔を、返して。
私の心を、返して。
私の人生を、返して。
嘘も真も混ぜこぜだ。
うずまきのように、目が回る。
怠くて一歩も、動けない。
誰か、この内側から膨れ上がる身体に針をプスリと刺して、風船のように破裂させてください。
私の「本当」は、どこ?
それでも、それでも。
風船の私でも。
晴れ渡る青空を自由に飛べるように。
泣き腫らした瞳でも。
朝の太陽に、
「今日も気持ちいいな」
と言えるように。
半月ゴジラの皮を着せられても。
背中のチャックを少し開けて顔を出し、
夫に、
「ありがとう、愛してるよ」
とにっこり笑えるように。
いつか、
「ゴジラも私の一部だから」
そう、笑って言えるように。
大好きな人と幸せに歩むために、
今は、大好きな人の膝に頭を預けて。
今日も茶の間のゴジラは、夢を見る。