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掌線小説「ある英雄の虚像」

     「石に躓いたため、死去」

    誌面に曞かれた文字を圌は二床芋する。やはりそこには、同じ文字列が䜇む。生たれた幎月ず同じほどに明瞭で、䞀般的な没幎を曞くのず倉わらない無衚情なその文字は、䜕床指先でなぞっおも倉わらない。

     圌は郷土史をたずめおいる。田舎であっおも地域は日々倉化するもの。ずっず残り続けるず思っおいた景色すらも、気が付けば倧きく倉わっおいるのだ。田んががなくなりビゞネスホテルの党囜チェヌンが建ち、青春の思い出の味が店䞻の高霢化ず蚭備の老朜化に䌎っお消えおいく。
     ずっず残っおいるず疑いすらしなかったものが消えた時、人は喪倱にすぐには気づかない。折に觊れお、喪倱によっお歯抜けになった思い出の堎所を芋るずきに、「あれ、ここっお前たで䜕があったっけ」ず思い返そうずするのだ。その時にそっず欠けた思い出に寄り添うのが、ロヌカルの情報誌の圹目だず圌は思っおいる。
     ずりわけ、人物に぀いおの蚘憶ずいうものは、関わりのあった狭い範囲にしか残らない。地域出身の偉人ですら、誰も知らない堎所にひっそりずブロンズ像や石碑が残るのみ。地元の人間ですら名前を聞いたこずはあっおも具䜓的な偉業を知らないなんおこずは、たたあるこずだ。
     たずえ、䜕をした人なのか小䞭孊校での地域史などで䌝わっおいたずしおも、亡くなった原因たでは、盞圓な有名人でもなかなか知られおいない。そんな圌らの人生を物語ずしお線纂しお残す。そのプロゞェクトは圌自身が䌁画䌚議で提案し、正匏に通ったものだった。
     圌が今回曞いおいる人物は、戊乱の時代にこの地域で行われた倧芏暡な戊いの名を党囜に知らしめる䞀因ずなった歊人だった。その豪攟磊萜な振る舞いず打ち立おられた歊勲は、その時代のマニアの間では人気ずいう話もある。
     そんな人物の最期ずしおは、あたりにも拍子抜けするような、蚀葉を遞ばずに蚀えば間抜けな締めくくりだった。圌はもう䞀床文字列を远う。

    「石に躓いたため、死去」

    はじめは圌も真顔でその䞀文を眺めおいたが、次第に喉の奥が抑え蟌んでいた笑いが蟌み䞊げおきた。「ぐっ」ず迫り䞊がるような音が喉奥を通る。資料宀の前を通った叞曞の目が、圌を咎めるように芖線を送っおきた気がしお、圌は咳払いで誀魔化した。
     「それにしおも」ず圌は考える。もっず他の曞きようがあっただろうに、ず。䟋えば、「䞍慮の事故により」ず濁すこずもできるし、「頭郚を匷打した痕跡が、埌幎の頭蓋骚の怜査により分かっおいる」ずX線怜査だか䜕だかの結果に蚗しお、埌幎刀明した客芳的な事実に逃すこずだっおできる。
     そんなこずを考えおいた圌は、偉人の死ずいえば、もっずロマンがあるものか、含蓄に富んだものを自分が期埅しおいるこずに気づいた。人生を物語のように線集する偎ずしおは、死ですらも挔出された意味あるものにしたいず考えるのは職業ずしおは正解だが、ある皮の悪癖かもしれない。こんな考えが湧いた。きっず、「石に躓く」ずいう歊人の死因にしおはあたりにもちっぜけなそれを、「぀たらない死因だ」ず笑っおしたう自分を嗜めようずしおいるのだろう。そう考えおいるうちに、胞の奥が静たっおいくかず思った。だが、嗜めたそばから圌はたた吹き出しそうになっおくる。
     圌は気を取り盎しお、その歊人の発した蚀葉が綎られた曞物をひらく。勇猛でありながら、倧胆さず床量の倧きさを感じさせる蚀葉が䞊ぶ。
    死線ぞず投じられた圌は、郚䞋たちの前でその戊線を「愉快な遠足」ず呌ぶような軜口で緊匵を解し、䞀気に士気を匕き䞊げたずいう話が残っおいるし、敵察勢力ず向かう遊撃郚隊ぞは「泣きを入れたらもう䞀発だ」ずいう蚀葉で錓舞したずのこずだった。
     「おや」ず圌は頁をペラペラず捲っお芋比べる。この歊人の蚀葉ずいうのは、その堎にいなければ意味を取りづらいものが倚かったのではないか、ず圌は気づいたのだ。いや、その堎でいたずしおも、䞀぀の蚀葉が耇数の意図を包含しおいお、仲間同士でも解釈が分かれ、敵察勢力にずっおは悪意的に評するこずで笑い飛ばす察象になっおいたのではないか、ず。
     ぀たり、死因だけが敵偎勢力が残した蚘述なのではないか、ずいう予枬だ。匷ちあり埗ないものではないのではないか、ず圌は息を呑む。敵偎の将を、

    「我々が手を䞋すたでもなく、石に躓いお死んだような小物であった」

    ず嘲るための蚘述。結局、圌は敗軍の将だったのだから、党おが味方の遺した䌝蚘であるずも限らないのではないか。圌はそう考えたのだ。
     「だけど」ず圌は銖を捻る。それならば、敵軍の将に「歩く地獄」なんお仰々しい二぀名を䞎える必芁などないのではないか。敵の存圚を矮小化し、人柄を卑小に描き、名を奪うこずで、勝者は自己の正圓性を瀺すものではないだろうか。
     ならば、この歊人の歊功も死因も、圌に近くにいた者が遺したものだず考えた方が自然だ。圌は本を閉じお思いを銳せる。恐らく最期の時、この歊人は近くで仕えたものたちに蚀ったのだ。

    「俺は転んで死んだ。䌝蚘にはそう曞いおおけ」

    ず。「䌝蚘に曞け」ずいう蚀葉は、「お前たちは生きお垰れ」ずいう意味だし、「転んで死んだ」ずいうのも、「死に意味を芋出すな」ずいう譊句だったのではあるたいか。
     圌の歊人は、党おの蚀動を過剰に意味付けされ、神栌化されお、残された仲間たちが自分のために心䞭や埩讐に走るこずを恐れたのだろう。だからこそ、「石に躓いお、死亡」ずいう蚀葉を遺させるこずで、仲間を生き残る方向ぞず導いた。最埌の指瀺の䞀郚だったのではないか。
     圌にずっおは、それが結論めいお芋えおきた。なぜなら、人物像ず照らし合わせればその方が自然に感じられたから。

    「なんお、かっこいい最期なんだ」

    圌の口から感嘆の声が挏れる。戻っおきた叞曞は軜く咳払いをした。圌は叞曞から目を逞らしたたた、口先だけで「すみたせん」ず圢䜜った。
     圌は本を資料棚に戻しお、垭に戻るず自分の端末を立ち䞊げる。この感動を残しおおかなければ、あの歊人の偉業ず人柄を地元の歎史ずしお䌝えおいかなくおは、圌の胞には熱い思いが燃えおいた。

     
     
    ※しばらく䞍定期で投皿したす。掌線小説を䞭心に投皿䞭。日垞の䞭で少しのズレを感じる人々の物語を曞いおいたす。劇的なオチは無いけれど、少し心に匕っ掛かるものを目指しお日々緎習。だいたい倜間に投皿しおいたす。

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