
全員に「まあまあ」より、4%に「絶対欲しい」を──4%ルールとN1思考が変える、ディスカバリーの意思決定
こんにちは、株式会社ラクスでプロダクト部 部長をしている稲垣です。
この記事は、pmconfの動画や資料をもとに、学びのポイント・自分の環境との共通点や違い・どう活かせるかを自分なりに整理するシリーズの第五弾です。
はじめに
第五弾は、
「4%ルールとN1思考──不確実性に対抗するディスカバリー検証」
登壇者:
・角田 夕季さん(LINEヤフー株式会社 リユースLaboディビジョン プロダクトマネージャー)
・松尾 怜さん(LINEヤフー株式会社 リユースLaboディビジョン プロダクトマネージャー)
このセッションを通して、私が特に印象に残ったのは次のメッセージです。
「失敗する本当の理由は、不確実性の高さそのものではなく、判断軸がないまま意思決定してしまうこと」
0→1のプロダクトディスカバリーでは、誰もが不確実性に悩みます。ラクスでも同じです。アイデアがいくつかあり、検証もして、数字やユーザーの声も集まっている。それでも最後の判断で迷う。そうした場面は少なくありません。発表では、その迷いを構造的に減らすための2つの考え方として、4%ルールとN1思考が紹介されていました。どちらもシンプルですが、意思決定の軸として非常に本質的だと感じました。
4%ルール──「当たりを探す」ではなく「外れを削る」ための基準
4%ルールとは、コンセプトテストにおいて、最高評価(10点)をつけた熱狂者が全体の4%以上いるかどうかを判断軸にする考え方です。
発表の中では、印象的な具体例が紹介されていました。
平均点が4.5点のアイデアに対して、満点をつけた人が5.8%いた、というケースです。平均点だけを見ると、そこまで良い結果には見えないかもしれません。ですが発表では、このアイデアを「GO」と判断していました。
理由は、少数でも強く刺さっている人がいる状態こそが、アイデアの“目”があるサインだからという考え方です。
4%という数字の背景についても説明がありました。イノベーター理論では、市場全体の20%に届けば成功の可能性があるとされ、その中でも特にエネルギーの高い先行層はさらにその20%、つまり市場全体の約4%に相当する。そうした人たちが強く共感しているかどうかを、ひとつの判断材料にするという考え方です。
そして、私が特に印象に残ったのは、このルールの使い方でした。
4%ルールは、当たるアイデアを見つけるためというより、当たらないアイデアを早く削るために使う。ディスカバリーの初期は、アイデアが増えやすい一方で、すべてを丁寧に検証するだけのリソースはありません。だからこそ、熱狂者が4%を下回るアイデアは早い段階で見極め、可能性のあるものに集中する。そのための基準として使う、という整理です。
発表では、この基準を導入することで、アイデアを全体の約10%まで絞り込めたという話もありました。意思決定の精度だけでなく、開発リソースの配分という観点でも、とても実践的な考え方だと思います。
また補足として、満点割合が高すぎるアイデアは、既存サービスの延長線上にあるものや、実現困難なものが多い傾向があるという経験則も紹介されていました。単に「高ければ高いほどよい」ではなく、上限の見方も含めて運用している点に、現場知の厚みを感じました。
N1思考──「あの人を本当に喜ばせる」という軸でチームを束ねる
4%ルールでアイデアの“目”を見つけたら、次はN1思考でそれを育てていくフェーズに入ります。
N1思考の核心は、架空のペルソナではなく、実在する1人を徹底的に理解することです。架空のペルソナは、複数の特徴を組み合わせて作られることが多いため、どうしても矛盾を含みやすくなります。その結果、チーム内で「この人は本当にこう行動するのか」という認識がぶれやすくなることがあります。一方、実在する1人であれば、背景・行動・感情がひとつながりで理解できます。
「あの人ならどう考えるか」「この機能を本当に喜ぶだろうか」と問い直せるため、議論の軸がぶれにくくなる。発表では、そうした実在性がN1思考の強みとして語られていました。このN1思考では、大きく2つのステップが示されていました。
前半:本当に解決すべき課題かを見極める
ここでは、本気で困っている人が実在するかを見ます。
発表の中で特に印象に残った判断基準が、「行動が伴っているかどうか」でした。人は、本当に困っている課題に対しては、時間や手間といったコストを払ってでも解決しようとします。逆に言えば、口では困っていると言っていても、何の行動も起きていないなら、切実さはそこまで高くないかもしれません。紹介されていた例もわかりやすいものでした。
架空ペルソナ版:30代女性、子育て中、出品が負担
実在N1版:33歳、出産後1年、写真撮影・文章作成・商品調査まですべてが負担で、今は出品自体が完全に止まっている
どちらも一見すると「フリマが大変」という同じ課題に見えます。ですが、実在する1人として捉えると、課題の切実さや文脈の解像度がまったく変わってきます。
後半:N1が「絶対に欲しい」と切望するものを設計する
次のステップでは、プロトタイプを作り、触ってもらいながら改善を重ねていきます。そのときの判断基準は明快です。
「絶対に欲しい。早くリリースしてほしい」と切望する1人が本当に存在するかどうか。
もし、そこまで強く求める1人がいないのであれば、まだ課題を十分に解けていない可能性がある。その場合は、改善を続けるか、あるいは撤退も含めて判断する。発表では、そうした厳しさも含めてN1思考の実践として語られていました。「1人が絶対に使いたいと思うところまで磨き込めないと、結果的にみんなにとって中途半端なものになってしまう」という趣旨の話もありましたが、これはとても実感のこもった言葉だと感じました。
このフレームワークの強さと、残る問い
この発表の強さは、曖昧な感覚を、数字と基準に変換していることだと思います。
「なんとなく刺さっていそう」ではなく、4%を超えているか
「ありそうなペルソナ」ではなく、実在する1人として矛盾なく語れるか
こうして主観を構造化することで、チームの意思決定をそろえやすくなる。そこに、このフレームワークの実践的な価値があると感じました。
一方で、発表者のお二人は、このプロセスがまだ完成形ではないことも率直に話されていました。特に、検証段階で見えた反応と、リリース後の実際の行動とのギャップをどう埋めるかは、今後の課題として言及されていました。この姿勢もとても印象的でした。再現性のある方法論として提示しながら、「これで完璧」とは言わない。その誠実さが、むしろ発表全体への信頼感を高めていたように思います。
ラクスへの示唆
この発表を受けて、私がラクスのプロダクト部として持ち帰りたいと思った問いは、次のようなものです。
私たちが今作ろうとしているAI機能や新機能に、4%の熱狂者は本当にいるのか。私たちは平均点で判断していないか。
AI機能の企画初期は、特に「あったら便利そう」と「絶対に使いたい」の境界が曖昧になりやすいと感じています。だからこそ、全方位に広く使えそうな機能を目指すよりも、まずは特定の業種や役割の人に深く刺さるものを見極めることが重要なのかもしれません。
これは、プロダクトチームの判断を楽にするためだけではなく、顧客にとって本当に価値のある機能に開発投資を集中するための視点でもあります。
N1思考についても同じです。
プロダクトに対する解像度を高めていく上で、私たちは実在する1人から出発できているだろうか。顧客インタビューは実施していても、その声を都合よく平均化し、架空のペルソナに圧縮してしまっていないか。
「あの人」として顔が見える状態まで理解を深められているかは、改めて問い直したいポイントだと感じました。
また、4%ルールの「外れを早く削る」という使い方も、限られたリソースの中でスピードを出すうえで重要な示唆があります。全部を丁寧にやろうとして中途半端になるよりも、早く絞って深く向き合う。そのための判断軸として、とても示唆の多いセッションでした。

まとめ
4%ルールとN1思考は、どちらも「少数に徹底的に向き合う」ことを軸にした方法論です。全員に「まあまあ使える」ものより、4%に「絶対欲しい」と思ってもらえるもの。大多数のなんとなくの共感より、1人の切実な欲求。そんな逆説的なアプローチの先に、本当のイノベーションの種があるのかもしれません。今回のセッションは、そのことを具体的かつ再現性のある形で示してくれた発表だったと感じました。
以上、シリーズ5本目でした。記事を読んでラクスに興味を持ってくださった方は、以下もぜひご覧ください。