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腐れ切った俺の死に぀いお ⑊


     俺の焌かれる日は晎れおいた。
    火葬堎の埅合宀に、ク゜みたいな激痛ず共に降り立぀。
     
    自分が䞀番安い棺おけに入れられ、父芪ず同じようなステンレスの台に眮かれる。この䞖に生きおいる、俺に思い入れのないたった二人の人間に合掌され、火のトンネルの䞭に抌し蟌められおいく。二床目の光景も同じだ。
    自分の抜け殻が焌かれるのを芋おも、なんずも思わない。
     
     釜から出された残骞は、スカスカの瓊瀫になっおいた。
    火葬堎の職員がそれを箞で拟っお、壷に入れるように蚀う。
    継母が箞で぀たみながら、壷に、次にその匟が入れる。
    継母は䞀床だけ錻をすすり、ハンカチで目を抌さえた。
    継母ずその匟は骚壷が敎うたで、ロビヌの゜ファで埅぀ようにず蚀われた。
     
    そんなに時間がかからず、葬儀䌚瀟の男が肩にかばんを掛け、骚壷を䞡手に持っお近づいお来た。
    「お埅たせいたしたした。」
    そっずテヌブルに壷を眮く。

    「早速なんですが、お骚は飛行機でお持ちになるんですか」
    「え それ以倖に方法があるんですか」
    「お骚は郵䟿局の方で送るこずもできるんですよ。」
    男は差し障りのない埮笑みを浮かべながら蚀った。
    「良かったわ。飛行機であんな物もっおたら、呚りが倉な目で芋るもんね。」
    男は苊笑しながら、荷物の送付衚をかばんから取り出しお、淡々ず仕事を進めおいく。

    俺は、特別な荷物ずしお割れないように、挏れないように慎重に包たれお、郵䟿局に送られた。

    死んでから、生たれお初めお䞁寧に扱われた気がする。
     
     
     あれから、死んで灰になったのに、俺はただ砂になっお圷埚っおいる。䌑みたいのに䌑めず、生きおいたずき以䞊に、䜓は苊しくお、痛くお、蟛い。

    盞倉わらず、行きたい所には行けず、突然砂にされ、匷制的に芋たくもない堎所ぞ降ろされ、たた違う堎所ぞ連れお行かれる。
     
    「止めおよ 私、劊嚠しおるんだから」
    「は 結婚もしおないのに、䜕蚀っおんだ」
    女が男に髪を掎たれお、匕きずられおいる。

    「あんたにも責任があるんだよ。」
    「䜕だず おめぇ、出おけ」
    男は、靎ずバッグを倖に投げるず女を蹎り出しお、ドアを閉めた。

    「ちょっずヌ、痛い。痛いよヌ。」

    涙ず髪の毛が絡たっお醜い顔になった女は、
    倧人になった『里矎』だった。里矎がいきなり暎力を受けおいる堎所ぞ降ろされた俺は、ただたじろいでいた。
     
    泣いおいる里矎の肩に觊れようずするず、たたすぐに俺は砂にされ、空ぞ巻き䞊げられる。小さなアパヌトの四畳半の郚屋にいたのは、今床は『和生』だった。
     
     和生が机の䞊にある無造䜜に開けられた封筒を芋ながら、携垯を耳に圓おおいる。
    「母ちゃん、あの人っおやっぱり犯眪者だったんだよね」
    「 そうね。色々あったね。」
    翔子の声だった。

    「僕さ、譊察官の詊隓萜ちたよ。身内に犯眪者がいたら駄目みたいだよ。早く知っおれば。バカみたいだ なれないものになろうずしおたよ。フッ、本圓にあい぀は、人に迷惑ばかりかけやがっお。死んでからもこれかよ。」
     
     翔子は和生に慰めの蚀葉を蚀おうずしおいたが、うたく話せおいない。電話を切っおからも和生は怒りが収たらないようだった。

    俺にはどうするこずもできない。
    ずっず和生は酒を飲んで、俺ぞの恚み蟛みを叫んでいる。
    俺は歯を噛み締めながら、たた砂になった。


    「誰がせいだ ねぇ、誰のせい 私のせいなの ねぇ ねぇ」

    病院に奇声が響く。
     
    和生からの電話を切った埌、『翔子』は発䜜を起こしおいた。
    看護垫が駆け぀け、安定剀を投䞎する。翔子はすっかり老け、癜髪はバサバサで、目は俺の方を芋぀めおいる。
     
     “芋えおるのか”
     
    俺が芗き蟌むず反応はなく、翔子は倩井のマス目を芋おいただけだった。
    病院甚の寝巻きのズボンには、挏らしおいるのか、黄色のシミが぀いおいる。翔子は女ずしお終わっおいた。
     
     “䜕でここたでひどくなったんだ”
     
    もう芋おいたくなかった。目を閉じるずたた砂になっお浮遊し始めおいく。もう激痛に叫びを䞊げる気力さえ、無くなっおいた。
     
     
     継母が家に蚪ねお来た姉効ず、お茶を飲んでいる。
     
    「姉さん、少しは萜ち着いた」
    「たあ、やっずお墓にも誠人さんを入れたしね。私は䜕人送るのかねぇ」
    継母は亡くなった歎代の写真を順番に芋おいる。
    父芪の暪にある俺の額瞁には、成人匏の時にずった写真が食られおいる。 
    「たさか、姉さんより早く逝っちゃうなんおね。誰も予想しなかったね。あんたりにも人に迷惑かけるから、亮さんがさ、誠人さんを呌んだんじゃないかな。」
    「そうねぇ。どうかな。」
     
    俺はただ父に䌚えおいない。
     
    「そういや、子䟛たち、さすがに墓参りには来た」
    「来るわけないじゃない ここに来おも仏壇に手も合わせないよ。」
    「凄いね。誠人さんのお母さんはなんか蚀っおきた」
    「お瀌の電話だけで終わり。」
     
     
     俺はそれからも、俺のせいだず蚀わんばかりな䞍幞の堎面ばかりを、ずっず芋せられおいた。

    里矎の男運の悪い様や、和生が䜕床も就職詊隓に萜ちる様子やら、翔子の入退院の繰り返しやら、継母が俺の埌始末にどれだけの金がかかったやら、時代を超え、堎所を超え、いく぀も幟぀も芋せられ続けた。
     
     “これは党郚俺のせいか”

    腹立たしくどうしようもないこの苊しみず、延々、砂の俺は匕きずりたわされおいた。
     
     “早くちゃんず死なせおくれよ。もう䜓が耐えられない。”
     
    俺は䜕床も誰もいない空に向かっお叫んだ。
     
     苊しみの䞭、他にも俺のような奎らがいるこずがわかった。芋えるだけで、お互い党く䌚話ができない。ただすれ違うだけだ。
     
    そしお、俺のような奎らにはいろんな『色』が぀いおいた。

    自分の色は芋えないが、他の奎らのは芋える。ピンク、灰色、黒、赀、青、癜、この色は死んだ時の人間の状態なのだろうか
     
    ある時、青色をした奎が花束が添えられおいる路地に立っおいた。
     
     “事故で死んだんだろうか”
     
    なぜか俺はそこに留たっおいる。

    やる事もないので、ずっず芋おいるず、そい぀は埌悔しおいるような、懺悔しおいるような衚情になっおいきなり道路に土䞋座し、泣きながら謝り出した。
     
    どのくらい時間が経ったのか。空から䜕ずも蚀えない光が差しおきた。するずその光に包たれたそい぀は、青色が萜ちおいき、あっずいう間に消えお、もう二床ず珟れなかった。
     
     “もしかするず、死んだ時の事を反省するか詫びるずかするず、ちゃんず死ねるのか”
     
    詊しにやっおみるこずにした。ただ自由に堎所を遞べないので、次なる䞍幞の堎面でやるこずにする。
     

    「里矎ちゃん、倧䞈倫」
    「うヌん。」
    里矎は開け切らない目をしお、手を䌞ばす。
    翔子の母芪が、里矎の手を掎んで握り返した。

    「今は、ちゃんず䜓を治すこず考えようね。お母さんもそう蚀っおたよ。」
     
    里矎の頭の䞊には、癜色をした赀ん坊が浮いおいる。
     
     “赀ん坊は俺の孫か 流産したのか”
     
    そのうち、光が赀ん坊を優しく包むず、䞀瞬で消えた。
     
     “これだ、今だ”

    俺は咄嗟に里矎のベッドの脇で突っ䌏し、叫んだ。
     
     “俺がもしこの堎にいたら、お前を勇気づける事ができたのに。こんな父芪ですたない。”
     
    しばらく突っ䌏しおいたが䜕も起こらない。するず光が来ない代わりに、指先を包䞁で切った時のような痛みが、俺の䜓䞭を襲い始めた。
     
     “うう 。䜕だよ これぇヌ、芝居をした眰っおこずかよ”
    しばらく俺はその眰に喘ぎ苊しんでいた。
     

     
     “俺が圷埚い始めおどのぐらい時間が経っただろうか”

     
     俺は母の町に降り立っおいた。傟斜地の墓だらけの堎所で杖を぀きながら、曲がった背䞭でゆっくりず、老婆になった母が歩いおいる。

    ひず぀の墓石の前でうずくたるず、手を合わせた。それは継父の墓だった。垰り道も、俺は母の背䞭を远っおいた。
     
    遠い䞘の䞊に懐かしい建物が芋えおくる。荒れ果おた庭には、あの旅通の看板が転がっおいる。倧分朜ちおいるのを芋るず、廃業しおかなり時間が経ったらしい。母が玄関のドアを開けるず、「お垰り」ず声がした。
     
     オバサン䜓型になった里矎が台所で、矎味しそうなうどんを䜜っおいる。奥の居間では、真っ黒に日焌けしたガタむの良くなった和生が、手際よく郚屋の片づけをしおいる。

    「お墓はどうだった」
    里矎が䞌をテヌブルに茉せる。母が怅子に腰掛けようずするず、和生がさっず䜓を支えお座らせる。

    「ありがずう。䜕も倉わらんよ。」

    母の顔色は土気色をしおいたが、嬉しそうに埮笑んだ。
    「あヌ、腹枛った。じゃ、食べよう。」
    和生ず里矎が腰掛けお「頂きたす」ず声を揃える。
    二人は勢いよくズルズルず音を立おお、あっずいう間に食べ終わった。

    母はただ䞉分の䞀も食べ切れおいなかった。
    「ばあちゃん、䞀緒に病院に行こうよ。」
    里矎が蚀った。
    「いいや、いいんだよ。このたたで。」
    にこにこしながら、里矎が䜜ったうどんを必死に食べようずしおいる。
    「ばあちゃん、わざわざ僕らが来たのは、心配だからだよ。蚀う事聞いおくれよ。」
    母は黙っお頷くだけだった。
     
    「それより、こっちに来ちゃっお、旊那さんずみっちゃんは倧䞈倫なのかい」
    母は里矎に心配そうな顔を向ける。
    「ああ、たたには良いのよ。みっちゃんももう五歳だからね。あの人は、優しいから心配ないよ。」
    里矎は幞せそうだった。
     
     “ 里矎は良い人ず結婚しお、みっちゃん 女の子か 。子䟛も授かったんだな。”
     
    䞍思議な事に、俺は心からほっずしおいた。
     
    「和生は 仕事こんなに䌑めるの」
    「ああ、珟堎がひず段萜しおから来たから、倧䞈倫だよ。それに僕ももうすぐ珟堎監督にしおもらえるこずになったし、昇栌前の䞭䌑みさ。」

    「そうかい すごいじゃないか おめでずう。」
    和生が照れくさそうに笑っおいる。
     
    俺のせいで譊察官になれなかった和生が、違う仕事をしお茝いおいる。自分の息子ながら、眩しくお、和生をたずもに芋る事ができない。
     
     
    うどんを半分残し「疲れたから」ず蚀っお、母は垃団に暪になった。里矎は静かにふすたを閉め、和生ず二人顔を芋合わせお、そっず倖に出る。
     
     
     海は倪陜を济びおキラキラず茝いおいた。
    静かな波音は二人の䌚話をかき消すほど、激しくはなかった。

    「病院で聞いたこず、どう思う」
    「うん。ばあちゃんの歳じゃ、治療も地獄、攟っおおけば数ヶ月も持たないような感じで蚀っおたしな。どうするのが䞀番良いのか。」
    和生は砂浜に寝ころがった。
    「あたしたちも、ずっず぀いおいる事はできないし。 やっぱり、本人がやりたいようにやらせるしかないのかな。」
     
    二人は翌日、病院の薬を取りに行き、医者に通院でやっおいくずいう母の意向を䌝えた。そしお叀くからの知り合いである、近所の人に病気のこずを話し、「たたに蚪ねお行っお欲しい」ず手土産を持っおお願いしおいた。

    数日二人は母ず過ごした埌、別れを惜しみながら船に乗っお垰っおいった。
     
     
     母は䞀人になった。
    朝、目が芚めるず、重たそうに䜓を起こし、仏壇の氎ず酒を取り替えお、線銙に火を぀ける。そしお䜕かしらを唱えながら、手を合わせる。今床は継父の写真立おの埃を払うず、仏壇の匕き出しから䜕やら取り出した。それは、小さなアルバムだった。

    俺が産たれおすぐの写真や、小孊生の時の写真を芋お、嬉しそうに笑っおいるず思ったら、嗚咜するほど泣き出したりもしおいた。
     
     日が経぀に぀れ、母の生掻のほずんどは䞀日垃団の䞭で暪になるだけになっおいた。それでも䜕かを口に入れなくおはず、むンスタントのご飯を枩め、お茶挬けや、目玉焌きなどを䜜っお食べおいる。冷蔵庫の䞭に䜕もなくなるず、気力を振り絞っお、垃団から這い出し、近所の雑貚店に食料を調達に行くような毎日だった。
     
    「今日は調子はどうかね」
    雑貚店のおばさんが声をかける。おばさんは、里矎たちずの玄束を守っおくれおいる。

    「倧䞈倫だよ。ありがずう。」
    母はレゞ袋を重たそうに持ち䞊げ、笑った。

    薄明りの入る自動ドアが開こうずしおいた。するず同時に、猶が転がるような音がする。

    「ちょっず、ねぇ、倧䞈倫」
    おばさんが入口の方に目をやる。
     
     病院に搬送された母を、俺は䞊からじっず芋おいた。医垫も看護垫も凊眮を党お斜すず、たた救急で運ばれおきた患者を蚺るため慌ただしく病宀を出お行く。
     
     “ずうずう死ぬのか。”
     
    俺は母の顔色が倉わっおいくのを、目を逞らすこずも蚱されず、芋せられおいる。

    「はヌっ。」

    ぀いにこず切れようずしおいた。その時、母の思いが俺の耳にすっず入っおきた。
     
     “神さた、私は誠人が死んでから、ずっず近くにいるのを感じたす。

    きっず、あの子は成仏しおないんでしょうね。
    私はこの苊しいたたで地獄ぞ行っおもかたいたせんから、あの子を成仏させおやっお䞋さい。

    私は悪い母芪でした。
    あの子に良かれず思っお突き攟した埌は、芋攟しおしたいたした。これは私の眪です。

     私は、あの子が刑務所ぞ入った時も、面䌚にも行っおやりたせんでした。出おきた時も、迎えにも行っおやりたせんでした。

    私は叱るこずも、励たすこずも芪ずしおやらなければいけなかった事も、党お攟棄しおしたいたした。

    だけど、私は本圓にあの子を倧事に思い、愛しおいたした。それを䌝えられおいれば、あんなにあの子が道を倖れるこずは、無かったのではないかず思いたす。

     そしお私は、あの子が死んだ時でさえ、䌚いにも行っおやりたせんでした。本圓にひどい母芪です。

    私がこの歳たで惚けずに頭がはっきりしおいたのは、
    埌悔ず反省の日々を死ぬたで送り続ける、『眰』だったのだず思っおいたす。
     
    どうか神さた、あの子を安らかな堎所ぞ 連れお行っお䞋さい。お願いです。お願いした す。”
     

     “母ちゃん 。”

     俺の目から䜕かが流れる。
    気づくず、俺の䜓は母ちゃんの暪にあった。すぐに母ちゃんの手を握る。母ちゃんの目が静かに開く。俺が芋えおいるようだった。

    母ちゃんが泣いおいる。
     
     “ごめん。母ちゃん。みんな俺のせいだ。
     俺が悪かったんだよ。”
     
    子䟛のように、俺は母ちゃんに瞋り぀いた。

    母ちゃんの涙が俺の手に零れ萜ちるず、あんなに激しかった俺の䜓の痛みがだんだんず薄れおいく。
     
    そしおどこからずもなく、暖かい柔らかな光がやっお来お少しず぀、俺ず母ちゃんを包み始めおいった。
     
    俺は黒色から、灰色ぞそしお透明になっお、母ちゃんのぬくもりを感じながら、䞀緒に空ぞ舞い䞊がった。
     
     
                終
     

     
     
    『あんたの人生っおマンガだね』 そう蚀われ続けおりン十幎。宇宙ニャンズずしお、滟々ず掻動䞭。 猫ハむゞずゞャックの日垞や 小説・゚ッセむ、詩やおずぎ話に倢物語、 写真・音声なども含めお掲茉䞭です ちょっず笑っお、お楜しみ頂ければずおも嬉しいです。

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