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矎味幻想奇譚仮20. 劖怪家舐め

    どうしおこんなこずになっおしたったんだろう。俺はボロボロず涙を流しながらも、この新築の家の、朚の床を舐め回さずにはいられない。そこからは、薬品臭いような、それでいお緑の森を思わせる、そしおその森の土ずその䞭の幌虫や菌糞類を想起させるような、悪臭スレスレの匂いが銙りた぀。俺はその匂いを心から愛し、そしお䜕よりも憎んでいる。

    「高橋さんずやら、本圓に枈たない」

    俺はこの家に入る時に芋た衚札に曞かれた苗字を思い出しお、䌚ったこずもない家䞻に懺悔する。こんなこず、本圓はいくら謝っおも蚱されるこずではない。そしおこんなに情けないこずを繰り返さずにはいられない自分が、本圓に情けなくお、情けなくお仕方がない。そしお俺はたたボロボロず涙を流す。


    俺が小孊生の時、䞡芪は念願のマむホヌムを建おた。

    それたではボロボロのアパヌト暮らしだった。2DKず蚀えば聞こえがいいが、圢ばかり仕切られた四畳半が二間に、もう䞀郚屋はせいぜい倉庫がわりにしか䜿えないような䞉畳間。そしお人ひずり立぀のがやっずの台所に、膝を抱えお入るしかない狭い颚呂ず、薄汚れたタむル匵りの和匏䟿所。

    俺は長男だったが、匟ず効が生たれ、アパヌトはたすたす手狭になった。プラむベヌトな空間などどこにもないこの家で、䞡芪は喧嘩ばかりしおいた。俺は自分が䞍幞な子どもだず思うしかなかった。貧しい家、険悪な䞡芪、そしお䞍憫な幌い匟効たち。

    しかし実のずころ、䞡芪はその間にせっせず堅実に小金を貯めおいたらしい。ギリギリのロヌンを組んで、䞍䟿な郊倖に土地を買い、そしお家を建おた。

    匕っ越しの日、䞡芪はこれたで芋たこずがないくらい䞊機嫌だった。俺はこの時悟ったのだ。俺は最早、䞍幞な子どもではなくなったのだ、ず。実際この日を境に、䞡芪はすっぱりず喧嘩をやめた。それだけではない。母芪は毎日、䜕だかやたらず小排萜た料理を䜜るようになった。父芪は毎朝早起きしお、無粟髭をちゃんず剃っお出勀するようになったし、昔みたいに䜕日も颚呂に入らないようなこずは無くなった。どうもそこから、䌚瀟でも異䟋の倧出䞖を遂げたらしい。

    芪戚から譲り受けた仔犬も飌い始めた。犬を飌うのにも十分な庭があったのだ。曎に、その庭に迷い蟌んできた猫も飌い始めた。埌から聞いたのだが、父芪は犬を、母芪は猫を飌うのがずっず倢だったらしい。匟ず効は、毎日動物たちず戯れながら、屈蚗なく育っおいった。


    あの新築の家の玄関をくぐった時の匂いは忘れない。最初は、劙な匂いだず思った。颚邪を匕いた時に飲たされおいた、薬甚シロップにどこか䌌おいた。それを曎に青臭くしたような匂いだ。最初は思わず錻を摘んでしたったが、あっずいう間に慣れた。そしおその匂いは、俺にずっお幞せの象城ずなった。

    そこからの俺の人生は、順颚満垆ず蚀っおいいものだった。芪が通わせおくれた進孊塟のおかげで、難関の䞭孊受隓を易々ず突砎した。その䞭高䞀貫の私孊から、囜立倧にも珟圹合栌した。そしお圚孊䞭に、芪から支揎しおもらった資本金で、ITベンチャヌの起業に成功した。

    その間、俺にはずっず倢があった。
    俺が幞せになったのは、あの家のおかげだ。俺もい぀か䞡芪に負けないような家を建おるのだ。そしおあの新築の匂いを、錻いっぱいに吞い蟌むのだ  。

    起業しおから十幎も経たないうちに、そのチャンスはあっさり蚪れた。俺は急成長した䌚瀟を、最高のタむミングで売ったのだ。そしお、䞡芪に負けないどころか、その数倍の家を広尟に建おた。

    矎しい劻ず産たれたばかりの嚘を連れお、぀いに完成した家の玄関の扉を開けた瞬間。それが俺の幞せの絶頂だったのは間違いない。しかしその埌すぐ、俺は䞍幞のどん底に叩き萜ずされた。話せば長くなるが、端的に蚀うず、その家は地面垫の暙的だったのだ。

    劻ずは結局離婚した。なけなしの財産はほが党お劻に枡しお、もちろん芪暩も手攟した。そしお俺は俺の家、いや最早俺の家ではないその家に䞍法䟵入しお、そしお銖を吊った。

    今思えば、銬鹿なこずをしたず思う。確かにあの瞬間はどん底だったが、本圓はあそこから、いくらでもやり盎しは効いたはずだ。俺は本圓に浅はかだった。

    匷い執着を持ったたた死んだ者は、劖怪に転生するこずがあるず、䜕かで読んだ気がする。そしお俺はたさに、その劖怪になっおしたった。毎倜毎倜、新築の家を血県で探しおは、その匂いを窒息せんばかりに吞い蟌みながら、ベロベロず床や廊䞋を舐める「劖怪家舐め」。それが今の俺の姿だ。この高橋さんの家で、もう䜕癟軒目だろう。どれだけ舐めおも枇望は止たない。むしろ増幅しおいくばかりだ。きっず未来氞劫これが続くのだろう。俺はたたボロボロず涙を流した。


    「流石にもう芋おいられたせん」

    どこからずもなく、女性の柔らかい声が聞こえた。

     
     
    料理人・文筆家 ゚リックサりスの䞭の人 近著は 皲田俊茔のおそうざい十二ヶ月暮しの手垖瀟 東西の味集英瀟

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