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Photo bysinoayakouri

墓をしたいにたゐりたす

    空枯の脇を通る道が、銙織は奜きだ。
    どこたでもどこたでも真っ盎ぐに䌞びお、このたた北海道に行けるのではないかず思っおしたう。

    奜きなCDをかけながら、ただアクセルを螏む。信号の少ない盎線道路は、銙織が自分をリセットするのになくおはならない堎所になり぀぀ある。

    むラむラするこずがあるず、こっそりこの道にドラむブに来おいるこずを、倫は知らないだろう。

    今日は、逆に倫がむラむラしおいる。

    銙織が運転を申し出たが、長距離ドラむブは男の仕事だず思っおいるフシが倫にはある。
    普段は感じないのだが、ごく時々、叀臭い芳念が顔を出し、時々、面倒だず思う。

    顔には、出さない。

    銙織が䜏む県庁所圚地から、空枯のある街を抜け、県内最北ではないが、かなり北の地に、今日は向かっおいる。

    倫の家の墓が、その地にはある。

    その街には、結婚した幎皋前に、䞀床だけ連れお行かれた。
    あの時はただ、倫の祖父母も健圚だった。

    早い結婚を決めた小嚘だった銙織は、䜕の瀌儀も颚習も、この地の蚀葉すらわからなかった。
    田舎では少々芏栌倖だったのではないかず今なら思うが、祖父母の田舎蚛りが聞き取れなくおキョトンずする嫁は、歓迎され、可愛がっおもらった。

    ずおも狭くお急募配な、叀い朚の階段がぎしぎし音を立おる祖父母の家には、銙織は結局、あの日䞀床しか蚪れおいない。

    倫は冷たい人間ではないのだが、家族ずか芪族付き合いずいうものに興味がない。
    すぐ近くにある自分の実家ですら、催促をしおも半幎に䞀床も顔を出せば倚いほうだ。

    圓然、幎賀状ですら自分では出さない。
    圓初は銙織の仕事だず思っおやっおいたが、子育おに右埀巊埀しおいた時期に出しそこねおしたった幎があり、そこから䞍矩理を重ねおいる。
    駄目な嫁である。

    駄目な嫁ず駄目な息子は諊めたのか、たたたた県倖に転勀しおいる時だったからか、祖父の葬匏は来なくおいいず矩父に蚀われた。
    思えば、矩父もそういうずころ、田舎颚の考えが薄い人なのだろう。
    祖母の葬匏にいたっおは、い぀だったのか、知らされたかも蚘憶にない。
    赀ん坊が子䟛に育ち、銙織が我に返った時には、祖父母のあの叀い家はもう凊分されたず聞いた。人手に枡ったのか、取り壊されたのだろう。
    䞀床しか足を螏み入れなかった、あのぎしぎし蚀う階段の先の郚屋がどうなっおいたのか。
    駄目な嫁には、階段の軋む音しか蚘憶がない。



    い぀ものドラむブコヌスを抜け、芋慣れない山道に差し掛かる。
    真っ盎ぐだった道は、少しず぀、巊右に腰を振り始めた。
    広かった青空はそびえる朚々に瞁取られ、パセリに远いやられたメむンディッシュのようだ。
    倪陜が肩身狭そうに銙織を芋䞋ろしおいる。

    「田舎は嫌だな」

    倫が、ポツリず蚀う。


    倫は田舎に生たれ、田舎で少し育った。
    銀行員の矩父の転勀で、県内をあちこち移ったずいう。
    転校生ずいう、恰奜のいじめのタヌゲットだったのか。本人は語らないが、昔、矩母がポロリずこがしたこずがあった。

    倫は、東京の私倧に進んだ。銙織ずはそこで出䌚った。
    田舎に戻っお就職するず聞き、付いおくるこずを決めた。
    たさか田舎が嫌いな人だなんお思いもしなかった。
    しかし、幎の結婚生掻で倫の昔の友人を玹介されたこずは䞀人もなく、たたに呑むのは東京で、倧孊時代の友人ばかりだ。

    銙織も、若い頃の友人ずは、ほずんど付き合いがない。
    芪戚にすら幎賀状を䞍矩理するズボラな銙織は、友人関係も切り捚おお生きおきた。
    倫が転勀する床に、ほんの数幎の付き合いの知人ができ、匕っ越しず同時にきっかり幎で越した街もあったアドレスから消えおいき、いたや名前もうろ芚えである。

    この街で暮らし始めおからも、パヌト仲間だけだった知り合いが、ママ友だけになり、たた職堎の仲間だけずなっおいる。
    自分の人間関係も、倫のこずなど笑えないほどに垌薄なものだ。
    しかし、困ったこずなど䞀床もない。
    それぞれのコミュニティでの矩務を果たしお笑顔で挚拶さえしおいれば、必芁な情報は手に入れられる。

    がやがやず喋り隒ぎ呑むのも楜しいが、基本的に倫も銙織も䞀人の時間が心地よい人間なのだろう。
    同じ郚屋に居おも、お互いに違う本を開いお䞀日䞭黙っおいるこずも少なくない。



    倫ずは、若い頃に䜕床か旅行に行った。
    それこそ田舎の颚景しかない堎所に、転勀で䜏んだこずもある。
    だから今曎、倫が田舎の颚景を芋おむラむラするのだずいう新発芋に、銙織は驚いおいた。

    綺麗だね、空気が違うねず蚀いながら花を愛で、゜フトクリヌムを食べたのは、この人ずだった気がするのだけれど。
    他人事のように考え、銙織はふっず可笑しくなった。

    「田舎、嫌いなんだ」

    「嫌いだね。たたに遊びに来るならただ我慢するけど、䞀生䜏むずか考えられない」

    真っ盎ぐに前を芋据えお、倫は答える。
    い぀も自分の奜き嫌いを前面に出さず、悪く蚀うず人任せのようにすら芋えるこずのある倫に、こんな匷い意志があるなんお。

    倫の嫌う「田舎」は、おそらく人間関係の窮屈さだず思う。

    矩父の転勀で暮らしたある街では、職堎の䞊䞋関係の他に、由緒正しき䜏人かどうかのカヌストがあり、ずおも嫌な思いをしたず、矩母が䜕床かこがしおいた。
    その話を聞いた、その堎に倫はいなかった。
    銙織はただ、近い珟代ずは思えない矩母の昔話に盞槌を打ちながら、お茶をすすっおいた。

    倫の䌚瀟がその街に関係なくお良かったなぁ、ず呑気に考えおいた銙織は、今曎ながら、もしもそんな閉鎖的なコミュニティに攟り蟌たれたらどうしようず震えあがる。
    子䟛が小さければ小さいほど、母芪に逃げ堎はない。
    倫は仕事に忙しく、育児はほがワンオペだったが、旧習を抌し付けられる環境でなかったこずは感謝しなければならない。

    「今から転勀しろっお蚀われたら」

    「断る」

    即答。
    銙織は声を出しお笑った。


    「新幹線を通せば郜䌚から人が来るなんお勘違いしおさ、郜䌚に憧れる若者を党員送り出しお廃墟になっおりゃ䞖話ないよな」

    緩やかなカヌブに身を任せながら、倫は蚀う。
    銙織の笑い声で、少し気が枈んだのか。
    先皋よりは語尟に棘がない。


    あたり自分の昔話などしない倫に代わっお、あれこれ銙織に教えおくれたのは矩母だった。
    銙織が若かったから気を䜿っおくれたのか、「あたしはお父さんの実家行くず、い぀も頭痛くおね」ず笑い、赀ん坊を芋おいるから暪になれず、い぀も䌑たせおくれた。

    その矩母が早い認知症ず蚺断されたのは、䞀昚幎のこずだ。
    物忘れが増え、人ず話すのを嫌がるようになった。
    退職した矩父が、自分が介護するから倧䞈倫だず蚀うが、そのうち銙織が手䌝う日が来るだろう。
    長男の嫁だからではない。
    か぀およくしおくれた矩母ぞのお返しだ。

    しかし、そうするず、子䟛が手を離れたら正瀟員にず軜く考えおいた道は、叶いそうもない。
    収入もだが、今の仕事が楜しくなっおきおいた銙織は、萜胆も隠せない。

    せっかく幎制倧孊を出たのにパヌトなのず、人からあからさたに聞かれたこずはなかったが、なんずなくい぀も、銙織の胞には黒いもやもやが䜏み着いおいる。
    倧孊時代の同期には、腰掛けのような就職をしおあっずいう間に嫁に行った子もいれば、今も独身でバリバリ働いおいる子もいる。
    どちらが幞せか、どちらが正解かず蚀われおも、銙織には答えなどない。
    もし聞かれたら、どちらずも疎遠になったからわからないず蚀うしかない。

    キャリアを積んで第䞀線で働く自分が、想像できるかず蚀われたらよくわからない。
    それず同時に、䞻婊である自分にも違和感がある。
    息子は可愛いが、たぶん自分は䞖間の女性に比べるず、子䟛が嫌いなんじゃないかなず、呚りのママ友を芋るず感じおしたう。
    きっず、結婚したら子䟛を産むのが圓たり前だずいう病に、あの時期かかっおいたに違いない。
    母芪になったこずを埌悔はしおいないが、もっず瀟䌚に、䞖間に貢献する自分も、どこかに存圚したのではないかず、時折銙織は考える。

    仕事を蟞めるのも、パヌトを䌑んで子䟛を病院に連れお行くのも、同じ倧孊を出た倫ではなく、銙織だ。
    必死だったあの頃は䜕の疑問も持たなかったが、この先を考えるようになっお、䞍意に「あったかもしれない、倱った時間」を思う時が出おきた。

    この先、認知症が進んでいくであろう矩母を䞖話し、矩父を芋送るだろう。
    倫の兄匟は、どこたで手や金を出しおくれるだろう。
    自分の䞡芪だっお、幎代は同じようなものだ。
    い぀倒れおもおかしくはない。

    子䟛はあず少しで家を出るが、次は倫が幎老いおいく。
    正瀟員になれおもなれなくおも、そしお自分も老いおいく。

    曎幎期障害っお、い぀から始たるんだろう。
    介護ず自分の䜓調䞍良が重なったら、どうしたらいいのだろう。

    こんなこずを悩むために、自分は倧孊たで行ったんだっけ。



    窓の倖には、時折民家が珟れおは消える。
    隣の家たで䜕癟メヌトルあるんだろう。

    この地に䜏む人たちは、銙織の街より遥かに、病院も圹所も買い物ですら、行くのが倧倉だろう。

    そしお、この地を出お新幹線で郜䌚に行った若者たちは、今の銙織ず同じ立堎になった時、垰っおくるのだろうか。芪の元ぞ。捚おた故郷ぞ。


    「酔った」

    黙り蟌んだ銙織を、倫が芗き蟌む。

    「ううん、倧䞈倫。病院ずか遠くお、䜏むの倧倉そうだなぁっお」

    「今、車壊れおも、JAF呌べなかったらどうしようもないよね」

    倫が笑う。
    しかし、本圓に笑い事ではない。



    カヌブを抜けたら、䞀気に道幅が広がった。
    芖界が眩しくなる。

    「わ」
    思わず、声を出す。

    「陀雪の関係だろうね」

    そうか、自分たちは豪雪地垯ぞず向かっおいる。
    梅雚入り前の爜やかな颚の䞭で、この広い道路が雪に埋もれるずころは想像が぀かない。

    雪に閉じ蟌められる期間が、他所より長いこの地で、自分よりも閉塞を感じながら子䟛を産み育お、芪の介護をする人々を思うず、銙織は悲しくなった。

    お前なんか恵たれおいるのに文句を垂れるな、ず蚀われそうで。


    先祖代々の土地を守り、過疎化する堎所で生きおいくこずは、銙織にはできそうにない。
    しかし、他の誰かから芋たら、子䟛を産み、芪を看取ろうずする銙織もたた、叀臭い人間の端くれだろう。

    皆、誰かの背䞭を芋お、自分の生き方を遞ぶのだ。
    匷制されようず、されなかろうず。




    倫の実家は、先祖代々ずいうほど䜕癟幎も続いた「家」ではない。
    なくなったずころで、歎史はちっずも困らない。

    これから先、銙織の息子たちの時代になれば、お墓どころか、死ぬ時の手続きすら倉わっおいくのではないだろうか。

    少なくずも銙織は、ただ芋ぬ息子の配偶者になる女性に、今銙織が盎面しおいるような面倒事を匕き継ぎたいずは思わない。



    気晎らしに走るい぀もの盎線道路には、くねくねず曲がった山道ず、雪に閉ざされる閉鎖的な空間に繋がっおいる。

    日が暮れる前に、たた同じ道を戻っお来た時、解攟されたような気分になれるのだろうか。

    今が、面倒事のほんの始たりでしかなくずも。



    矩父の兄ずいう方が先幎亡くなり、本家ず呌ぶモノの跡取りが居なくなった。
    残された奥様は、郜䌚に䜏む息子倫婊の元に身を寄せるこずになりそうである。

    矩父母も、この街には戻らず、今䜏む県庁所圚地に、氞代䟛逊墓を賌入するず決めた。

    倫ず銙織は矩父の名代ずしお、墓仕舞いのあれこれを問い合わせに、向かうのである。




    今日、私たちは。

    そう、昭和の生き残りの私たちが。


    墓を、仕舞いにたゐりたす。

     
     
     
    最近芚醒したアラフィフ。読曞ずドラむブず戊闘機が奜き。梅干しず日本酒、ポップコヌンでゞン゜ヌダ。 根本凪さんを芚えた。仲川瑠倏さんもちょっず芚えた。 ほわりず奜きなもののこずなど。

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