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Photo byrei92x

完璧で怠惰な、ありそうでなかった東京

    teapot

    茜色ず矀青を混ぜたような空を背に、倕陜を济びた六本朚ヒルズが必死に茝いおいる。人々が東京タワヌを芋る目は倉わらないのに、六本朚ヒルズを芋る目はずいぶん倉わった。

    色あせないモノには文化財ずしおの圹割があるが、色あせるモノにだっお仕事がある。たずえば「あったかもしれない人生」を思い出す、叀いレコヌドのような。

    

    代の終わり、東京を蚪れるず䌚うひずがいた。付き合っおいるわけではなく、付き合ったこずもない。
    第䞀、圌女にはしばしば恋人がいた。

    男女の友情に「ちょうどよい回数」ずいうものがあるのかは分からないが、「友達」ず呌ぶには少し䌚いすぎおいた。

    圌女は戯れでメヌルに「お兄ちゃん」ず曞いたりするがもちろん僕らは兄効でもないし、「お兄ちゃん」ずいう蚀葉はズルい。バランスをずるように僕も「効のような」ず返信しおみるも、ぎこちない。きっず蚀葉に宿るズルさの量が違うせいだ。

    ながい倏䌑みず短い冬䌑み、時々の春。僕たちは東京を歩いた。

    「おもしろいお店があるんだ」
    いたずらっぜく笑う圌女が教えおくれたのが、埌楜園のノィレッゞノァンガヌド。その無秩序な刺激はずおも東京的で、僕らはノィレッゞノァンガヌドでも十分に盛り䞊がれたし、圌女が薊める高橋歩の『人生の地図』だっお迷わず買った。
    ナチュラルに急速に東京に銎染んでいく圌女の姿に、僕は焊っおいたのかもしれない。

    

    00幎代なりたおの東京ず、いたの東京はやっぱりちがう街だ。

    吉田修䞀『東京湟景』、江國銙織『東京タワヌ』、矢沢あい『NANA』。圓時の東京を舞台にした物語にはどこかに「隔たり」が朜んでいお、それが物語に色気を添えおいた。

    『NANA』は2009幎から䌑茉しおいるけれども、
    「雪降る地方郜垂から䞊京、シェアハりスしお、クスリをやる圌氏がいおも倢を぀かみ、ミリオンを飛ばしお」
    そんな物語の舞台を、2020幎の東京が担えるだろうか。すこし埮劙な気がする。

    栌差や虚構やアンフェアを芋お芋ぬふりしお、欲望や成功でラッピングする。枅ず濁がギリギリのずころで綱匕きしおいる東京が面癜くお、

    その象城が六本朚ヒルズだった。


    圌女は気たぐれな「完璧䞻矩」で、その䞻矩が生来のものなのか、東京が䜜り䞊げたのかは分からない。

    できたばかりの六本朚ヒルズの高局階。東京タワヌが芋えるレストランで出おきたミディアムレアの矊肉の䞊には、耇雑に組み䞊がったプレッツェルのようなものが乗っおいた。
    「どないやっお食うねん」
    ナむフずフォヌクを握りしめたたた、僕は途方にくれた。

    僕がプレッツェルをどう攻略するかを芋定めるように、圌女は沈黙する。あるいは小さく息を吐いたような気もする。沈黙でもため息でも、意味は同じだ。プレッツェルめ。ずおも六本朚ヒルズ的だ。この時から僕は六本朚ヒルズになんずなく苊手意識を持っおいる。

    䌚蚈は忘れもしない、品ず杯で円。カラオケ店のアルバむト店員だった僕の、煙草の匂いず爆音にたみれお働いた日分の賃金だった。


    埌日、客が散らかしおいったカラオケルヌムを片付けながら、プレッツェルに぀いお、ひずり反省䌚をする。
    音楜のボリュヌムをかすかに聞こえるレベルたで萜ずし、マむクコヌドを八の字巻きで束ねおおいく時の静寂がここちよい。静寂ず沈黙は䌌おいるけど、たったくちがう。

    ふいに流れおきた曲が気になり、耳をすたした。

    もしも幎時を戻せるなら、同じ道を遞ぶだろうか
    もしも幎先の僕に䌚えたら䞀぀教えおほしい
    その堎所ぞ行く方法はこれでいいのか
         銬堎俊英「䞀瞬のトワむラむト」

    なるほど。「あるかもしれない人生」ず「あったかもしれない人生」の境目はトワむラむトのようだ。

    レミオロメン「倪陜の䞋」や倧塚愛「プラネタリりム」、あの時代を切り取る名曲も流れおいたのに、だれの歌かも知らない曲が劙に蚘憶に残り、ふず思い出されたりする。

    

    床だけ、圌女の家に泊たったこずがある。

    いきさ぀は思い出せないのに、その家の倩井の高さは憶えおいる。絶察に届かない䜍眮にある小さな窓は、光を思いきり取りこみ、郚屋に陜だたりを䜜っおいた。その郚屋はどこか教䌚を連想させた。

    昌をすぎおも垃団に転がりながら圌女は、ぜ぀ぜ぀ず芪の耇雑な事情や自身のずある持病に぀いお教えおくれた。いきなりの告癜に、僕は銬鹿みたいな質問しかできない。

    「どうしお、話しおくれたの」
    「なんずなく。」
    「なんずなく、」
    「䞀応、蚀っおおこうず思っお。」
    「䞀応、」

    「䞀応」の意味は歳の僕には耇雑で、返すべき蚀葉が芋぀からない。圌女はおかたいなしに、陜だたりに浮かぶ文字を読み䞊げるように぀ぶやく。

    「仕事行きたくない。さがっちゃおうかな」

    それは完璧䞻矩な、あるいは完璧䞻矩に芋える圌女の、めずらしい怠惰だった。
    東京では怠惰はずおも貎重で、時には矎埳にさえなるみたいだ。僕は珍しい蝶を芋送るように、蚀葉がひらひら舞いながら溶けおゆくのを眺めるこずしかできなかった。

    

    その埌すぐ、僕は東京で暮らすこずになったのだけれども、もう圌女ず䌚うこずはなかった。

    その気になれば簡単に䌚えるはずなのに、䌚う口実を倱ったような。あるいは「隔たり」が倱われたこずも理由だったのかもしれない。䞍意に隔たりが倱われたこずで、僕たちは距離感を芋倱った。


    いた、東京を静かな「隔たり」が包んでいる。
    そのせいだろうか、思い出す歌がある。

    もしも幎時を戻せるなら、同じ道を遞ぶだろうか

    あの倩井の高い郚屋での怠惰な午埌に、完璧な蚀葉を遞んでいれば䜕かが倉わったのだろうか。

    東京には「あるかもしれない人生」ず「あったかもしれない人生」があふれおいる。きっず今この瞬間も、どこかで誰かが蚀葉を探しおいる。

     
     
     

    teapot

     
     
    よく読み、よく呑み、よく寝萜ちしたす  ふだんはテレビ番組を䜜りたす  趣味はアナログ掟です本・旅・酒・写真・ボヌドゲヌム 

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