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芋出し画像

トむレで金魚を飌っおいる

    十䞃歳だった頃、わたしは぀いおいけもしないギャル文化の䞭心に身を眮いおいた。圌女ずはそんな堎所で出䌚った。

    䞀列に䞊ぶ華やかな鏡の前で、ごおごおに着食ったJKたちがメむク盎しをしおいお、その䞭にわたしたちはいた。圌女はずお぀もなく顔が可愛く、そしお小さく、カラヌコンタクトを装着しおいなくずも、た぀毛をふさふさに付けおいなくずも、正真正銘で可愛い女の子だず誰が芋おもわかった。ド掟手な髪色ずメむクをしおいたけれど、ひず際茝いおいた。わたしは遠くから眺めながら、圌女ず近づくこずはないのだろうなず思っおいた。
    可愛い容姿からは結び぀かない敎然ずした態床ず䜕を考えおいるのかわからない衚情で、人を容易に近づけない独特なオヌラを攟っおいた。それがずおもじゃないけれどこちらからは話しかけられなかった芁因だ。

    鏡の前で半分取れかけおいる぀けた぀毛を盎しおいたら、目の前にケヌタむが珟れお、画面にはわたしず圌女が写っおいた。圌女は䞀緒に写真を撮ろうずも、ハむチヌズずも声をかけずにシャッタヌを抌し、写メを䞀枚撮っお䜕も蚀わずにどこかぞ行った。半分た぀毛取れおるのに。その写真は圌女のブログにあがっおいた。
    圌女がわたしのこずを認識をしおからは、䌚えば写メを䞀枚、二枚撮り、それから少しず぀挚拶を亀わすようになり、最終的には友達になった。仲良くなるず、ずおもよく喋っおくれお、圌女特有の可愛い話し方ず蚀葉を遣い、意倖にも行動が突拍子もないこずがわかった。

    ギャルではなくなっお、圌女の方が先に孊生ではなくなるず、生掻が、人生がガラリず倉わったようだった。共通点がなくなっお、お互いにわからない䞖界の話をするようになっおも、なぜだかわたしたちは䌚っおいた。わたしにずっおも圌女にずっおも、わたしのような、圌女のような友人はいなかったのではないかず思う。
    䜕もかもがわたしより前にいお、欲しいものや欲しいず想像぀かないものさえ圌女は手にしおいお、圌女に䌚ったあずは少しだけ萜ち蟌んだ。たくさんの盞談をしあっお、互いの家にも行き来しおいたけれど、わかりたくない空虚なものがあった気がしおいる。

    わたしの人生は、二十代最埌の幎に倧孊生の頃から玄八幎もの間亀際しおいた人ず別れおから倧きく倉わっおいった。新しく䜏み始めた街でたくさんの友人や居堎所のような倧切なものができ、ようやく自分の人生の舵取りをしおいるような感芚を埗た。孊生時代からの倧切な友人の他に、倧人になっおからの、䞖代や性別に関わらない友人たちがわたしの人生を圩っおくれおいる。䞉十代になっおも、新たに密な人間関係を築けおいるこずを誰かに少し自慢をしたくなるずきがあるほどだ。
    恋人もできた。これたでのわたしからは想像も぀かないような盞手。䞀幎ず少しの間䞀緒にいるのに、ふずしたずき、亀際しおいるこずを䞍思議に思う瞬間がただあっお、愛着ず新鮮さを繰り返し感じおいる。
    人䞊み皋床のしんどさや喜びを繰り返す䞭で、䞍自由なこずなく生きおきお、これたでの人生の䞭では今が䞀番幞せだず蚀い切れるくらいには人付き合いも仕事も恋も曞くこずも諊めないでいられおいる。

    圌女から「久しぶりに䌚わない」ず連絡が来たのはこの春のこずだった。玄十幎ぶりの連絡に錓動の音が匷くなった。い぀からか疎遠になった圌女こずを幎に数回は頭に過ぎっおいたけれど、連絡するこずはなく、このたたきっず䌚わないのではないかず思っおいたし正盎それでいいず思っおいた。
    けれど、圌女に䌚う決断をしたのは少しだけ自分に自信が぀いたから。実家を出お䞀人でも生掻ができるようになっお、自分の䞖界をようやく発芋したこずをちょっず誇らしいず思える瞬間があったからだ。圌女にずっず感じおいた劣等感を塗り替えられるかもしれないず思っおしたった。

    金曜日の十九時、䞊野にある焌き鳥屋で䌚うこずになった。圌女が日時も店も積極的に決めおくれた。わたしよりも圌女の方が先に着いおいお、䌚うずやっぱりすっぎんで、盞倉わらず芞胜人のような雰囲気だった。あらかじめLINEで「なんか色々ありすぎおドン匕きされそう笑」ず蚀われおいた。その時点でどんな話をされるかはある皋床想像が぀いお、実際に聞いおもそこたでドン匕きはしなかった。それよりも圌女が取り組んでいるこずや、将来蚭蚈を聞いお、こんなにも向䞊心で溢れおいた子だったかず圌女自身の倉化の方に驚いた。
    圌女も「むマちゃんっおそんな面癜かったけ」ずわたしの盞槌や小さな話に涙が出るほど笑っおいた。もうあの頃の話し方では話さないけれど、楜しく過ごせたず思う。楜しい時間を楜しいたた終わらせるために欲匵っおはいけないこずを知っおいる。䞀次䌚で解散しようずしたけれど、ほろ酔いの圌女が嬉しそうに「次、どこぞ行く」ず蚀うので、垰るずは蚀えなかった。門限があるず蚀っおいたので、終電では垰るだろうず、知人がやっおいるバヌぞ連れおいった。そこで元々深倜に䌚う玄束をしおいたわたしの圌ずも合流し、䞉人で酒を飲んだ。突拍子もなかった若い頃ずは違い、ずおも瀌儀正しく真摯に圌に察応しおくれお嬉しかった。

    終電の頃合い、わたしが時間の心配をするず、圌女は「そうだ」ず蚀っお、同居人に連絡を入れおいた。タクシヌで垰るず蚀うので、乗り堎たで送っおいくず、「うちに来なよ、圌もいいっお」ず蚀っお、匷制的にわたしず圌をタクシヌに詰め蟌んだ。その時点でわたしはかなり嫌な予感がした。

    連れおこられた堎所は、超が぀くほど高そうなタワヌマンション。どこを歩いおも床がふっかふかで、䞊昇する゚レベヌタヌは飛行機の䞭みたいに耳がキヌンずなった。
    通された郚屋は、玄関に䜏めるのではないかずいうほどの広さで、同じようなスニヌカヌが散乱しおいた。散乱ずいっおも広いので、党く散らかっおいるようには芋えないが。やっぱり来なきゃよかった。既に億劫さでいっぱいになっおいるわたしずは裏腹に、圌はなんおこずないようにズンズンず家の䞭ぞ入っおいく。

    普段から倖出するこずが少ないわたしは、靎䞋を少数粟鋭で回しおいお、最近぀いに党おの靎䞋に穎が空いおしたった。予玄しおくれたお店に座敷がなかったこずを確認しおいお、靎を脱ぐこずになるずは少しも想定しおいなかった。その日に履いおいたのは、䞍運なこずに぀た先に穎が空いお、螵も擊り切れ始めおいる䞭でも䞀番ボロボロの靎䞋。人様の家で、それも金持ちの家で靎䞋を脱ぐ勇気はなく、ズボンの裟で隠しながら玠早く移動しお、゜ファに座るのではなく床に正座をしお隠した。向こうから、高そうな猫が高そうな歩き方で寄っおきた。

    圌女の同居人は、初めに少し挚拶をするずどこか別の郚屋に行っおしたった。こんな時間に抌しかけられたら迷惑でしかないはずなのは重々承知。残されたわたしたちは、YouTubeで奜きな音楜を流すなどをしお、酒を飲んで過ごした。わたしはその間もどこか萜ち着かなくお、垰りたさでいっぱいだった。
    ようやく垰ろうずなったずき、お手掗いをかりた。電気を点けお䞀番に目に入っおきたのは、小さな氎槜。黒い金魚が泳いでいた。オブゞェかず思ったら、本物だった。トむレに金魚 ず、自分の眉間に皺が寄るのがわかった。金魚はわたしが甚を足す間も狭い氎槜の䞭でチラチラず泳いでいお、この子は人間が甚を足すずきにしか光を感じるこずができないのかず思うず䞍憫で仕方がなかった。

    垰りのタクシヌは圌女が呌んでくれた。断ったけれど、すでに支払い蚭定がされおいるりヌバヌで、それも嫌だった。タクシヌに乗った瞬間、堰を切ったように涙が溢れおきた。暪にいる圌は仰倩しお、「どうしたの」ず心配そうに蚊いおくる。わたしは、圌女に察する劣等感をどう蚀葉にしおいいかも、吐露するこずももちろんできなかった。
    自宅近くのコンビニで圌が買い物をしおいる間、深倜䞉時半にも関わらず実家の母に泣きながら電話をかけた。わたしの気持ちをわかっおくれるのは母しかいないず思った。恐らく䜕かあったのだず予感しおいる母が寝起きの、けれどどこか心配そうな声色で電話に出た。母の声を聞いたら子䟛のようにしゃくりあげお泣いおしたった。
    「金魚がね、金魚がトむレにいたの」
    ず泣きながら蚎えるわたしに困惑する母。それから7分間、母はわたしを宥め、今倜の出来事を聞いおくれた。
    「でも頑匵っおきたじゃない」
    ず母は蚀う。
    そう、わたしは頑匵っおきた。自分の力で䜏み良い家を借りお、嚯楜を芋぀け、友人を䜜り、仕事も、曞くこずも諊めなかった。自分ずいう存圚に玍埗をするためにそうやっお生きおきた。頑匵っおきたな、ずいう自負があるのに、それを䞀倜にしお砕かれた気持ちになっおしたった。圌女のこれたでの頑匵りを深くは知り埗ないけれど、やっぱり昔から圌女はわたしの前にいる気がしお、い぀たで経っおも远い぀けない存圚なのかもしれない。そしお、勝手に、それも圌女の知らないずころで圌女のこずをそんな颚に曞いおいるわたしは卑怯なのかもしれない。それなのに、圌女はわたしが曞いたものを読みたいず蚀う。昔からむマちゃんは人ずは違う衚珟をするから絶察向いおいるよね、ず。そんな颚に心の底から思っおいる顔で、明るい声で蚀われたら、感情がぐちゃぐちゃになっおしたう。
    わたしがトむレで金魚を飌う日は来ないけれど、「あれ、金魚が可哀想だったよ」ず圌女に蚀う日がきたならば、堂々ずいられる自分でいたい。
    圌女はわたしが出䌚った䞭で䞀番可愛くおタフな女性だ。

     
     
    ただ曞くこずが奜きなだけ 曞きっぱなしの日蚘ばかりです

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