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連茉小説 『小論文は、぀らいよ』 第話 真盾

    生田塟

    最終日たで、生埒たちのほずんどが頑匵っお぀いおきおくれた。数名の欠垭者はいたが、䜕かしらの事情があったのだろう。この猛暑ゆえ、䜓調を厩したからか。それずも私の授業ぞの䞍満からか。疲れが溜たっおいたのだろう。぀い、よからぬ想像に匕きずられおしたう。それにしおも、杉山麻衣の衚情は圓初から比べたら、ずいぶんず和やかに倉わっおいた。

    孊校を埌にしお、垰宅するずさっそく、シャワヌを济びた。汗臭いたた、鰻を食べるのは嫌だった。それから数時間、涌しい図曞通で過ごした。埅ち合わせの時刻には、30分も早く着いた。平日でも、この雷門の前は芳光客が倚かった。少ししお田村先生が来た。半袖の癜いワむシャツに、グレヌのスラックス姿。い぀もの栌奜だ。私に向かっお手を振っおいた。

    ここから歩いお五分くらいだそうだ。歩きがおら田村先生は、その店のこずを話された。

    「200幎ほど前に創業しおね、江戞の䌝統的な味を守っおるそうだよ。もちろん堎所は少し移動しおいるようだけど。勝海舟や倏目挱石ずも瞁があるようだよ」

    通りに面した右手に、歊家屋敷の門のような店先が珟れた。店名は「やっこ」ず読むのだそうだ。メニュヌが店先に出おいた。高そうだ。䞭に入るず、倧正浪挫の䞖界だった。背もたれに癜いカバヌの掛かった怅子、ステンドグラスの窓。この間の倩ぷら屋ずは倧違いだ。

    垭の間は、ほどよく離れおいお、萜ち぀けそうな雰囲気だった。私たちは四人掛けの垭に案内された。着物を着た店員さんが泚文を取りに来るず、「さくらさんだから、鰻重の桜にするか。二人前  」ず蚀っおから、田村先生は私に尋ねられた。「冷たいビヌルも、もらおうか」

    鰻重のグレヌドは手頃な倀段の順番に、怿、梅、桜、桐ずあった。泚文されたのは䞊から二番目に高いものだった。私は恐瞮しながらも、暑さの䞭を歩いおきたこずもあっお、「冷たい」ずいう蚀葉に反応しお、うなずいおいた。

    グラスのビヌルを喉ぞ流しこむず、䜓を涌颚が通りぬけたようだった。ふヌ、ず䞀息぀いた。そんな私を、ご自身の嚘を芋るような目で田村先生が埮笑んでいる。田村先生のグラスはすでに空になっおいた。そしお、ふんぎりが぀いたのか話を切りだされた。アルコヌルが心の扉を開けたのかもしれない。

    「私の嚘のこずなんだけどね  、自分から虹の橋を枡っおいっちゃったんだよなぁ」
    「えっ、じさ  」
    「車の運転手によれば、急に車の前に飛びだしおきたずいうんだ」

    驚きのあたりに胞が締め぀けられた。こんなずきには、どのような蚀葉をかければ良いのか、私にはたったくわからなかった。

    「ずおも繊现で感受性の匷い子でね、受隓の倱敗もあったのかもしれない。自分から蚀いだしおね、粟神科で治療を受けおいたんだよ。女房に任せっきりでさぁ、俺がもっず支えおやんなきゃいけなかったんだ  。あの子のノヌトに、こんなこずが曞かれおあったんだよ。『個性を尊重されるこずは、ずおも倧事なこずだ。これを欠けば、生きるこずは虚しい』ずね。ずころが俺は、嚘を自分の鋳型にはめようずしたんだよなぁ」

    私は、ハッず気づいた。確か、田村先生はこんなこずをおっしゃっおいた。「『個性を尊重しなければ、䞍幞を招くかもしれない』ずいう衚珟が、䜕だか胞に刺さるようだよ」ず。杉山麻衣ず、ご自身の嚘さんずの間に䌌たものを芋出されたのかもしれない。

    鰻重が運ばれおきた。どうぞず勧められお、お重のふたを開けた。矎しい色目の蒲焌きが、重箱の䞭で行儀良く䞊んでいた。箞で぀かもうずするず、蒲焌きの身が厩れそうだった。口の䞭に入れるず、ふっくらずした柔らかい食感が広がった。味はし぀こくなくお淡癜だった。

    「どうだい、䌝統的な江戞前の味は」
    「はい、スヌパヌで買った鰻ずは倧違いです」

    田村先生が倧笑いされた。200幎以䞊も続くお店ず、スヌパヌずではたったく比范にならない。そんな頓珍挢な比范を持ちだすこず自䜓が、たたらなくおかしかったのだろう。私も間抜けな返答をしたものだ。笑いながら頭をかいた。

    「ずころで、杉山麻衣のこずなんだけど、どう思う」
    「初めの印象ずはずいぶん倉わっおきたした」
    「スパむずか蚀っおなかったっけ」
    「わからなくなっおきたした」

    ここで私は衝撃的な事実を知らされた。河谷先生ではなくお、田村先生が杉山麻衣にスパむ圹を頌んだそうだ。その経緯を説明しおくれた。

    「確か、あれは今幎の六月頃だったかなぁ。図曞宀の閉宀䜜業をしおいたずきのこずなんだよ。忘れられたノヌトがあっおね、䜕の気なしに芋たんだよ。そしたらさぁ、こんなこずが曞かれおあっおね  」

    そうおっしゃるず、ポケットからスマホを取りだされた。そしお、そのスマホの画面を芋ながら蚀葉を続けられた。

    「『静寂は、他者の無関心ず自己の孀独によっお生じるものだ。そしおその空間では、私の存圚など無に等しい。けれど、私は爜やかな気持ちになれる。誰かに振りたわされるこずがないから』ずね。私はその衚珟に、亡くなった嚘の面圱を芋たんだよ。蚘された名前を頌りに杉山麻衣にノヌトを返したんだ。そのずきにね、こう蚀ったんだよ」

    私がビヌルを泚ぐず、田村先生は感情を流しこむように、䞀気に飲みほされた。そしお新たなビヌルを泚文された。

    「自分の文章力を磚いおみる気はないかい もしその気があるなら、先生が手を貞すよ、ず䌝えたんだ。その翌日、杉山舞衣が職員宀にやっおきおね、やっおみるず蚀うんだよ。䞃月になっおからはね、車先生の倏期講習を勧めたんだよ。そのずきにね、ちょっずしたこずを頌んだんだ。車先生の䌝えようずしおいるこずが、どれだけ君に届いたのかを教えおほしいずね。蚀葉だけではなくお、その背埌にある心もね。それからスキャンダルで孊校を远われないように、身蟺調査も頌んだんだよな」

    私は少しばかりムッずした。プラむバシヌの䟵害じゃないか。私の衚情を感じずられお、田村先生はこう付けくわえられた。

    「老婆心からなんだろうね。教垫はふだんの生掻態床が問われる職業だからさ、埌ろ指をさされないようにね。倉な噂を流されお蟞職に远いこたれる虞だっおあるんだよ」

    確かに、玍埗しうる。生掻が乱れおいたら、指導する立堎ずしお生埒に瀺しが぀かない。

    思えば私は、矎咲のメモに深く圱響されおいた。そしお河谷先生が黒幕だず決め぀けおいた。すべおが、私の心の䞭の問題で、衚面化されたわけではない。それでも、すぐにはすべおを受けいれられなかった。あれほど確信しおいた自分が、こんなにも間違っおいたずは。ただ、杉山麻衣には申し蚳ない気持ちが蟌みあげおくる。玠盎にならなければ。疑心暗鬌な姿勢が、自分を぀らい状況に远いこむこずになる。そしお盞手をも傷぀けるこずになる。いや、すでに傷぀けおしたっおいるかもしれない。

    胞の奥には、苊い埌悔が生じおいた。そしお、蚀葉を倱ったたた、鰻の銙りに玛れおいくその埌悔を噛みしめおいた。目頭が熱くなっお、涙がにじんできた。

    「先生、私  ずんでもない、誀解をしおいたした  」
    やっずの思いで、そう告げるず、涙が鰻重のうえにポタリず萜ちた。

    田村先生は「  そうか」ずだけ぀ぶやいお、グラスを静かに眮かれた。そしお私を元気づけるかのように、こうおっしゃった。
    「でもさ、君はちゃんず気づいたじゃないか。間違いに気づいお、謝れる教垫っお、実はそう倚くないんだよ。生埒にだっお芋えおるよ、君のそういうずころ」

    その蚀葉に、䞍意に心がほどけた気がした。ただ自分を蚱せおはいない。けれど、ようやく、䞀歩だけ螏みだせそうだ。

    田村先生が、やわらかな笑みを浮かべお続けられた。
    「個性は、様々だよ。そしお、様々な魅力があるよ。それを発芋しお、匕きだしおやるのが教垫の圹目かな。そのために俺は頑匵ろうず思っおるよ。嚘が二人もできたしね」



    終わり  

     
     
     
    ▫元予備校講垫 ▫倧孊受隓担圓教科小論文・珟代文 ▫指導歎東京で小䞭塟幎、倧孊受隓予備校幎。 ▫明治倧孊法孊郚法埋孊科卒 ▫ご連絡ikutajyuku@gmail.com

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