
板橋のファミレスで生まれた、ひとつの物語
あの日、私の中ではもう完成していた。
まだ世の中には存在していない物語。
タイトルも決まっていた。
登場するキャラクターたちもいた。
どんな性格なのか。
どんな姿をしているのか。
どんな声で話すのか。
頭の中では、もう動いていた。
私は昔から、いろいろなものを擬人化して考える癖がある。
数字や仕組みだけを見るのではなく、 「もし、そこに誰かがいたら?」
「その存在は、どんな気持ちで働いているんだろう?」
そんなふうに想像してしまう。
その物語の始まりは、自分の身体だった。
血液検査をすると、白血球の数値が高いことが多かった。
その時、私は思った。
「私の身体の中で、白血球さんたちは毎日大変な仕事をしているんじゃない?」
見えない場所で、何かと戦っている。
毎日、身体を守るために働いている。
きっと休みも少ない。
トラブル対応ばかりで、残業続きなのではないか。
「これ……白血球さんから見たら、私の身体って超ブラック企業なのでは?」
そんなところから、キャラクターが生まれていった。
私の中の白血球さんは、完璧なヒーローではなかった。
現場に出続ける、疲れた会社員のような存在だった。
目の下にはクマがある。
大変な仕事をしているけれど、文句も言わず(たまに愚痴る)、自分の役割を果たしている。
そんな姿だった。
そして、身体の中を移動して働く姿を想像しているうちに、さらにイメージが広がっていった。
「これって、配送業者さんみたいだな」
そこから制服のイメージまで決まっていった。
キャラクターには、ひとつひとつ理由があった。
なぜこの姿なのか。
なぜこの役割なのか。
自分の中では、全部つながっていた。
私は医療に関わる仕事に興味を持ち、調剤薬局事務の資格を取得していた。
そして患者側になった時、何度も思ったことがある。
「もっと分かりやすく説明してもらえたらいいのにな」
医療の世界では当たり前の言葉でも、患者にとっては不安になることがある。
だから思った。
難しい医学の話を、誰でもイメージできる形にできたらいい。
先生の説明を聞いた時に、頭の中で映像が浮かぶようなキャラクターがいたらいい。
子どもにも。 お年寄りにも。
身体の中で何が起きているのかを、怖がらずに知るきっかけになるような存在。
そんなアイコンになるキャラクターがいたらいい。
そんな未来まで、私は想像していた。
そして、その話をした場所が、板橋のファミレスだった。
その日は、ただ思いつきを話していたわけではなかった。
話しながら設定はどんどん広がった。
キャラクターの性格。
世界観。
アニメになった時の姿。
声のイメージ。
さらに、どんな場所で届けられるだろう。
子ども向けの絵本になったらいい。
医療を学ぶ人たちにも届いたらいい。
健康について考えるきっかけになったらいい。
ひとつの物語が、誰かの役に立つ未来を想像していた。
数年後、私はある作品を見て、不思議な気持ちになった。
驚きもあった。
戸惑いもあった。
正直に言えば、悔しさもあった。
「なんで?」
そう思った瞬間もあった。
自分の中で大切に温めていた世界が、別の形で世の中に現れているように感じたから。
でも、時間が経って、少しずつ考え方も変わった。
もちろん、もし自分の作品として世に出ていたらと思う気持ちはある。
それで人生が変わっていたかもしれない。
でも、私が最初に願っていたことは何だったのか。
それは、 「誰かに届く物語を作りたい」 ということだった。
身体のことを知るきっかけになる。
不安を少し軽くする。
誰かの役に立つ。
もし、形は違っても、そんな未来につながっているのなら。
あの日、板橋のファミレスで語っていた物語は、 私の中では確かに生きていた。
そして今でも思う。
物語は、生まれた瞬間から誰かに届く可能性を持っている。
その形がどうであっても、 誰かの世界を少しでも良くすることができたなら。
それは、ひとつの意味のある物語なのだと思う。
次回。
板橋のファミレスで生まれたキャラクターたちについて。
白血球さんが、なぜ「身体の中で働く、疲れた労働者」として生まれたのか。
私の頭の中で、すでに動き出していた世界の続きを書いてみようと思います。
つづく
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