
終伝屋<しゅうでんや>~バレンタインの奇跡~#8「アフタートーク③夫と妻、そして息子」
旦那から『今、どこにいる?』というメッセージが私の元に届いた。
初めて連絡もなしの朝帰りをしてしまった。
実家からも朝早くから『夏樹くんが泣いているから早く迎えに来て』と連絡がある。
なんだか、ついさっきまで夢を見ていた気がした。
どんな夢か覚えていない。でも、今まで泣きたい気持ちでいっぱいだったのが心が穏やかな気持ち。とても清々しい。
私は旦那と実家両方に連絡をした。
旦那には、『もう少しで家だから心配しないで』と。
実家には、『今から迎えに行く』とそれぞれ返した。
*
「ごめんね、お母さん。夏樹のこと急にお願いしちゃって」
「全然良いけど。夜中、急にねママ、ママ言いながら泣いていたの。その前まではぐっすりだったのに。でもその後何かが夏樹の中にスッと入ったように、笑顔になってスヤスヤ寝始めたのよ」
なんだか夢の中で夏樹への想いを吐露したことを思い出した。
それが伝わったのかなって。
「そうだったんだ……」
「ほら、今も。さっきまで泣いていたのに、ママが来てから嬉しそうな顔をしているわね~、可愛い」
*
息子の夏樹を実家から引き取った後、自宅に戻ってきた。
玄関を開けると旦那が「薫!どこ行ってたんだ!?心配したぞ……」と私を抱擁する。
今まで旦那の帰りを待っていた時とは違う描写で新鮮で、少し泣きそうになった。
「……ごめん。晴臣、ただいま」
「おかえり」
玄関からリビングに到達したとき、旦那は「あの手紙、読んだよ」
少し考えた。手紙とは何のことだろうかと……。
思い出してはいないけれども、夏樹と同じように旦那に対しても想いを吐露したことだけはなんとなく覚えていた。
「読んだんだね……」
「あぁ……俺は浮気なんかしていないから。本当に」
私を見る旦那の目は力強く、嘘をついていない目であった。
「疑って、ごめんね……でも、どうして帰りが遅いの……?」
「疑うような行動してしまったことは謝る。……実はな、これ……」
そう言って渡してきたのはチョコレートとお花。
「これ、どうして……?」
「今日はバレンタインだろう?今日の為に会社の女子社員に色々リサーチしていたんだ。バレンタインに何貰ったら嬉しいか……って」
「え……?」
旦那はイベント事は好んで実施していた。
誕生日、クリスマス、ハロウィン、お花見、ホワイトデー、もちろんバレンタインも。
でも今までは無難で普通なものだった。リサーチするとか下準備なんてしていなかったのに。
「でも急にどうして……?」
「夏樹が産まれてもう少しで半年だろう?一緒に家事と育児をしていたとしても、薫の方が俺よりも一生懸命に頑張っていることを知っている。だからせめてでもと思い、バレンタインの今日の為に忙しいなんて嘘をついた。ごめん」
「ううん。嬉しい」
私は旦那の本当の気持ちと旦那が私を誰よりも想っていることを知り、今すぐにでも泣きたくなった。
でもここまで頑張ってきて泣いてしまったら、これから先、旦那に甘えてしまいそうになったので泣くことはやめた。
「──この花って何……?」
「イエローラナンキュラス。花言葉は、優しい心遣い。いつも俺の為に色々心遣いをしてくれてありがとう。薫、大好きだよ」
「こららこそ、ありがとう」
──私の夢に出てきた。どなたか存じ上げませんが、私の悩みを聞いてくれてありがとう。
素敵なバレンタインが送れそうです。
(了)