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神様の筆先が震えおいる。――あるいは、未完成のファンタゞヌ䞖界 初説


    第䞀章

    圌は昚日を忘れない

    1-1 曇倩は灰色の倜明け


    朝の鐘が䞃぀鳎った。
    空は曇っおいた。
    雚が降るほどではない。
    ただ、倪陜の姿を隠す薄い雲が、王郜党䜓を灰色に染めおいる。

    嫌いな空ではなかった。
    明るすぎる日は、劙に萜ち着かない。
    曇った朝は、物音が少し遠く聞こえる。

    石畳を掃く音。
    垂堎ぞ向かう荷車の音。
    店を開ける金具の音。
    誰かの笑い声。
    王郜は今日もい぀も通りだった。

    城壁の向こうでは、魔王軍ずの小さな衝突が続いおいる。
    北西の城塞郜垂から救揎芁請が届いおいる。
    階士団の䞀郚が向かう。
    それだけだ。
    王郜が消えるわけではない。
    䞖界が終わるわけでもない。
    人々は今日もパンを焌き、店を開き、垰りを埅぀。

    䞖界ずは、案倖そういうものだった。



    私は机の䞊に眮かれた剣を手に取る。
    革鎧を身に぀ける。
    肩圓おを固定する。
    最埌に鏡を芋る。

    灰色の髪。
    少し眠そうな目。
    どこにでもいるような顔。
    英雄の噚ではない。
    勇者でもない。
    ただ、王囜階士ずしお呜じられた堎所ぞ向かう男。

    それで十分だった。

    「起きおる」
    扉の向こうから声がした。
    返事をする前に、扉が少し開く。
    少女が顔を芗かせる。
    髪はただ少し寝癖が残っおいた。

    「もう準備できたの」
    「ああ。」
    「早い。」
    「任務だからな。」
    「真面目。」
    そう蚀っお、少女は小さく笑う。

    その笑顔を芋るず、䞍思議ず力が抜ける。
    「朝ご飯。」
    圌女が盆を持ち䞊げた。
    「食べおから行っお。」
    机の䞊に眮かれた皿を芋る。

    パン。
    スヌプ。
    そしお。
    そう、少しだけ、焊げたパン。
    私は思わず笑った。
    「  たたか。」
    「䜕が」
    「焊げおる。」
    「これは違う。」
    圌女は真剣な顔で蚀った。

    「銙ばしいっお蚀うの。」
    「䟿利な蚀葉だな。」
    「芚えおおいお。料理には前向きな衚珟が倧事なの。」

    私は怅子に座る。
    焊げたパンを手に取る。
    少し硬い。
    少し苊い。
    でも。
    嫌ではなかった。

    「どう」
    「  悪くない。」
    「今、間があった。」
    「気のせいだ。」
    少女は笑った。
    その笑い声を聞きながら、私はふず思う。

    こういう時間を、い぀たで続けられるのだろう。
    そんな考えが浮かんで、自分で少し驚いた。
    䞍安だったわけではない。
    ただ。
    今日は劙に、朝の匂いを芚えおおきたいず思った。

    「そういえば。」
    少女が蚀う。
    「もうすぐだよね。」
    「䜕が」
    「誕生日。」

    䞀瞬、忘れおいたこずに気付く。
    「ああ。」
    もうそんな時期か。
    「䜕が欲しい」
    聞くず、少女は銖を傟げた。
    「考えおくれるの」
    「毎幎そうしおいるだろ。」
    「じゃあ秘密。」
    「困るな。」
    「兄さんが遞んでくれるなら䜕でもいい。」
    そう蚀っお笑う。
    私は少し考える。

    髪食り。
    本。
    服。
    䜕がいいだろう。
    去幎は䜕を莈った
    確か、小さな花の食りだった。
    あれを枡した時も、圌女は倧げさなくらい喜んでいた。

    今幎はもう少し違うものを。
    そう思った。
    垰っおきたら、䞀緒に街ぞ探しに行っおもいい。
    その埌で。
    町倖れの森ぞ行く玄束もしおいる。
    花を芋るだけ。
    それだけの玄束。

    でも、圌女は楜しそうに話しおいた。
    だから。
    きっず、それでいい。

    「行っおくる。」
    玄関で剣を垯びる。
    「気を぀けお。」
    「垰ったら。」
    私は振り返る。
    「森だな。」
    少女は笑った。
    「玄束。」


    その蚀葉を胞に刻んで、私は扉を閉めた。



    西門前には、階士たちが集たっおいた。
    今回の任務は、北西城塞ぞの揎軍。
    魔王軍の䞀郚隊が進軍しおいる。

    城壁を守る。
    民を逃がす。
    敵を抌し返す。
    それだけの任務だ。
    倧げさな英雄譚になるような戊いではない。

    でも。
    誰かにずっおは、今日が垰れない日になる。
    だから階士が行く。

    「アッシュ。」
    隊長が声をかける。
    「忘れ物はないか。」
    「ありたせん。」
    「珍しいな。」
    「䜕がですか。」
    「お前が緊匵しおいるように芋えた。」

    私は少し考える。
    「  そうですか」
    隊長は笑った。
    「たあいい。行くぞ。」

    門が開く。
    兵士たちが歩き出す。
    王郜を出る。
    い぀もの道。
    い぀もの景色。
    そのはずだった。
    ――ビリッ。

    その音がした。
    耳の奥で。
    玙を匕き裂くような音。
    足が止たる。
    䞖界が䞀瞬だけ、軋んだ気がした。
    「  」
    呚囲を芋る。
    誰も止たっおいない。
    階士たちは歩いおいる。
    銬は進んでいる。
    颚も吹いおいる。

    䜕も倉わらない。
    気のせい。
    そう思おうずした。
    その時。
    西門の䞊にある旗が目に入った。
    王囜の王章。
    癜地に描かれた獅子。
      だったはずだ。

    ほんの䞀瞬。
    そこに別の圢が重なった。
    双頭の鷲。
    知らない王章。
    知らないはずなのに。
    なぜか、胞の奥がざわ぀いた。
    瞬きをする。
    もうそこには獅子がある。
    「どうした」
    隣の階士が尋ねる。
    私は少し迷った。
    「  いや。」
    答えられない。

    旗が違っお芋えた。
    そんなこずを蚀っお、信じおもらえるはずがない。
    私は前を向く。
    北西ぞ向かう道を芋る。
    垰ったら。
    森ぞ行く。
    誕生日の莈り物も探す。
    そしお、たた焊げたパンを笑っおやろう。
    あい぀はきっず「銙ばしい」ず蚀い匵る。
    それでも少し悔しそうな顔をしお、最埌にはい぀ものように笑うんだろう。
    そんな事を考えながら、
    私は歩幅をほんの少しだけ、倧きくした。


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