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柚木麻子『BUTTER』感想

    柚木麻子さんの長編小説『BUTTER』を読み終えた妻が、眉間に皺を寄せながら私に尋ねた。

    「水島さんって誰だっけ……?」

    夫婦で交代しながら読み進めたので、お互いに読み終えてから『BUTTER』の感想を言い合う約束をしていた。
    ちなみに水島さんは第6章の序盤で登場する人物だ。

    さて、私はまだ『BUTTER』の感想を妻に伝えていない。
    簡潔に一言でまとめるには、本書はあまりにも濃厚すぎる。
    というわけでnoteの記事を通して、本書の感想を綴っていきたいと思う。
    ネタバレ有なので未読の方はご注意を。



    * * *



    主人公の里佳は、梶井真奈子に取り込まれないよう、十分に警戒しているつもりだった。
    しかし結局は、里佳は梶井の手のひらの上で転がされていたようなものだったのだ。

    きっと、詐欺師に騙されるのって、こんな感じなんだろう。
    私は、里佳や死んだ被害者たちのことを笑えないと思った。

    梶井の気持ちを理解するためなら、どんなにおかしな行動にも手を染める可能性は誰にでもあるのではないだろうか?
    自分自身の暴走に気づくことは容易ではないし、気づいた時には大抵かなり状況は悪化しているものだ。
    私もそういうタイプの人間だと思う。

    さて、里佳の暴走と、親友の伶子の暴走は、性質がかなり違う。
    里佳も伶子も、梶井の言葉に操られるように行動しているように見えるが、ブーストのかかり方が全く違った。
    里佳が少しずつ梶井に魂を奪われていくのに対して、伶子は一瞬で最大ブーストを発動していた。
    たまたま梶井の一言が引き金になったというだけで、梶井がいなくても伶子は何らかの形で暴走していただろう。
    伶子には何をやらかすか全く予想がつかない危うさがある。

    里佳自身に狂気はそれほど感じられなかった。
    里佳にはまだ、途中で引き返せたかもしれないという希望みたいなものが感じられる。
    それに対し伶子は、おそらく梶井の洗脳はほぼ0の状態で、完全に自分の意思でクレイジーな計画を実行した節がある。

    その意味では本作品で最もぶっとんでる人間は伶子だったのかもしれない。

    正直、私の世代ってカジマナ事件ってそこまで興味ないんですよ、もともと。景気いい時代を引きずった価値観が背景っていうか。そのカジマナより、伶子さんの方がずっとぶっとんでて行動的で、断然面白いですよね。(有羽の台詞)

    柚木麻子『BUTTER』

    本書を読み終えると、バターを使ったお菓子などが無性に食べたくなるという話をよく聞く。
    私の妻も「熱々のごはんの上にバター醤油を乗せて食べたい」と言っていた。
    しかし私は逆で、バターが怖くなった。

    もしバターを口にしてしまったら、バターの魅力に憑りつかれてしまい、食生活も人生観も変わってしまうのではないかという恐怖を感じた。
    それに里佳のように10キロも太るのは御免こうむりたい。

     
     
     
    本を読みながら、日常の違和感を考えるnoteです。 「この世界、ちょっとしんどくない?」と感じることを、読書感想文とエッセイで言葉にしています。 読んだあと、景色を少し違う角度から見たくなる文章を目指しています。 時々イラスト、猫多め。 本や記事についての質問も募集中です!

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