
掌編夜話集 ep4|小さな魔法の夜
夜、老舗Barオシャンティに、小さな子どもの笑い声が混じった。
扉の向こうから顔を出したのは、常連の男性と、その娘。
「こんばんはぁ。あら、今日はお姫さまも一緒ですか」 ジェイコブがニコッと笑うと、 少女は恥ずかしそうに父の後ろへ隠れた。
「パパの好きな店、見てみたいって言うからさ」 「そりゃあ嬉しいですねぇ。じゃあ特別に、ジュース作っちゃいましょう」
ジェイコブは空のシェイカーを軽く振って、
「魔法入れますねぇ」とウインクした後、
グラスの縁を指で軽く弾く。
ちいさな音が店に響いた。
「はい、“おやすみ前の魔法ジュース”です」 「……ありがとう」 小さな声に、ジェイコブの笑顔がさらに柔らかくなる。
父親がグラスを傾ける間、 少女はカウンター越しにジェイコブをじっと見ていた。
「ねぇ、おじさん」 「はいはい」 「パパ、ここに来ると元気になるの?」 ジェイコブは一瞬だけ目を瞬かせ、 それからゆっくり頷いた。
「ええ、そうですよ。ここでは、みんなちょっと元気になります」
少女は満足そうに笑い、父の腕に寄りかかった。
帰り際、 「また来てもいい?」と聞かれて、 ジェイコブは胸の前で手を合わせた。
「もちろん。次はもっと魔法強くしときますねぇ」
扉が閉まると、 ジェイコブはふっと笑い、 シェイカーを軽く振ってみせた。 音は鳴らなかったけれど、 店の空気が少しだけ明るくなった。
ep5
帰る場所のない夜
ep3
閉店間際の客