
掌編夜話集 ep3|閉店間際の客
夜、老舗Barオシャンティは、そろそろ灯りを落とす時間だった。
バーテンダーのジェイコブがカウンターを拭きながら 「さて、今日は早めに寝られますかねぇ」 と呟いたその時、扉がちりんと鳴った。
「す、すみません! まだ大丈夫ですか!」 息を切らした若い男性が立っていた。
「ええ、どうぞどうぞ。間に合いましたよぉ」 ジェイコブはニコニコと迎え入れる。
男性は席に座ると、ほっと肩を落とした。 「よかった……今日、どうしても飲みたくて」 「何か、いいことありました?」 「はい。転職が決まったんです」
ジェイコブの笑顔がぱっと明るくなる。 「それはおめでとうございますねぇ。 じゃあ、祝いの一杯を作らないと」
手際よくシェイカーを振りながら、 ジェイコブはふと目を細めた。 閉店間際に駆け込んでくる人は、 たいてい“誰かに聞いてほしい話”を持っている。
「はい、“おめでとうカクテル”です」 「そんな名前あるんですか?」 「今できましたぁ」
二人で笑い合うと、 店の空気が少しだけ若返ったように感じられた。
男性が帰ったあと、 ジェイコブは時計を見て、 「……寝るのは遅くなっちゃいましたねぇ」 と嬉しそうに呟いた。