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黙って作る夜|掌編夜話集 ep9

夜のオシャンティに、湿った風が入り込んだ。
扉の前に立つ青年は、どこか落ち着かない様子だった。

「こんばんは。今日は…ちょっと疲れてますねぇ」 ジェイコブはいつもの笑顔で迎えたが、 青年の目の下のクマに気づいて、笑みがわずかに揺れた。

「強いの、いきます?」
「……うん。今日はそれで」

氷を落とす音が、店の静けさに吸い込まれる。 ジェイコブは手元を動かしながら、 青年の指先が震えているのを横目で見た。

一杯目を飲み干したあと、 青年はぽつりと呟く。

「……全部、終わったかもしれない」

その言葉に、ジェイコブの手が一瞬だけ止まった。

「そっかぁ……」

それだけ言って、彼は二杯目をゆっくりと作り始める。 いつもより、少しだけ丁寧に。

「これ、甘いけど強いです。  
今日は、こういうのがいいと思って」

青年は黙って頷き、グラスを口に運んだ。
その目が少しだけ潤んでいるのを、ジェイコブは見て見ぬふりをした。

帰り際、青年が「助かった」と小さく言うと、
ジェイコブは深く息を吸い、

「また来てくださいねぇ。ちゃんと作りますから」

と、いつもより静かな声で返した。

扉が閉まったあと、
ジェイコブは磨いていたグラスを胸の前で止め、
しばらくのあいだ、 そのまま動けずにいた。


ep8


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