
「無職です」と笑った夜。会社員じゃなくなった僕が困ったこと
「お仕事は、何をされてるんですか?」
初対面の飲み会で、そう聞かれた。
54歳で会社員をやめた井木はじめは、少し笑ってこう答えた。
「無職です。まあ、ニートみたいなもんです」
冗談のつもりだった。
でも、その言葉は思ったより重かった。

今回描きたかったのは、
「無職になった不安」ではありません。
本当に描きたかったのは、
自分の中では自由が始まっているのに、周囲からは心配される人になってしまう違和感 です。
会社員をやめた。
そう言うと、どうしても「大丈夫なの?」という目で見られることがあります。
もちろん、心配してくれるのはありがたい。
悪意がないことも分かっている。
でも、自分の中では少し違う景色が見えていました。
仕事の愚痴を言わなくていい。
平日に歩ける。
混んでいない温泉に入れる。
急がなくていい。
不安よりも、楽しみの方が多かった。
なのに、酒の席で「無職です」と口にした瞬間、
自分は急に「心配される側」になった気がしました。
1コマ目
友人に誘われて、野球好きの飲み会に顔を出します。
知らない人ばかりでしたが、場の空気は悪くありません。
大人になってからの初対面は、少し緊張します。
それでも、趣味の話があると場はやわらかくなります。
この時点では、まだ普通の飲み会でした。
2コマ目
自然な流れで聞かれます。
「お仕事は、何をされてるんですか?」
この質問は、会社員時代なら何も難しくありませんでした。
「会社員です」
「こういう仕事をしています」
それで済んでいた。
でも会社をやめたあと、この一言が急に難しくなりました。
早期退職。
サイドFIRE。
生涯設計。
どれも説明しようとすると長くなる。
だから、笑って短く済ませようとしました。
「無職です。まあ、ニートみたいなもんです」
3コマ目
冗談のつもりでした。
でも、場の空気が一瞬止まりました。
笑っていいのか。
心配した方がいいのか。
相手も少し迷っていたのだと思います。
誰も悪くない。
でも、その一瞬で、自分の立ち位置が変わったことを感じました。
少し前まで、自分も仕事の話をする側にいました。
上下関係。
決められた時間。
空気を読む会議。
体の奥に残った、あの重さ。
そこからようやく外に出たはずなのに、
外に出たら出たで、今度はうまく名乗れない。
4コマ目
帰宅後、深夜にパソコンを開きます。
平日の温泉宿を調べます。
週末より安い。
店も空いている。
朝風呂にも、ゆっくり入れそうです。
落ちぶれたように見えるかもしれない。
でも、自分としては違う景色を見てみたい。
会社の外で、もう一度ひとりの人間として何かできることを探してみたい。
うまく名乗れない。
でも、行きたい場所はある。
それが、会社員をやめたあとに最初に見えた景色でした。
次回は、ハローワークまで7km歩いて行った話を描く予定です。
失業保険を受け取る手続きなのに、なぜか会社員時代より緊張しました。
掲載時の注記
本作は実体験をもとにしたノンフィクション漫画です。
個人が特定されないよう、人物名・場所・趣味・年齢・一部の状況は変更しています。
ただし、出来事の中で生まれた感情は、できるだけそのまま描いています。